千葉県の奇石・珍石 − その2 − 「水晶」

          千葉県の奇石・珍石 − その2 − 「水晶」

1. 初めに

   『 ミネラル・ウオッチング(鉱物採集)は、水晶(石英)に始まり水晶に終わる 』
  私の持論の1つだ。日本国中、どこでも採れる水晶(石英)はもっとも身近な鉱物の
  1つだろう。

   技術コンサルタントとして招請をいただき千葉県に単身赴任して2ケ月が過ぎた。
  千葉県が「石(鉱物)なし県」と言われる(言われた)理由がいくつかあることが
  わかった。
   その大きな理由が、『 水晶(石英)が採れない!! 』、ではないだろうか。

   単身赴任早々の2008年2月、「千葉県立中央博物館」を訪れた。千葉県の珍しい
  鉱物として、『 南房総市の石英 』があった。

  鉱  物  名産  地 標  本  写  真 備 考
石英南房総市 結晶の形が
独特

   2008年3月、栃木県の石友・Sさん一家と房総半島を巡るミネラル・ウオッチングを
  ご一緒したとき、平久里で千葉県のSさんに会った。
   後日、千葉県の鉱物として、「南房総市の石英」があることを教えていただいた。翌週
  産地の探索に訪れ、アチコチ迷った挙句、何とか 「石英」はじめこの産地の代表的な
  鉱物を採集できた。
    この「石英」の空隙部分を観察すると、”あった!! 水晶だ!!” 千葉県では
  産出しないとされた水晶の産出は、初めての報告だろう。
   千葉の珍石として『水晶』を紹介したい。
   ( 2008年4月採集 )

2. 産地

    ”旧富山町関沢”、と教えてもらったが、場所が特定できない。地図をいくら探しても
   それらしい場所は見当たらない。地形図ページで検索すると、採石場跡があるので
   ここだろうと読んで訪れた。

       関沢地図

    関沢の現地で「採石場はどこですか?」、と尋ねると、「映画のロケをやっている所か?」
   と聞き返されたが、私には何のことか判らず、「?#☆?」
    結局、私のHPの『平久里の自然銅』ページにある”稼行中の採石場”を教えてくれた
   が、あそこには石英はなかったはずだ。
    最初に狙いをつけた採石場跡を訪れると、そこには養鶏場がある(あった)。ここで
   映画のロケが行われたらしく、そのセットを取り壊している最中だった。
    ようやく、「映画のロケ・・・・」が得心できた。

       養鶏場セット

    居合わせた人に断って、入らせてもらうと採石場の跡地は思った以上に広い。
   かつての採石箇所は深い草むらに覆われていて、ところどころに露頭が見える
   だけだ。

3. 産状と採集方法

    この地域一帯には、第3紀の堆積岩が見られ、その中のごくごく狭い範囲に小規模な
   石英脈がみられた。

       産状

4. 採集鉱物

 (1) 水晶/石英【Rock Crystal/QUARTZ:SiO
      白色の脈状の石英が泥岩〜砂岩の堆積岩の中に産する。このの石英は母岩の
     割れ目にしみ込んだ熱水中の珪酸(SiO)分が沈殿・固まったもののようで、層状
     をなしたり、ツララ状になっているものもある。また、魚卵状のものも内部に観察
     できる。
      石英脈の空隙部分を観察すると、ごくごくまれに長さ1mm以下の針〜毛状の
     『水晶』がみつかることがある。

         
               全体               拡大
                        水晶

 (2) 方解石【CALCITE:CaCO3
      堆積岩の中に方解石の脈が走り、脈の空隙にあめ色、犬牙状結晶が見られる
     ことがある。

       方解石【犬牙状】

 (3) このほか、大小の『ノジュール』が表面採集できた。ただ、表面が鉄錆び(針鉄鉱)に
    覆われておらず母岩と同じ色で、”青二才”といった感じて”鉄丸石”の貫禄はない。
     インターネット上で、これを『へそ石』と呼んでいるのを見かけるが、そう呼ぶのは
    相応しくないだろう。

       ノジュール【大:長径70mm 小:25mm】

5. おわりに

 (1) 千葉県の奇石・珍石
      2008年1月末に千葉県に単身赴任して2ケ月あまりが経過した。千葉県での
     ミネラル・ウオッチングも一通りの産地を回り、中には新発見となる鉱物もあったが
     そうそうたくさんの産地があるわけではない。

      そんなわけで、千葉県の奇石・珍石「水晶」採集となった。私の地元・山梨県なら
     家の裏山にもある「水晶」が千葉県では「珍石」になるほど産出がまれだ。
      高々200kmしか離れていないのに、地質構造がまるっきり違い、違った鉱物が見つ
     かるわけで、狭いと言われる日本だが鉱物種には恵まれていることを感謝すべきだ
     ろう。

 (2) 千葉県の奇石・珍石 − つづき −
      毎年、5月のGWに、長野県、山梨県を中心にミネラル・ウオッチングを開催すること
     にしている。久しぶりに山梨に戻ったとき、今年の山の残雪の様子を聞きたくて川上
     村の湯沼鉱泉社長に電話した。

      今年は雪が多かったせいで、湯沼のあたりの日陰には未だ雪が残っているらしく
     ミネラル・ウオッチングは、”月遅れ”にしたほうが良さそうだ、とアドバイスいただ
     いた。

      石友・Yさんが渡した、私のHP『へそ石』のコピーを読んだ社長がいたく『へそ石』を
     気に入り、是非「水晶洞」に飾りたい、というので、今週末も行ってこなければ、と思っ
     ている。

      なお、このミネラル・ウオッチングは、募集開始2日で当初予定の20名を超えた
     25名の参加申し込みをいただいた。参加者の安全を考え、締め切りましたので
     悪しからずご了解ください。

 (3) この採石場跡では、映画のロケが頻繁に行われているらしい。この日も、撮影が
    終わったセットの撤去と新しいセットの建設が行われていた。今度のは、勘三郎
    出演の「禅」らしい。居合わせたスタッフに、「 ここは映画村ですね 」と声を掛け
    ると、「 映画山ですヨ 」との答えが返ってきた。

       「禅」 ロケ現場

6. 参考文献

 1) 加藤 昭、松原 聰:鉱物採集の旅 東京周辺をたずねて,築地書館,1982年
 2) 草下 英明:鉱物採集フィールドガイド,草思社,1988年
 3) 松原 聰:関東地方の鉱物,鉱物情報100号記念出版物企画委員会
           池田重夫技官退官記念会,平成10年
 4) 千葉県立中央博物館編纂:千葉県の鉱物,同館,2000年
 5) 松原 聰、宮津 律郎:日本産鉱物型録,東海大学出版会,2006年
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