千葉県の奇石・珍石「へそ石」

          千葉県の奇石・珍石「へそ石」

1. 初めに

   技術コンサルタントとして招請をいただき千葉県に単身赴任して2ケ月が過ぎた。
  「石(鉱物)なし県」と言われた千葉県でも、各種の興味深い鉱物があり、中には
  『平久里の肉眼サイズ自然銅赤銅鉱』など、この2ケ月のミネラル・ウオッチングで
  千葉県として初めてになる新しい発見もあった。

  ・千葉県平久里(へぐり)の自然銅
   ( COPPER from Heguri , Tomiyama Town , Chiba Pref. )

  ・千葉県平久里(へぐり)の自然銅 その2
   ( COPPER from Heguri - Part 2 - , Tomiyama Town , Chiba Pref. )

   2008年3月、栃木県の石友・Sさん一家と房総半島を巡るミネラル・ウオッチングを
  ご一緒したとき、平久里で千葉県のSさんに会った。
   後日、千葉県の鉱物として「関沢の石英」「旧丸山町(現南房総市)のへそ石」がある
  ことを教えていただいた。
   「へそ石」に関心がある人は多いらしく、石川県の石友・Yさんからも「房総のへそ石」を
  採集したい、というメールをいただいた。

   そんなこんなで、「へそ石」を探しに行くことにした。Sさんからいただいた手がかりは
  ”旧丸山町△△△”だけだったが、行けば何とかなるだろう、とのいつもながら”オプティ
  ミスティック”な採集行だった。

   旧丸山町にある「嶺岡乳牛研究所」で遅い昼食を摂り、産地近くに着いたのは14時
  前後だった。地元の古い農家で、『へそ石』を聞いたが、一様に「知らない」、としか
  答えが返ってこない。
   とりあえず、近くの小川に下り、生活排水で汚れた流れの川岸沿いを観察すると、
  ”あった!!”、赤茶色の鉄錆色の丸い石が点々と落ちている。

       「へそ石」

    形が面白いものはそのまま拾い、大きくて丸いものはハンマで割ってみる。破断面
  には、黄鉄鉱や方解石が見られ、生物化石を置換しているらしい。とある場所で、ソフト
   ボール大の球顆(ノジュール)を叩くと、真っ二つにわれ、破面には『古生物の足と身体』
  と思しき部分が黄鉄鉱で置き換わったものが採集できた。

   「へそ石」は、「鉄丸石」とも呼ばれ、川ずれした石の色、形、模様などを楽しむ”水石”の
  世界では採集対象になっているらしく、ネット・オークションにも出品され、数千円という
  結構な値が付いている。

   今回採集できたものは、古生物の遺骸や生痕を黄鉄鉱や方解石(霰石?)で置換え
  たもので立派な鉱物だ。
   「石(鉱物)なし県」千葉の奇石・珍石として紹介する。
   ( 2008年3月採集 )

2. 産地

    ”旧丸山町△△△”、と教えてもらったが、地図をいくら探しても見当たらない。地形
   図ページで検索すると隣接する町らしい。
    「水石」のHPで検索すると、旧丸山町の丸山川流域でも採集できるらしい。

         
             川床の堆積岩            河原
                        産地

3. 産状と採集方法

    この地域では川床に第3紀の堆積岩が見られ、その中に生まれた”球顆”が起源だと
   思われる。母岩が風化したり、川の流れで浸食されて母岩から脱落し、流されたものと
   思われる。
    ”球顆”の正体は、『 海底で熱水が噴出したチムニー(煙突) 』、だとする説もインター
   ネット上で目にするが、私は違った意見である。
    これは、『 いわゆる”ノジュール”で、中の化石部分を黄鉄鉱が置き換えたもの 』
   考えている。なぜなら、丸い”球顆”を割ると、必ずと言ってよいほど中心部に生物の遺骸
   置き換えたと思われる方解石(霰石?)や黄鉄鉱が見られるからである。
    断面が真ん丸い”丸棒状”の黄鉄鉱が見つかることもあり、これは『サンドパイプ』、と
   呼ばれる『生痕化石』を黄鉄鉱が置き換えたもの、と考えられる。

    以上のことから、ここの「へそ石」は、比較的浅い海の底で生物遺骸が泥の中に埋まり
   あるいは泥の中の巣穴などが堆積岩となった。生物遺骸のカルシウム(Ca)分が回りに
   染み出して、”球顆”状(ノジュールと呼ぶ)になった。
    その後の地質変動で、カルシウム(Ca)と鉄(Fe)の置き換えが起きたり、パイプ状の穴を
   黄鉄鉱が充填した。
    ここの生物遺骸は厚い地層に押しつぶされ、その後、熱などの変成を受けていて
   ”フォルンフェルス”を思わせる硬さだが、うまくすると堆積した水平面に沿って割れ、
   下の写真のように”輪切り”にすることもできる。
    剥離片は”石器”に使えそうなほど硬くて鋭利なので、指を切らないように厚手のゴム
   手袋、眼にはゴーグル(メガネ)が絶対必要。もし、メガネがなかったら、”ゾ〜〜”

