千葉県鴨川市太海(ふとみ)の『房総錦石』

     千葉県鴨川市太海(ふとみ)の『房総錦石』

1. 初めに

   某電子部品メーカーから招請をいただき、技術コンサルタントとして2008年1月
  千葉県に単身赴任した。
   持って行く荷物はできるだけ少なくしようと、鉱物関係の本は、草下先生の「鉱物
  採集フィールドガイド」ほか数冊だった。
   「鉱物採集フィールドガイド」を読み直してみると、『千葉県安房鴨川の鉱物産地』
  なる一章があり、鴨川市太海海岸で「メノウ」、「玉髄」などの鉱物が採集できると
  ある。
   2008年2月初旬、単身赴任の”行状監督”に来た妻と、太海海岸を訪れた。
  フィードガイドの写真と同じ光景の海岸で、「メノウ」「玉髄」などを拾うことができ、
  その結果をHPに掲載した。

    ・千葉県鴨川市太海(ふとみ)の鉱物
       ( Minerals from Futomi , Kamogawa City , Chiba Pref. )

   このページを読んだ大勢の石友から、メールをいただいた。千葉のMさんからは

    『 奈良、平安時代ならば、きっと「仏舎利」の代用品になっていても不思議あり
     ませんね。
      雲根志にもある 母衣月(ほろつき)海岸産 「舎利石」とはやや成因が違う
     のでしょうが、よく似ていますね。いずれも、火山岩由来ではあるようですが。
      津軽錦石の小さい版の様にも見えますね。 『房総錦石』とでも名付けまし
     ょうか。
      それにしても綺麗な小石ですね。                        』

   にわか千葉県民の私としてもMさんの提案には大賛成で、『房総錦石』として、
  改めて紹介してみたい。
   ( 2008年2月採集 同月拾遺 )

2. 産地

    「鉱物採集フィールドガイド」に掲載されている地図を引用させていただく。この
   本の地図に、『めのう礫の採れる砂浜』、とある場所である。

     産地地図【フィードガイドから引用】

    「フィールドガイド」には、この海岸の1880年以前の写真が掲載されているが、
   その後採石が進み、さらに「青年の家」が建つなどして山際の様子は大きく変わ
   っている。

       
        1980年以前               2008年
     【フィードガイドから引用】
                   産地の変貌

3. 産状と採集方法

   海岸には砂浜が広がり、その北の端のほうので「めのう」「玉髄」を拾うことが
  できる。小さな礫が砂の下に潜り込んでいるので、砂を少し掘ると良いだろう。

4. 産出鉱物

 (1) メノウ【Agate:SiO2
     玉髄【Chalcedony:SiO2

      松原先生の「日本産鉱物型録」を見ると、「玉髄」は載っているが「メノウ」
     は見当たらない。

      現在では、「玉髄」は、『微粒石英の集合体』、つまり「石英」が
     鉱物名になり、「メノウ」や「玉髄」などはその”亜種”あるいは”俗名”となる
     ようだ。
      太海海岸で採集できるものは、色は白色〜灰色〜緑色〜黄色〜赤茶色
     透明度も透明〜不透明で、その組み合わせが各種あり、それらが部分的に
     入り混じったものもある。

       
           メノウ・玉髄礫            赤玉石
                      採集品

      石友・Mさんから、「メノウ」と「玉髄」の違いについてメールいただいたので
     ご紹介したい。

      『 鉱物学的に両者の差が何なのか、よく判らない記述になっている。 と
       ありましたので単身赴任したMHに代わり、手元の本を調べてみました。

        【楽しい鉱物図鑑/堀秀道/草思社/1992.11.10】

         石英の顕微鏡的な結晶(ただしb軸方向に伸びている)が集合して、
        塊状なっているものを玉髄(Chalcedony)という。さらにその玉髄の中で
        でも、紅色になったり、縞模様があったりして美しいものをめのう(Agate)
        といっている。  68P
         碧玉(Jasper )は不純な石英で、酸化鉄などが混じるために赤色、
        緑色、褐色、黄色などに色がついている。日本産の緑色の碧玉では、
        島根県玉造の花仙山のものが古代から勾玉などに使用され、古風土記
        にも記述がある。赤色系の碧玉では佐渡の赤玉が有名である。血石
        (Bloodstone)はインド産の暗緑色の生地に赤色の斑点が入るもので、
        碧玉の一種である。不純物のために着色した石英に対してつけられた
        特別な名称は山ほどあった、それを列記して解説したら一冊の本が
        できてしまう。  69P

        【日本の鉱物 (フィールドベスト図鑑 15) /松原 聰
                                /学習研究社/260P/2003.9.18】

         微細な石英がち密な塊を作ることも多い。これは玉髄(カルセト゛ニー)
        とよばれている。226P

         玉髄のうち、明らかな縞状組織をもつものをめのう(アゲート)という。
                                              227P

