鉱山を示す千葉県地図

              鉱山を示す千葉県地図

1. 初めに

    2008年1月〜2009年3月まで、某電子部品メーカーから招請をいただき、技術コンサルタント
   として千葉県に単身赴任していた。この間に、以前茨城県の某製作所に単身赴任以来懇意に
   していただいている古書店主・Oさんから、千葉県の古い地図を送っていただいたことがある。
   この地図に、『父』の鉱山マークがあった、と記憶していた。
    山梨県に戻って入手した「鴨川銅山」の絵葉書をネタに、次のようなページをまとめ、この地
   図の存在にも触れた。
    ・千葉県鴨川銅山の絵葉書
     ( Post Card of Kamogawa Copper Mine , Chiba Pref. )

    先日、単身赴任から持ち帰ったまま、1年近く積んである文書のケースがあるのに気付き、
   開けてみると件(くだん)の地図が出てきたので表題のページをまとめてみる気になった。

    『 石(鉱物・鉱石)無し県 』、とされていた千葉県だが、かつては地図に『父』の鉱山マーク
   で表示するほどの鉱山があったわけだ。千葉の石友・Mさんによれば、「最近、名称未発表な
   がら、特殊な構造のシリカ鉱物が南房総市で発見された」ようで、まんざら捨てたものでもなさ
   そうだ。

    さて、年度末の3月を迎え、卒業、進級、入学、入社、転勤など人生の節目(少し大袈裟か)
   を迎える読者もおられると思う。
    かく言う私も、某電子部品メーカーから招請をいただき、技術コンサルタントとして2010年3月
   20日ごろから千葉県に単身赴任することが決まり、”件の地図”は、この前触れだったのかも
   知れない。
    ”アラフォー”ならぬ、四捨五入すれば”アラセブ”に近い私だが、トヨタ車のリコール問題に代
   表されるように、揺らいでいる『日本のものづくり』に技術士として微力でも貢献できれば、との
   想いで応諾した次第だ。
    『3度目のハンマーに封印、などと気負わずに、自然体で仕事とミネラル・ウオッチングを楽
   しもう、と思っている。
   ( 2010年3月 入手 )

2. 鉱山を示す千葉県地図

    茨城県の古書店主・Oさんから送っていただいた地図は、20万分の1の地方図「千葉県」の
   ようだ。前の持ち主が使い込んだようで、折れ目が擦り切れていて、破れかかった箇所には
   裏打ちしてある。左の1/2か1/3、房総半島の南端と東京湾に面している部分は脱落している。

    
            千葉県地図【Oさん恵与品】

    鉱山マークの有る部分を中心に、拡大してみよう。

    
                 鉱山マーク部分

    「あはかもがわ」駅と「ふとみ」駅の間、海岸際に鉱山を示す『父』マークがある。

3. 鉱山の名は

 3.1 地図の発行時期
      鉱山の名前を推測するのに有効な手掛かりの1つが、「発行時期」だろう。Oさんに恵与
     いただいた地図は、通常測量あるいは作図年月日が記載してある部分を含め左側1/2〜
     1/3が欠落していて、発行時期は推測するしかない。

     @ 安房鴨川駅が「わがもかはあ」、と右から左へ読む”右書き”になっているので、
        戦前(1945年以前)
     A 「江見町」が町制施行した昭和8年(1933年)11月以降
     B 総武本線「本八幡駅」ができる昭和10年(1935年)以前
        ただ、、昭和6年(1931年)に開通した成田線の佐原-笹川間の線路が載っていない、
       など、最新の情報を反映していない箇所もあるようだ。

      これらから、地図が発行されたのは、昭和9年〜10年ごろだろうと推測する。

 3.2 鉱山名
      冒頭に紹介した「千葉県鴨川銅山の絵葉書」のページで、鴨川銅山(鉱山)があった場所
     を調べた。「日本鉱産誌」によれば、安房鴨川駅の南方2kmにあった、とされる。現在の地
     図上でプロットしてみると、”赤い点線の□” の範囲になる。

     


・「日本鉱産誌」にあるように
 安房鴨川駅から南に
 2km とすると、
 赤い点線の四角の
 範囲になる

・海の中や島では
 あり得ないから
 「青年の家」から
 約200m北の
 海岸近くだろう。

・「雀島」の近くの
 ようだ。

・銅山近くの高い
 位置からは
 南南東の海上に
 「仁右衛門島」が
 見えたはずだ。


 

      これと、上の地図の『父』マークの位置を見比べてみると、鉱山マークが約200mほど南に
     ずれていて、現在「青年の家」がある、巾着山の採石場跡あたりだ。

      『父』マークが採石場を示すこともあるが、巾着山で採石が始まったのは、昭和30年代末
     (1965年ごろ)で、この地図に載るはずがない。

    これらのことから、『父』マークが示しているのは、鴨川銅山(鉱山)である可能性が高い。

4. 千葉県の鉱山

    「石(鉱物・鉱石)なし県」と言われた千葉県だが、調べてみると下表のように、各種の鉱産
   物が産出し、それらのいくつかは現在も採掘されている。

No 所 在 地   鉱 山 名  鉱 物 種
1 一宮町   東浪見鉱山 砂鉄
2 鴨川市  鴨川鉱山 含ニッケル蛇紋石
3 鴨川市  嶺岡鉱山 含ニッケル蛇紋石
4 茂原市 茂原鉱山 天然ガス
5 成東町 成東鉱山 天然ガス
6 長生村 合同千葉鉱山 天然ガス
7 飯岡町  飯岡鉱山 砂鉄

