千葉県立中央博物館の鉱物

           千葉県立中央博物館の鉱物

1. 初めに

   私は、国内外の見知らぬ土地に行くと、そこにある自然史系の博物館や美術館
  などを訪れるのを楽しみにしている。
   某電子部品メーカーさんから招請をいただき、技術コンサルタントとして2008年
  1月末、千葉県に単身赴任した。

   千葉は、『石(鉱物)なし県』、と聞いてはいたが、どのようなものが産出するのか
  その全貌を知りたくて、千葉市にある「千葉県立中央博物館」を訪れた。実は、
  千葉の石友・Tさんから、千葉県立中央博物館が2000年にまとめた「千葉県の鉱物」
  なる文献を恵与いただいたことがあり、ここに行けば何か情報が得られるだろう、
  との目論見だった。

   前夜、こちらのメンバーと飲んだ深酒がたたり、朝起きたら8時過ぎで、その上、
  頭も”ズキズキ”痛い。(珍しく、2日酔い)。前から予定していた「鋸山」行きを断念し
  千葉市近郊で開かれる骨董市をのぞきに行くことにした。
   電車を乗り継いで、1時間ほどで骨董市に行き、鉱物や郵趣関係の品をいくつか
  入手した。千葉駅に戻り、バス停の案内板を見ていると「千葉県立中央博物館」の
  標識が目に入り、赴任先のマンションに戻るには早い時間なので行ってみることに
  した。

     千葉県立中央博物館【2008年2月】

   博物館は、都会とは思えない自然環境に恵まれたロケーションで、石造りの建物の
  中には、『 房総の地学 』 のコーナーがあり、千葉県の地史のパネルや代表的な
  鉱物が展示してある。それらを1つ1つを見学し、千葉県、とくに「嶺岡層」とその周辺の
  標本を理解することができた。

   なお、私が欲しかった文献・「千葉県の鉱物」は、絶版になったとのことで入手でき
  なかった。

    開館時間: 9:00〜16:30 (入館は16:00まで)
    休館日  : 毎週月曜日と月曜が祝日の場合、火曜日
           (GW,年末年始など 043-265-3111 に問い合わせ)
    入館料  : 一般           300円
            高・大学生        150円
           65歳以上・小中学生  無料

   ( 2008年2月訪問 )

2. 場所

   JR千葉駅からバス、京成線千葉寺駅から徒歩、京葉道「松ヶ丘IC」からとアクセスは
  良い。

       
                入場券               記念スタンプ   
                       「千葉県立中央博物館」

3. 展示内容

   千葉県立中央博物館の特色は、房総の自然誌を重視した博物館で、館内の常設
  展示のほか、隣接した野外の「生態園」で、房総の自然生きたまま再現している。
   本館の展示は、次のようになっている。

    
               展示配置図

 3.1 地学関係展示概要
     展示見学コースの一番最初に 『 房総の地学 』の展示室があり、房総の
    大地のなりたちを紹介している。

    
            『 房総の地学 』展示

     最古の地層の形成から現在に至る房総半島の地史を古い順に展示している。

     ■ 房総半島各地の地質

     ■ 房総の地形

     ■ 房総の土壌

 3.2 房総半島の地史
     房総半島の地層はほとんど海底にたまった堆積物で、過去から現在に至る
    まで、日本列島の東側に横たわる海洋プレートの沈み込む凹地である「海溝」に
    近接している。
     そのため、海洋プレートの沈み込みの影響を強く受けてきたし、今も受けて
    いる。
     中生代白亜紀の見られる銚子地域や房総半島南部を東西に走る「嶺岡山地」
   の新生代第3紀の地層は、今の日本列島がまだアジア大陸東端の海底にあった
   ころ、当時の太平洋の海底をつくっていたプレートが海溝で沈み込み、その一部
   が大陸側に取り込まれたものである。これを、付加帯という。
    これらの地域では、「枕状溶岩」や「蛇紋岩」などの海洋プレート起因の岩石が
   見られる。

