単身赴任早々の2008年2月、「千葉県立中央博物館」を訪れた。千葉県の珍しい
地形・鉱物として、『 海食洞(かいしょくどう)の鍾乳石(方解石) 』があった。
海に面した崖の海面近くでは、やわらかい地層や断層に沿って波の力で浸食が進み
「海食洞」と呼ばれる洞窟ができる。その後、陸地が隆起し、現在では海面より20m以上
高い位置に見ることができる。
隆起した後、「海食洞」の内部では、周囲の地層に含まれている石灰分が地下水に
溶け出して、鍾乳石や石筍(せきじゅん)が作られている。【現在進行形】
「海なし県」の山梨では目にする事ができない地形・鉱物なので2008年4月末に訪れ
た。海岸に行けば簡単に判るだろうと思っていたが、海岸の崖は草木に覆われ簡単
には探せなかった。
通りかかった地元の方に”あの辺り”、と聞いてから30分以上かかってようやく探し当
てた。
「海食洞」の入口は大人が立って歩けるほどの広さがあるが、内部に行くに従い狭く
なり、しかもいくつにも枝分かれし、腹ばいになって進む箇所もある。洞窟のところどころ
に「鍾乳石」が観察できた。
千葉の珍石として『 海食洞の鍾乳石(方解石)』を紹介する。
( 2008年4月採集 )
ここの「海食洞」は、数千年前に海面附近で作られたとされ、その後の房総半島の
隆起で現在は海抜約24mの高さにある。
( 5,000年前にできたとして、年に5mm弱、隆起したことになる計算。ただ、同じ千葉県
にあっても天然ガスや地下水の汲み上げによって、年間2cmも沈下した地域もある )
「海食洞」の入口附近は、十分立って歩けるほどだが、途中から枝分かれした先は
腹ばいになって進む箇所もある。
洞窟のところどころに、地下水がしみ出し、その中に含まれる石灰(カルシウム
:Ca)分が天井部分からツララのように成長して「鍾乳石」が作られ、地上にしたたり
落ちた水滴から上に向かって石筍(せきじゅん)が成長する。
ここの鍾乳石(方解石)には次のように3種類がある。
呼び名 (英語名) | 標 本 写 真 | 備 考 | 鍾乳管(しょうにゅうかん) ストロー (麦わら) (Straw Stalactite) | 中空になった結晶 | 幕状(まくじょう)鍾乳石 カーテン(Curtain) ベーコン(Bacon) | ”ひだ”状 | 犬牙状(けんがじょう)方解石 |
”犬牙状” 鍾乳管の内部や 膜状鍾乳石の空隙に 結晶が成長 |
(2) 石筍/方解石【Stalagmite/CALCITE:CaCO3】
地上から筍(たけのこ)のように、上に向かって成長したものを石筍と呼ぶが、
ここではカルシュウム(Ca)濃度が低いせいか、上に向かって成長したものは見ら
れなかった。
CaHCO3++HCO3− → CO2 + H2O + CaCO3
炭酸水素カルシウム 二酸化炭素 水 方解石
イオン ↓ ↓ (炭酸カルシウム)
(古生物遺骸や大気) ↓ ↓ ↓
空中に飛散 海に戻る 鍾乳石を形成
この狭い「海食洞」の中に、悠久の地球の営みが凝縮されているかと思うと感慨も
(2) 海食洞の鍾乳石
(3) 千葉県の奇石・珍石 − つづき −
HPの愛読者の千葉の石友・Mさんから、次のような嬉しいメールをいただいた。
『 MHのお陰で、【山があっても山梨県】に対抗して、千葉県は【石があっても石梨県】
ご期待に添えるよう、新しい産地、鉱物を探したいものだと念じている。
(4) 千葉県の海女(海士)
磯では、70歳を過ぎたと思われる人が、生のイワシを囮にして、カニを採っていた。
一入(ひとしお)だ。
千葉県には、海食洞の鍾乳石産地がいくつかあり、中には千葉県の天然記念物に
指定され、当然採集禁止の箇所もあるようだ。
今回、私が訪れた場所はそのような場所でなく、ごくごく少量のサンプルを採集させて
いただいた。
千葉県に来て3ケ月が過ぎ、はじめは大して期待もしていなかったが、次々と新しい
産地や「奇石・珍石」が発見され、存分に楽しんでいる。
だと最近は友人に話しております 』
今回訪れた日は、この地域の磯開き、つまり素もぐりによるサザエ、アワビなどの
漁が解禁になった日だった。
あちこちの岩陰で海女さんが出漁に備え、ウエット・スーツに着替えていた。中には
男性の海士さんもいて、この時期の余禄で、好きなものを買うようだ。
面白いように次々と網にすくい上げられていた。
こんな生活も羨ましいな、と妻と話し合った。
絵葉書 白浜の消印
海女と産地
6. 参考文献
1) 加藤 昭、松原 聰:鉱物採集の旅 東京周辺をたずねて,築地書館,1982年
2) 草下 英明:鉱物採集フィールドガイド,草思社,1988年
3) 松原 聰:関東地方の鉱物,鉱物情報100号記念出版物企画委員会
池田重夫技官退官記念会,平成10年
4) 千葉県立中央博物館編纂:千葉県の鉱物,同館,2000年
5) 松原 聰、宮津 律郎:日本産鉱物型録,東海大学出版会,2006年
6) 前田 四郎監修:千葉県 地学のガイド 千葉県の地質とそのおいたち
コロナ社,1990年