千葉県立中央博物館のトピックス展 『千葉石』







      千葉県立中央博物館のトピックス展 『千葉石』

1. 初めに

    2011年2月、石友・Mさんから、『千葉石』決定」のメールをいただき、その翌日、
   私のHPの「掲示板」に、Sさんから「2月16日から千葉県中央博物館で『千葉石』展示」
   の書き込みがあった。会社の人の中には、新聞等で「千葉石」を知っている人も多かっ
   た。

    その週末、久しぶりに単身赴任先を訪れた妻と、千葉県立中央博物館を訪れた。入
   館料を払って入るとすぐのところに、トピックス展のコーナーが設けられ、『千葉石』の実
   物が展示してあり、その特徴やどのようにしてできたのか(成因)、そして次世代のエネ
   ルギー資源として注目されている「メタンハイドレート」との類似性などがパネルと現物で
   展示してあった。

    ・ トピックス展
      「 新鉱物発見! 名前は『千葉石(ちばせき)』!
    ・ 展示期間:2011年2月16日(水)〜6月12日(日)

     千葉県立中央博物館 トピックス展「千葉石」

    『千葉石』は、地元のアマチュア研究家・本間千舟氏によって、1998年に発見されてい
   たが、分析の結果、「新鉱物」だとわかったのは、2008年のことだ。この鉱物は約1,800
   万年前、深海底の地層で生まれたと考えられ、その特徴は、『石英(SiO2)の篭(かご)
   にメタンなどが閉じ込められたもの』、という変わった結晶構造にある。似たような物質に
   メタンガスが水分子(低温の深海底にあるのでシャーベット状)の篭に包まれた「メタン
   ハイドレート」があげられる。
    「メタンハイドレート」は、次世代のエネルギー源として期待されているが、『千葉石』は
   埋蔵量も極めて少なく、”実生活には何の役にも立たない”ようだ。

    篭の形には何種類かあり、『千葉石』と違った篭の形をもつ鉱物は”未命名”なので、
   近いうち『第2の千葉石』が発表される可能性もある。
    貴重な情報をいたただいた石友・Mさん、書き込みをしていただいたSさんに厚く御礼を
   申し上げる。
    ( 2011年2月訪問 )

2. 千葉県立中央博物館

    丁度3年前の2008年1月、千葉県に初めて単身赴任して間もなく、千葉県立中央博物
   館を訪れ、その様子をHPに掲載した。

    ・千葉県立中央博物館の鉱物
     ( Minerals exhibited in Natural History Museum and Institute , Chiba , Chiba Pref. )

    この時見た、変わった形をした石英が新鉱物の『千葉石』で、長い間大勢の人の眼に
   触れていたことになる。

    その後も博物館を何度か訪れ、2010年11月には、居合わせた地学関係の学芸員から
   『新鉱物』の情報を聞くことができ、HPで報告した。

   ・千葉県立中央博物館の「千葉県産新鉱物」
    ( New Mineral from Chiba Pref. exhibited
      in Natural History Museum and Institute Chiba , Chiba Pref. )

    そのとき、「『新鉱物』が正式に認定されたなら、それに関する展示をしたい」という意
   向のようだったが、それが実現したことになる。

    博物館まで、単身赴任先から11km、車で30分ほどだ。

3. 新鉱物『千葉石』

 3.1 「千葉石」
     千葉県南房総市荒川で産出した鉱物に関する論文が、イギリスの自然科学専門誌
    ネイチャー・コミュニケーションズに発表され、2011年2月に新鉱物『千葉石(ちばせき)
    :CHIBAITE』として、承認された。
     千葉県での新鉱物の発見は初めてなので、県の名前にちなんで「千葉石」と名付け
    られたそうだ。
     「石(鉱物)なし県」といわれた千葉県の面目一新であろうか。

 3.2 「千葉石」の特徴
  (1) 『篭の鳥』
      千葉石は特殊な鉱物だ。成分は「水晶(石英)」と同じ二酸化珪素(シリカ:SiO2)だが、
     それらが篭状の結晶構造を作り、その中にメタン(CH4)、エタン(C2H4)、プロパン(C3H8
     そしてブタン(C4H10)などの炭化水素(CxHy)ガス分子が含まれている。専門用語で、
     ”シリカ包摂化合物”、と呼ぶものらしい。そのため、六角柱状の水晶とは、全く異なる
     外形をしているので、”変な形の石英”となったわけだ。

      この結晶構造は、最近、次世代のエネルギー源として注目されている、水(H2O)分
     子が篭状の結晶構造をつくり、その中にメタンガスを含む「メタンハイドレート」と同じで
     共に深海底で生まれているところから、その関連性が注目されている。

  (2) 篭の形状
      篭は、四角形や5角形そして六角形の金網を組み合わせて作った球状をしている。
     黒い五角形と白い六角形を組み合わせた、一昔前のサッカーボールを連想しても
     らえば間違いないだろう。
      ボールの皮の部分がシリカで、内部の空気に相当する部分がCxHyで表わされる
     炭化水素分子が詰まっているという訳だ。
      x+yの数が大きくなるにしたがって、炭化水素分子の大きさも大きくなり、それを入
     れる篭の大きさも大きなものが必要になる道理だ。
      四角角、五角形そして六角形の組み合わせで、ボール(篭)の大きさ、厳密には形
     が変わり、「メタンハイドレートT型」、「同U型」そして「同H型」がある。

      「T型」の鉱物は、すでに発見されていて「メラノフロジャイト」、「U型」が今回発見
     された『千葉石』、という訳で、五角12面体と五角形12ケ+六角4ケが組み合わさった
     形で篭ができている。

