2011年の恵方 南房総ミネラル・ウオッチング







      2011年の恵方 南房総ミネラル・ウオッチング

1. 初めに

    2011年1月、私が所属する鉱物同志会の新年会で千葉県の石友・Tさんはじめ多くの
   石友にお会いしたのは、既報の通りだ。

    ・平成23年 鉱物同志会新年会
     ( New Year Meeting of Friends of Mineral 2011 , Tokyo )

    「花園山のトルマリン」効果かどうかは分からないが、スッカリ元気を回復したTさんの
   姿をみて、一安心した。

    1月末、コンビニに入ると「恵方巻予約受付中」の表示が眼につき、街中でも「恵方巻」
   の幟(のぼり)が見られるようになった。

        
               コンビニ              回転すし店
                      「恵方巻」表示

    何でも、2月3日の節分の日に、「恵方巻」なるものを食べるのが今どきの流行らしい。
   今年、2011年の「恵方」(縁起の良い方角)は、「南南東」と幟に書いてある。

    同志会の新年会から1週間ほどして、Tさんから「同志会のバザーに『千葉石』 が出
   ていたらしいが、買い逃した」、と残念メールがあった。
    『千葉石』が出ていたことは上のHPに書いたとおりだ。にわか(モグリ?)千葉県民の
   私にはどうしても欲しいものではない。しかし、千葉県民半世紀のTさんの標本も欲し
   いが、産地を一度見て置きたいという気持がヒシヒシと伝わってきた。
    そこで、産地を案内することにしたが、産地の場所が判っていたわけではない。ただ、
   千葉県で「石英」が採集できる場所は、あの辺りしかない、ので捜せば判るだろうくら
   いの軽い気持ちだった。
    ここで、気になることがあった。Tさんの家から『千葉石』の産地は、「南南東」の恵方
   に当るのだが、私のマンションからは、南南西寄りになってしまう。そこで、2人にとって
   恵方にあたる「鴨川の八岡(ようか)海岸」の産地も訪れることにした。

    朝7時、私のマンションで落ち合い、私の車に乗ってもらい、春の光を浴びながら、館
   山道を南下し、「鋸南富山(きょなんとみやま) 」ICで下り、産地を目指す。
    以前、「石英」を採集した場所に行って驚いた。入り口にフェンスが張られ、立ち入り
   できないようになっているではないか。
    2人とも、「技術士」の資格のある身、この日は産地の雰囲気をTさんに知ってもらう
   だけになってしまった。こんなこともあろうかと、以前、石友・Sさんにいただいた、『千葉
   石』の片割れをTさんに進呈し、次なる産地に向かった。

    道端にスイセンが咲きほこる南房総の長閑(のどか)な景色の中を走ること30分足ら
   ずで、「八岡海岸」に到着した。海岸に下り、昔、Tさんが1cmもある肉眼サイズの「ソー
   ダ沸石」のポイントに案内してもらう。然し、「ソーダ沸石」の影も見えない。少し戻って
   いつもの採集場所で、小さいながら「ソーダ沸石」や「方沸石」などを採集でき、時間も
   昼時になり満足して引き上げた。

    Tさんが「MH せっかく房総まで来たんだから、何か美味しいものを食べよう」、という
   ので、安房鴨川駅近くの海鮮料理店に入った。「なめろう」や「さんが焼き」など鯵(あじ)
   料理が5、6品ついた「あじ御膳」(2,500円)を注文する。
    さすがに、地元でとれた鯵だけに、鮮度が高く、脂がのって美味い。だし汁を掛けて
   食べるご飯も美味しくて、お代わりするほどだった。

    最後に訪れたのは、房総の銘石、はたまた珍石 「鉄丸石」、別名「へそ石」の産地だ
   った。川の水が少なく、採集は楽だったが、完全な形の『丸石』はメッキリ少なくなって
   いる。それでも、Tさんが見つけた一品は、孫の頭ほどもあり、孫の顔を想い出させる愛
   らしいものだった。

    こうして、恵方・南房総でのミネラル・ウオッチングは終日春を春を思わせる暖かい陽
   に包まれ、無事に終了した。私のマンションに戻ったのは4時過ぎで、思ったより産地が
   近いのには、改めて県内であることを認識させてくれた。

    帰宅したTさんから、丁寧なお礼のメールとともに、「また、ご一緒しましょう」、とあった
   ので、新たな産地を物色している。
    ただ、われわれ、弥次、喜多コンビにとって、『鬼門』があるようなので、選択が難しい。
    ( 2011年1月 採集 )