    「天然ガス(ヨードを伴う)」や「砂鉄」は、海に面する千葉県の地質ならではの鉱物種だろう。

5. おわりに 

 (1) 年代判定の難しさ
      2009年2月、私のHPの愛読者・S氏から東京小川町にあった「水晶堂」のブック型標本を
     入手したがいつ頃のものだろうか、との問い合わせメールをいただいた。
      「水晶堂」は、宮沢賢治が岩手県岩谷堂産の蛋白石(オパール)を印材用として売り込み
     見本を送る事を約束した標本店であることは、既にHPで紹介したとおりだ。

     ・ 金石舎 鉱物標本とかかわった人々
     − 高木勘兵衛・長島乙吉・宮沢賢治 −
      ( People Related with Kinsekisya Mineral Specimens
       - Kanbei Takagi , Otokichi Nagashima , Kenji Miyazawa - , Tokyo )

      標本に納められた鉱物・岩石とその産地のリストを 氏が送ってくれたので、その一部を
     ここに紹介し、年代判定してみよう。

No 鉱物・岩石種    産         地
1 石墨 越中国婦負郡高清水
2 硫黄 岩代国信夫郡一切經山
3 金鉱 陸中国鹿角郡辨天(べんてん)金山
 ・       ・
 ・       ・
 ・       ・
70 玄武岩 但馬国城崎郡玄武洞
71 熔岩 駿河国富士山
72 火山灰 大隈国櫻嶋

      この標本の年代判定の手掛かりは、現在なら産地名を富山県とするところ、『越中国』、
     と旧国名になっていることだ。
      明治4年(1871年)、”廃藩置県”が行われたのだが、郵便物のあて名などに旧国名を多
     くの人が使い、明治の末から大正の初めになってようやく県名が浸透・定着したようだ。
      したがって、「この標本は明治末期から大正初期のものだろう」、とS氏にお伝えした。

      ミネラル・ウオッチングのストーブ・リーグの徒然に、古書店をのぞくと、偶然、年代判定に
     関する2冊の本があったので入手して読んでみた。

      @ 「発掘捏造(ねつぞう)」
         毎日新聞社のチームが、徹夜の張り込みでF元副理事長による旧石器捏造の一部
        始終をスクープした。捏造がなぜ起こったかの原因の1つとして、遺物が出てきた地層
        で判定する手法が日本では主流だということ。
         極端に言えば、旧石器時代の地層からでてきた江戸時代末期の通貨・天保銭は
        旧石器時代のもの、と判定して発表できる世界らしい。
         旧石器と言えば、行商の傍ら、群馬県岩宿の赤土層から旧石器を発見した相沢氏が
        有名だが、氏は「自分は岩宿遺跡という未熟児を産み落とした。未熟児だから専門医
        (学者)に見せたら、専門医は『これは自分の子供だ』と言い出した」、とある講演で語
        っている。
         この本では、「学者と在野研究者の関係は現在も同じだ。在野の功績が認められる
        には、遺跡を発見したうえで学会の権威の『お墨付き』に頼らざるを得ない。」と実態
        を述べている。

         他人事だが、鉱物界はどうなのだろうか?

      A 「DNAからみた人類の起源と進化」
         ”DNA鑑定”、というと足利冤罪事件を思い浮かべる読者も多いと思うが、最近はそ
        の精度も向上し、新たに古生物学にも応用されているようだ。
         従来の古生物学は、「化石」をベースにしているが、これは「石器」と同じで、捏造や
        誤謬を伴う危険性がある。現に、『ピルトダウン人』の骨と称する捏造事件があり、な
        がく人類学の進歩を妨げたとされる。

         『地球上の現生生物はすべて単一の祖先から由来したもの』は、含蓄のある指摘だ。

 (2) 「石(鉱物)なし県」
      千葉の石友・Mさんが、「千葉県南房総市で日本の新鉱物が発見された」、と教えてくれ
     た。
      最近届いた「鉱物情報」によれば、新鉱物の産状・化学式は次のようだ。

      『 名称は未発表 (SiO2)・n(CH4,C2H6,C3H8,C4H10) n<3/17
       砂岩中の脈の空隙に、方解石を伴い、無色透明八面体結晶の集合として産する。スピ
       ネル型双晶をすることが多い。結晶の大きさは0.01〜2mm程度。有機物を含む特殊な
       構造のシリカ鉱物で、2008年にIMAで日本の新鉱物として承認された。         』

      千葉県でのミネラル・ウオッチングの楽しみが、また1つ増えた。

 (3) 『3度目のハンマーに封印
      2010年2月、千葉県の某電子部品メーカが人財(人材の間違いではない)を求めていると
     打診があった。会社幹部はじめ製造関係者から、Mineralhuntersに、との招請をいただき、
     3月20日ごろ、単身赴任することになった。

      3回も「ハンマーに封印」と言っておいてそれを悉(ことごと)く破れば、”狼老人”のそしりを
     免れないので、今回は(も?)、気負わずに、自然体で仕事とミネラル・ウオッチングを楽し
     もう、と思っている。

6. 参考文献 

 1) 日本鉱産誌編纂委員会編:日本鉱産誌 銅・鉛・亜鉛,東京地学協会,昭和31年
 2) 草下 英明:鉱物採集フィールドガイド,草思社,1988年
 3) 長谷川 政美:増補 DNAからみた人類の起源と進化 −分子人類学序説−
              海鳴社,1996年
 4) 毎日新聞旧石器遺跡取材班,毎日新聞社,2001年
 5) 松原 聡:日本産新鉱物・新産鉱物 鉱物情報No.162,鉱物情編集部,2010年
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