          
              五角12面体               五角形12ケ+六角形4ケ
                         「千葉石」の篭

      しからば、「H型」の鉱物はあるのだろうか。実は、”名称未定”なる鉱物があるよう
     なので、近いうちに『第2の千葉石』が発表されるのではないかと期待している。

  (3) 千葉石の結晶と仮像(仮晶)
      前のページでも解説しておいたが、「千葉石」は、”透明な結晶”である。トピックス
     展では、実体顕微鏡の下に「千葉石」を置いて、観察できるようになっているが、写
     真を撮ったらピンボケになってしまったので、石友・S氏から恵与いただいた標本と
     展示、配布資料の写真を示す。

          
             【S氏恵与品】          【展示・配布資料から引用】

                          「千葉石」

      産地では”白濁した石英の結晶”も採集できるらしいが、これは、「千葉石後の石
     英」、つまり「千葉石」の仮晶で、外形は「千葉石」だが中身は水晶などと同じ低温石
     英になったものらしい。
      気になるのは、2010年の「ミネラル・マーケット」に始まり、2011年の鉱物同志会の
     バザーにいたるまで、「千葉石」の名前で売られていた標本の多くが”白濁”していた
     気がする。 「千葉石」と呼ばれる標本をお持ちの方は、一度お調べになることをお勧
     めする。

      トピックス展では、”白濁した石英の結晶”を『仮像』として、展示してあった。この標
     本が、本間氏が採集し、永い間中央博物館に『石英』として展示してあったもの。

       
                  仮像(仮晶)
        【「千葉石」発見のキッカケとなった標本】

 3.3 「千葉石」の結晶図
      「千葉石」で知りたかっことの1つは、どのような結晶系なのかである。展示品の中
     に、「ペグマタイト」でおなじみの高田氏が作成した「千葉石」の理想的な形態と一般
     的に観察される形態の模式図があるので、展示・配布資料から引用させていただく。

       
                理想形          一般に観察できる形態
                    「千葉石」結晶図
                 【展示・配布資料から引用】

      理想的な結晶は、八面体(ピラミッドを2つ合わせた形)の角を断面が等辺の四角
     形に切り落としたもので、{111}面からなる六角形8つと{100}面からなる四角形6つ
     からなる14面体である。結晶系は、鉄礬石榴石や黄鉄鉱と同じ「等軸晶系」になる。
      一般的に観察できるのは、図の点線のところから上の部分を2つ組み合わせた双
     晶になっているものらしい。

 3.4 「千葉石」の成因
      もうひとつ知りたかったのは、どのようにして「千葉石」が生まれたのか、ということ
     つまり成因である。
      「千葉石」が産出したのは、約1,800万年前の保田層群という地層である。この地
     層は、プレートが沈み込む深海底で形成されたと考えられる。

       
                 千葉石が生まれた環境
                【展示・配布資料から引用】

      プレートが沈み込むあたりでは、プレートの押す力によって、陸側に逆断層が生ま
     れ、それに沿って、地下からメタンに富む冷湧水が湧きだしていることが最近知られ
     ている。このような場所には、シロウリガイなどの化学合成生物が生息している。
      「千葉石」が産出した地層には、シロウリガイの化石が産出しており、「千葉石」は、
     このような冷湧水がわきだす断層の内部でつくられたと推測される。

      1,800万年後、深海底の地層は地表に姿を現している。本間氏が撮影した下の写
     真の右上方から左下に走る白い脈で「千葉石」が産出した。

       
                  千葉石産地
               【展示資料より引用】

4. おわりに 

 (1) 『千葉石』認証
      千葉県は、「石なし県」のイメージを持っている人も多いかも知れない。なぜなら、
     どこの県でもありふれた鉱物の1つ、「水晶(石英)」が千葉県では全く出ないとされ
     ていたくらいだ。
      その千葉県で、選りによって、「石英(SiO2)」を主成分とする日本産新鉱物が発見され
     たのは、何とも皮肉なことだ。

      石友・Sさんからいただいた『石英』が『千葉石』で間違いなさそうだ。2008年から
     2011年にかけて千葉県への2度にわたる単身赴任の良き思い出がまた一つ増えた。

 (2) ”ちばいし”か”ちばせき”か?
      会社には、千葉県で新鉱物が発見されたのを知っている人も何人かいて、私が
     石好きなことを知り、『”ちばいし”が発見されたそうですね』、と話がはずむことがある。
      新聞に、「千葉石」と出て、ふり仮名がなければ、100人中100人が”ちばいし”と読む
     だろう。

      皆さんが”ちばいし”、とおっしゃるので、その都度”ちばせき”ですよと訂正するのだ
     が、私自身”せんようせき”なら解るが、”ちばせき”はいただけないな、と思っている
     ので、皆さんの好きなように呼んでもらえば良いと思うようになった。

      終戦後まもないころ、鉱物の名前をどう命名するか議論され、全部ローマ字にしよ
     うなどという”極論”も出たらしい。その結果、”石(せき)”、”鉱(こう)”などの基準が
     決められ現在に至っているらしい。

      私は、”ながしまいし”や”すずきいし”同様、”ちばいし”と呼ぶことにしている。

6. 参考文献 

 1) 門馬 綱一 et al :千葉県南房総市荒川から産出した包摂化合物結晶について
                日本鉱物科学会2008年年会講演要旨集,同会,2008年
 2) 松原 聡:日本産新鉱物・新産鉱物 鉱物情報No.162,鉱物情編集部,2010年
 3) 高橋 直樹:トピックス展 新鉱物発見! 名前は「千葉石(ちばせき)」!,
            千葉県立中央博物館,2011年
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