S氏の恵与品 「千葉県産新鉱物」

         S氏の恵与品 「千葉県産新鉱物」

1. 初めに

    2010年3月に技術コンサルタントとして千葉県の某電子部品メーカーさんに赴任して3ケ月
   が過ぎようとしている。千葉県には、2008年1月〜2009年3月までいたことや、3男夫婦と孫
   娘が住んでいることもあって、親しみがある。

    ミネラル・ファンの間では、千葉県は『石(鉱物・鉱石)なし県』、と呼ばれていた。2年前の
   単身赴任のときに、千葉県内の産地を回り、新産地の発見を含め、私の家がある山梨県で
   はお目にかかれない多数の鉱物と出会うことができた。

    2010年3月、千葉の石友・Mさんから、「千葉県南房総市で日本の新鉱物が発見された」、
   と教えていただいた。
    2008年3月、栃木のSさん一家と房総半島でミネラル・ウオッチングを楽しんだとき、平久里
   の産地で知り合った石友・Sさんから、2001年に採集した「玉髄質石英」をいただいたことを
   思いだし、これを引っ張り出して、実体顕微鏡でシゲシゲと眺めると、晶洞部分に、方解石を
   伴って、見馴れない石英質の結晶があった。
    インターネットで調べると、どうやらこれが噂の『新鉱物』らしい。

    小さいながらも、『新鉱物』を手に入れることができ、千葉県への単身赴任の良い想い出
   をつくることができ、貴重な標本を恵与してくれた石友・Sさんに厚く御礼申し上げる。
    ( 2001年採集 2008年3月恵与 2010年6月公開 )

2. 『千葉県産新鉱物』の産地

    Sさんから頂いた標本のラベルには、千葉県富山町○○、とある。平成の市町村大合併で
   南房総市になったらしい。採集したのは、平成13年(2001年)、今から10年近くも昔だ。

    
      千葉県産玉髄質石英ラベル
          【Sさん恵与品】

3. 産状と採集方法

    Sさんの話やインターネットに公開された「日本鉱物科学会2008年年会講…演要旨集」に
   ある発見者の論文 「千葉県南房総市荒川から産出した包摂化合物結晶について」を読む
   と、産状や共生鉱物は次のようだ。

    『 包摂化合物を産出したのは、新第三期前期中新世の保田層群中の砂岩・泥岩である。
     保田層群には微小断層や破砕組織などが見られ、一部の裂罐は方解石脈や玉髄質の
     石英脈により充填されている。
      脈幅は数mm〜 最大数cmであり、包摂化合物の結晶は石英脈中やその空隙中に見
     られる。結晶の大半は白濁しており、既に石英の仮晶に変化しているが、一部に透明で
     新鮮な結晶が見られた。単結晶は{111}を主体とし、{100}で少し角が切られた八面体結
     晶を呈するが、殆どの結晶は{111}面でスピネル式双晶をしており、六角板状を呈する。
      共生鉱物は石英、方解石、オパールなどである。                       』

    Sさんの話では、10年ほど前、路面と法面(のりめん)にかけて石英脈が走っていて、脈が
   太くなった部分から採集したようだ。
    その当時、こんな騒ぎになるとは思わず、数個採集し、欲のないSさんは、ほとんどを石友
   (その1人が私)に差し上げたらしい。

4. 産出標本

 (1) 『新鉱物』【:SiO2)・n(CH4,C2H6,C3H8,C4H10) n<3/17】
      方解石やオパール質の石英がある石英脈の晶洞の中や石英脈の中に自形結晶とし
     て見られる。
      『既に石英の仮晶に変化している』ものもあるらしいので、単なる『石英脈』に見える部
     分もそうなのかも知れない。

      
        千葉県産『新鉱物』【Sさん恵与品】

5. おわりに 

 (1) 「石(鉱物)なし県」 返上
      千葉県は、「石なし県」のイメージを持っている人も多いかも知れない。なぜなら、千葉
     県では、どこの県でもありふれた鉱物の1つ、「水晶(石英)」が全く出ないとされていた
     くらいだ。
      その千葉県で、選りによって、「石英(SiO2)」を主成分とする日本産新鉱物が発見され
     たのは、何とも皮肉なことだ。

      2008年2月、千葉県に初めて単身赴任し、1ケ月ほどして「千葉県立中央博物館」を訪
     れ、HPに掲載した。

     ・千葉県立中央博物館の鉱物
      ( Minerals exhibited in Natural History Museum and Institute , Chiba , Chiba Pref. )

      この時見た、南房総市産の「独特の結晶形をした石英」が今にして思えば、『新鉱物』
     だったのだろう。

      千葉県で『新鉱物』が見つかったのはうれしいのだが、”こんなもの”まで新鉱物として
     区分していたら際限がないのではないか、と言うのが実業の世界で暮らすProfessional
     Engineer としての感想だ。

6. 参考文献 

 1) 門馬 綱一 et al:千葉県南房総市荒川から産出した包摂化合物結晶について
                日本鉱物科学会2008年年会講演要旨集,同会,2008年
 2) 松原 聡:日本産新鉱物・新産鉱物 鉱物情報No.162,鉱物情編集部,2010年
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