         
             ”輪切り”              メガネ
                    採集成果の1つ

    川原には、大小の「へそ石」が散見され、場所によっては集合している場合もある。

       産状

4. 採集鉱物

    「へそ石」の別名「鉄丸石」は、“水石愛好者”がつけた名前らしく、「饅頭石」などと同じ
   ように鉱物の正式種名ではない。多分、『鉄錆びに覆われた丸くて、”ずしり”と重い石』
   から名付けられたのだろう。

    鉱物学的な観点から「へそ石」を定義すると次のようになるだろう。

    『 表面に凹みや突起があり、針鉄鉱(褐鉄鉱)の皮膜に覆われ、内部に生物遺骸や
     生痕を置換えた黄鉄鉱や方解石(霰石)を含む球顆状ノジュール  』

    したがって、「へそ石」に伴って採集できる鉱物は、次のようになる。

 (1) 黄鉄鉱【PYRITE:FeS
      ノジュールの中に黄色、金属光沢をもつ塊状や円柱状で、生物遺骸や生痕化石を
    置き換えた形で見られる。

         
           古生物(カニ?)         生痕(サンドパイプ?)
                       黄鉄鉱

      「へそ石」の黄鉄鉱部を詳細に観察すると、中心部が方解石(霰石?)でその周りを
     黄鉄鉱が囲んでいるケースが多い。

         
              全体                拡大
                     黄鉄鉱その2

      このことは、生物遺骸のカルシウム(Ca)が方解石や霰石のいわゆる”化石”になった
     後に、カルシウム(Ca)が鉄(Fe)で置き換わったと考えられる。

 (2) 方解石【CALCITE:CaCO3
     霰石【ARAGONITE:CaCO3
      「へそ石」の中に、生物の遺骸が鉱物に変わった形で産出する。”化石”について
    知識が乏しい私が生物の元の形を推定したり、ましてや学名を決定するのは難しい。

       方解石(霰石?)

5. おわりに

 (1) 千葉県の奇石・珍石
      2008年1月末に千葉県に単身赴任して2ケ月あまりが経過した。千葉県での
     ミネラル・ウオッチングも一通りの産地を回り、中には新発見となる鉱物もあったが
     そうそうたくさんの産地があるわけではない。

      そんなわけで、千葉県の奇石・珍石「へそ石」採集となった。今回、いくつかの代表
     的な標本を採集し、それらから「へそ石」の成因が推測できた。それは、インターネット
     上で言われているような小難しいものでなく、化石好きな小学生でも知っている常識的
     なものだろう。

      「へそ石」の存在を教えてくれたSさんに厚く御礼申し上げる。

 (2) 千葉県の珍味
      千葉県外房(太平洋沿岸)の珍味として「なめろう」と「さんが」があることは既にHPに
     掲載した。

      今回のミネラル・ウオッチングの帰途、道の駅「富楽里とみやま」に立ち寄ると「さんが」
     を売っていたので早速購入した。
      ( 館山道「市原SA」では、同じものを50円安く売っていた )

      これをマンションに帰って焼くと、香ばしい香りがして、ビール、ワインで美味しくいた
     だいた。

         
            冷凍状態            コンロで焼いた状態
                       さんが

      包装の裏に、”さんが”の由来が書いてあるので、紹介する。

      『 3種類の辛い香味野菜(ねぎ、生姜、大葉等)を混合することから「3辛・さんがら」
       と呼ぶ土地もあり、それが語源だと伝えられている 』

 (3) 千葉県の奇石・珍石−その2−
      よその都道府県なら道端ででもゴロゴロ見かける「石英」が千葉県では珍しい。
     石英ウオッチングの結果については、別途報告したい。

6. 参考文献

 1) 加藤 昭、松原 聰:鉱物採集の旅 東京周辺をたずねて,築地書館,1982年
 2) 草下 英明:鉱物採集フィールドガイド,草思社,1988年
 3) 松原 聰:関東地方の鉱物,鉱物情報100号記念出版物企画委員会
           池田重夫技官退官記念会,平成10年
 4) 千葉県立中央博物館編纂:千葉県の鉱物,同館,2000年
 5) 松原 聰、宮津 律郎:日本産鉱物型録,東海大学出版会,2006年
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