       
     枕状溶岩【総合案内から引用】         蛇紋岩
                  房総半島を代表する岩石

 3.3 銚子地域の地層
     地質学的、鉱物学的にみて面白い場所の1つが「銚子地域」である。ここは上
    にも述べたように、三畳紀〜ジュラ紀(2億5千万年〜1億5千万年前)の地層と
    白亜紀(1億5千万年〜6500万年前)の地層に分かれる。
     ( ここには、新生代古第3紀(6500万年〜2400万年)と思われる、火成岩の
      「古銅輝石安山岩」も見られる )

     ここでは、白亜紀層からの「琥珀」、そして「古銅輝石安山岩」中の「霰石」が
    有名なのだが、これらについては全く触れられておらず、展示品も全くない。

 3.4  嶺岡山地の地層
     地質学的、鉱物学的にみて面白い場所のもう1つが「嶺岡山地」である。ここは
    玄武岩、その下のはんれい岩の堆積層を突き破って上昇する「かんらん岩」が
    変成作用で「蛇紋岩」に変化した。
     ここでは、「玄武岩」「はんれい岩」「かんらん岩」そして「蛇紋岩」に伴う幅広い
    鉱物種が観察できる。

     嶺岡山地の成因

     嶺岡山地は、太平洋に面した鴨川市から内房の鋸南町佐久間に到る東西の
    線で南房総半島を貫いている。
     これに沿って、「鋸南町下佐久間」「富山町平久里」「嶺岡中央林道(グリーン
    ライン)」そして「鴨川市八岡」などの鉱物産地ある。

       
               平久里周辺                      嶺岡林道沿い
                          嶺岡山地の地質

     この地質模型を見ると、地層が複雑に入り組んでおり、隣り合わせに全く違った
    系統の鉱物種が観察できるのも頷ける。
 

4. 展示鉱物

   地学関係の展示の大部分が岩石、化石などで、鉱物関係は「嶺岡山地の鉱物」が
  ショーケース1つに10点あまりが展示されているだけである。
   嶺岡山地の鉱物の特徴を一口で言えば、『火山岩のすきまにできた鉱物』、となる
  ようだ。つまり、玄武岩や凝灰岩のすきまに綺麗な結晶が見られることが多い。これ
  らの岩石のヒビ割れた箇所に、周りの玄武岩の成分がしみ込んで、鉱物の結晶が
  できた”次成”のものが多い。

       
              表示                  展示ケース
                    「嶺岡山地の鉱物」

   ここでの展示品の中で、「ソーダ沸石」、「方解石」、「ペクトライト」などは既にHPで
  紹介した。私が興味深く見学したのは、次のような標本だった。

No  鉱  物  名産  地 標  本  写  真 備 考
@魚眼石嶺岡中央林道 
A方沸石南房総市平久里 
Bトベルモリ石南房総市 平久里
C石英南房総市 結晶の形が
独特

5. おわりに

 (1) 展示されている鉱物標本を見て、『石なし県』、と言われた千葉県にも興味深い
    鉱物がたくさんあり、未だ入手していないものもある。
    近々、ミネラル・ウオッチングの下見に、未だ訪れていない「嶺岡林道」を中心に
    房総の産地を回ってみる予定だ。

 (2) 私が技術コンサルタントとして招請していただいた会社は、規模こそ中程度だが
    特徴のある電子部品で世界シェアの過半を抑えている。資金力に勝る大企業と
    正面から争わず、大企業が手をださない『すきま(ニッチ)』で業績を伸ばしている。

     嶺岡山地の鉱物の特徴が、『火山岩のすきまにできた”綺麗な”鉱物』、という
    のと、奇しくも似ている。

6. 参考文献

 1) 加藤 昭・松原 聰:鉱物採集の旅 東京周辺をたずねて,築地書館,1982年
 2) 松原 聰:関東地方の鉱物,鉱物情報 池田重夫技官退官記念会,平成10年
 3) 千葉県立中央博物館編:総合案内,同館,平成10年
 4) 松原 聰、宮脇 律郎:日本産鉱物型録,東海大学出版会,2006年
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