        個人的には『碧玉』の『碧』とは緑を表す文字ですから、赤玉を碧玉の
       一種にするのは日本版"red-beryl"の様でしっくりしません。
        色名が含まれる名称は混乱のもとになりえるので、あまり望ましい名称
       とは言いがたい。
        緑柱石(Beryl)の亜種名として、鮮やかな緑色(Emerald) 、水色(Aqua
       -marine )、黄色(Heliodor) 、 無色(Goshenit)e 、ピンク色(Morganite)
       濃赤(Red-beryl )                                』

5. おわりに 

 (1) 『ハンマーに封印』

     HPに『千葉県鴨川市太海(ふとみ)の鉱物』として、『玉髄』を紹介したところ
    上記のMさん以外にも大勢の石友からメールをいただいた。

     そのメールを読ませていただくと

     ・ 還暦を過ぎ、慣れない単身赴任で、ご苦労様なことだ。
     ・ 『ハンマーに封印』、とか何とか言いながら、今まで、いや、それ以上にミネ
      ラル・ウオッチングをエンジョイして素晴らしい標本を採集している。

     という気持ちが、言外に読み取れた。

     兵庫県・Nさん夫妻
     『 美しいいメノウです。 HPがんばっておられますね。  ・・・・・     』

     千葉・Fさん
     『 MHのHPに掲載されているの採集品の写真に茶色で透明感のある
      ものが二つありますが、これはもしかしてガラスではないでしょうか  』
      Ans 「そうかも知れません」

     愛知・Tさん
     『 千葉でもお仕事に鉱物採集に大活躍のご様子、うれしく思います。
       やはり「ハンマー封印」なんてもったいないですよね          』

 (2) 『 錦石 』
      『 錦石 』のご本家は、青森県の津軽地方の『津軽錦石』だろう。たしか、
     平成4年(1992年)2月、青森県の五所川原市に出張で行った。乗り換えの
     ため、弘前駅に降りると、ホームの隅に大きな「津軽錦石」が展示してあった。
      金曜日の出張だったので、その日は青森市内で一泊した。土曜日に母衣月
     (ほろつき)海岸で「仏舎利石」を採集し、日曜日に札幌雪祭りをみて帰ろう、
     という魂胆だった。( もう、時効でしょう )
      宿のロビーに飾ってあった「青函トンネルの石」を撫で回しているのを見た
     女将さんが、「良かったら差し上げますよ」と言ってくれ、遠慮なくいただいて
     きた。

      翌日、青森を発ち、今別駅で降り、母衣月海岸まで行ったが、海岸には
     防波堤があり、「仏舎利石」は拾えなかった。
      しかたなく、来る途中に見た、今別町の「山崎海岸」まで戻ることにした。
      待てど暮せどバスは来ず、歩き始めて間もなく、今別駅前の魚屋さんの
     車が止まってくれ、山崎海岸まで乗せてくれた。

      山崎海岸では、「仏舎利石」と「津軽錦石」をしっかり、採集できた。

      それから、数年経った平成8年(1996年)から平成9年(1997年)にかけて
     プロジェクトの関係で、1、2ケ月に一回、青森の工場を訪れた。私の趣味が
     ミネラル・ウオッチングであることを知っている工場の方が、休日に山崎海岸を
     案内してくれ、この時も「仏舎利石」と「津軽錦石」をしっかり、採集できた。

      これらのことが、昨日のように思い出され、千葉での仕事が片付いたら、また
     訪れてみたいと思っている。

 (3) 「美しいメノウ」の秘密
     何人かの石友から、「綺麗なメノウですね」とメールをいただいた。実は、この
    裏には、チョットした細工があるのだ。

     「メノウ」など、水に濡れているときは『湯上り美人』よろしく、綺麗に見えるのだが
    表面の水分が飛ぶと、どうしても”ガサガサ””不透明”になり勝ちだ。

     とある本を読むと、「椿油」を塗ると”テカテカとした美しさ”をキープできる、と
    あった。単身赴任先で「椿油」が手に入る訳もなく、周りを見渡すと「オリーブ油」
    があるではないか。これも同じ”木の実の油”だから、効果あるのではないかと
    塗って撮影したのが、上の標本写真である。

     実は、長野県の石友・小Yさんに「椿油」を教えたがなかったので、「オリーブ油」
    を塗ったら綺麗になった、と聞いたのを試しただけである。

6. 参考文献 

 1) 益富 寿之助:鉱物 −やさしい鉱物学−,保育社,昭和60年
 2) 草下 英明:鉱物採集フィールドガイド,草思社,1988年
 3) 松原 聰、宮津 律郎:日本産鉱物型録,東海大学出版会,2006年
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