千葉県の奇石・珍石 − その3 − 「鍾乳石」

     千葉県の奇石・珍石 − その3 − 「鍾乳石」

1. 初めに

   技術コンサルタントとして招請をいただき千葉県に単身赴任して早いもので、4ケ月
  目を迎えている。
   「石(鉱物)なし県」と言われる(言われた)千葉県だが、調べてみると私の地元・山梨県
  ではお眼にかかれない面白い鉱物(石)が多数あることがわかった。

   単身赴任早々の2008年2月、「千葉県立中央博物館」を訪れた。千葉県の珍しい
  地形・鉱物として、『 海食洞(かいしょくどう)の鍾乳石(方解石) 』があった。

   海に面した崖の海面近くでは、やわらかい地層や断層に沿って波の力で浸食が進み
  「海食洞」と呼ばれる洞窟ができる。その後、陸地が隆起し、現在では海面より20m以上
  高い位置に見ることができる。
   隆起した後、「海食洞」の内部では、周囲の地層に含まれている石灰分が地下水に
  溶け出して、鍾乳石や石筍(せきじゅん)が作られている。【現在進行形】

   「海なし県」の山梨では目にする事ができない地形・鉱物なので2008年4月末に訪れ
  た。海岸に行けば簡単に判るだろうと思っていたが、海岸の崖は草木に覆われ簡単
  には探せなかった。
   通りかかった地元の方に”あの辺り”、と聞いてから30分以上かかってようやく探し当
  てた。
   「海食洞」の入口は大人が立って歩けるほどの広さがあるが、内部に行くに従い狭く
  なり、しかもいくつにも枝分かれし、腹ばいになって進む箇所もある。洞窟のところどころ
  に「鍾乳石」が観察できた。

   千葉の珍石として『 海食洞の鍾乳石(方解石)』を紹介する。
   ( 2008年4月採集 )

2. 産地

    千葉県の”某所”である。

3. 産状と採集方法

    千葉県立中央博物館にあるジオラマによれば、海に面した岩石でできた崖(海食
   崖)の海面附近では、やわらかい地層や断層に沿って浸食がすすみ、洞穴ができる。
    これが「海食洞」と呼ばれるものである。
    ちなみに、静岡県河津やんだ海岸のモルデン沸石産地は、波食棚(ベンチ)、と
   呼ばれる。

     岩石海岸の地形

    ここの「海食洞」は、数千年前に海面附近で作られたとされ、その後の房総半島の
   隆起で現在は海抜約24mの高さにある。
    ( 5,000年前にできたとして、年に5mm弱、隆起したことになる計算。ただ、同じ千葉県
     にあっても天然ガスや地下水の汲み上げによって、年間2cmも沈下した地域もある )

     海食洞

    「海食洞」の入口附近は、十分立って歩けるほどだが、途中から枝分かれした先は
   腹ばいになって進む箇所もある。
    洞窟のところどころに、地下水がしみ出し、その中に含まれる石灰(カルシウム
   :Ca)分が天井部分からツララのように成長して「鍾乳石」が作られ、地上にしたたり
   落ちた水滴から上に向かって石筍(せきじゅん)が成長する。

4. 採集鉱物

 (1) 鍾乳石/方解石【Stalactite/CALCITE:CaCO3
      洞窟の天井部分から滴り落ちる地下水の中に成長する形で産出する。一般的
     に滴り落ちる水滴により成長するものをドリップストーン(Dorip Stone)、とも呼ぶ
     ようだがその典型的な産状を示している。

      ここの鍾乳石(方解石)には次のように3種類がある。

    呼び名
     (英語名)
 標  本  写  真   備    考
鍾乳管(しょうにゅうかん)
ストロー (麦わら)
(Straw Stalactite)
   中空になった結晶
幕状(まくじょう)鍾乳石
カーテン(Curtain)
ベーコン(Bacon)
 ”ひだ”状
犬牙状(けんがじょう)方解石
    ”犬牙状”
鍾乳管の内部や
膜状鍾乳石の空隙に
結晶が成長

 (2) 石筍/方解石【Stalagmite/CALCITE:CaCO3
      地上から筍(たけのこ)のように、上に向かって成長したものを石筍と呼ぶが、
     ここではカルシュウム(Ca)濃度が低いせいか、上に向かって成長したものは見ら
     れなかった。

5. おわりに

 (1) 鍾乳石の成長
      鍾乳石g成長するプロセスは、次のような化学式で表されるようだ。

       CaHCO3+HCO3    →   CO2 + H2O + CaCO3
      炭酸水素カルシウム         二酸化炭素  水    方解石
          イオン                 ↓     ↓  (炭酸カルシウム)
    (古生物遺骸や大気)               ↓     ↓      ↓
                             空中に飛散 海に戻る  鍾乳石を形成

      この狭い「海食洞」の中に、悠久の地球の営みが凝縮されているかと思うと感慨も
     一入(ひとしお)だ。

 (2) 海食洞の鍾乳石
      千葉県には、海食洞の鍾乳石産地がいくつかあり、中には千葉県の天然記念物に
     指定され、当然採集禁止の箇所もあるようだ。
      今回、私が訪れた場所はそのような場所でなく、ごくごく少量のサンプルを採集させて
     いただいた。

 (3) 千葉県の奇石・珍石 − つづき −
      千葉県に来て3ケ月が過ぎ、はじめは大して期待もしていなかったが、次々と新しい
     産地や「奇石・珍石」が発見され、存分に楽しんでいる。

      HPの愛読者の千葉の石友・Mさんから、次のような嬉しいメールをいただいた。

      『 MHのお陰で、【山があっても山梨県】に対抗して、千葉県は【石があっても石梨県】
       だと最近は友人に話しております                             』

      ご期待に添えるよう、新しい産地、鉱物を探したいものだと念じている。
      

 (4) 千葉県の海女(海士)
      今回訪れた日は、この地域の磯開き、つまり素もぐりによるサザエ、アワビなどの
     漁が解禁になった日だった。
      あちこちの岩陰で海女さんが出漁に備え、ウエット・スーツに着替えていた。中には
     男性の海士さんもいて、この時期の余禄で、好きなものを買うようだ。

      磯では、70歳を過ぎたと思われる人が、生のイワシを囮にして、カニを採っていた。
     面白いように次々と網にすくい上げられていた。
      こんな生活も羨ましいな、と妻と話し合った。

         
          絵葉書               白浜の消印
                 海女と産地

6. 参考文献

 1) 加藤 昭、松原 聰:鉱物採集の旅 東京周辺をたずねて,築地書館,1982年
 2) 草下 英明:鉱物採集フィールドガイド,草思社,1988年
 3) 松原 聰:関東地方の鉱物,鉱物情報100号記念出版物企画委員会
           池田重夫技官退官記念会,平成10年
 4) 千葉県立中央博物館編纂:千葉県の鉱物,同館,2000年
 5) 松原 聰、宮津 律郎:日本産鉱物型録,東海大学出版会,2006年
 6) 前田 四郎監修:千葉県 地学のガイド 千葉県の地質とそのおいたち
               コロナ社,1990年
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