2. 『千葉石』を求めて

    7時前にTさんが私のマンションに到着。採集道具や長靴などを私の車に移してもらい
   すぐに出発。
    Tさんが、「MH、せっかく南房総まで行くのだから、お昼は何かおいしいものを食べよ
   う」、と言うが、「産地附近にはしゃれたお店がない」ので、念のため、コンビニでおにぎ
   りと飲料水を購入。
    「武石」ICから京葉道路に乗ると、行楽のオフシーズンで朝早いせいか思ったほど混
   雑していない。暖かい春の日差しを浴びながら、館山道を順調に南下する。
    車内での会話は、お互いの孫の話がどうしても多くなる。孫歴でも先輩のTさんの話が
   孫への接し方やお嫁さんとの付き合い方の参考になった。

    「鋸南富山」ICで下り、道の駅「富楽里(ふらり)富山」でトイレ休憩して、15分ほど走ると
   『千葉石』の産地と思われる場所だった。
    ここには、2008年4月、千葉県に単身赴任してまもなく訪れ、その時の様子はHPに載
   せた通りである。

    ・千葉県の奇石・珍石 − その2 − 「水晶」
     ( Rare and Curious Minerals - Part 2 - "QUARTZ" from Chiba , Chiba Pref. )

    現地に着いて周りの景色が大きく変わっているのに驚いた。以前は映画の撮影が行わ
   れていて、人の出入りもあり、居合わせた人に断って採集できたのだが、今では入り口
   はフェンスで閉鎖されて、まるで”廃墟”のようだ。
    フェンスの脇には、踏み分け道もある。2人とも社会的にも信用(?)のある「技術士」
   の肩書きををもつ身で、どうしようか迷っていると、Tさんが「新鉱物産地というので、もっ
   と険しい場所にあると思っていた。MH、産地の雰囲気がつかめただけで充分だ。」、と
   言うので、入り口で引き返すことにした。
    その代わりに、千葉の石友・Sさんに教えていただいた「トベルモリ石」などが採集でき
   る産地を訪れ、細い脈だが採集できた。

    3年振りでTさんが、ハンマで露頭を叩く姿、ルーペで標本を観察する姿を見て、”復活
   間違いなし!!”
を確信した。

        
            ハンマで叩く                ルーペでのぞく
                       Tさん 復活!!

    結局、『千葉石』は石友・Sさんが恵与してくれた標本を小割にしてTさんに差し上げる
   ことで決着した。  

2. 『鴨川鉱山』を訪ねて

    そこから、20kmほどに安房鴨川市・八岡海岸がある。ここは、千葉県を代表する鉱物
   に選ばれている「ソーダ沸石」はじめ綺麗な鉱物を採集できる場所として夙(つと)に有
   名だ。過去にも何回か訪れ、そのたびに素晴らしい標本を入手できている。
    栃木県の石友・Sさん一家と娘のYさんの春休みに合わせ、2008年3月に訪れた時は
   素晴らしい「ソーダ沸石」を採集でき、Yさんの名前のラベルがついた大きな塊が今では
   長野県川上村湯沼鉱泉の「水晶洞」に飾られている。

    ・2008年春休み房総ミネラル・ウオッチングの旅
     ( Mineral Watching Tour in Boso Peninsula , Spring Holiday 2008 , Chiba Pref. )

    昔、Tさんが「ソーダ沸石」の良品を採集した場所に案内してもらったが、「ソーダ沸石」の
   姿は全く見当たらない。
    しかたなく、以前採集した場所に戻って探すと、”キラキラ”した「方沸石」は眼につくの
   だが、「ソーダ沸石」はない。それでもようやく、一個体だけ採集できた。

        
              Tさん                      「ソーダ沸石」
                   八岡海岸採集風景と採集品

    ここには昔(大正初期)、「鴨川鉱山」(鴨川銅山)があったことは、骨董市で入手した
   絵葉書や茨城県に単身赴任していたとき懇意にしていただいた古書店主・Oさんから送
   ってもらった古い地図などで明らかだ。

    ・千葉県鴨川銅山の絵葉書
      ( Post Card of Kamogawa Copper Mine , Chiba Pref. )

    ・鉱山を示す千葉県地図
       ( Chiba Pref. Map indicate Mine Location , Chiba Pref. )

    絵葉書にある鉱山のズリの辺りに行くと派手に掘り崩されている。その表面を観察す
   ると、緑青色の2次鉱物の付いたズリ石があった。
    Tさんの見立てでは、海岸際にある島根県志津木鉱山の「アタカマ石」の産地に似ている
   らしいので、1個採集した。

     「アタカマ石」?

    ズリ石の間に、赤絵の付いた陶磁器の破片、削岩機で孔を穿(うが)ったズリ石なども、
   『産業遺物』として持ち帰った。

        
              削岩機で穿った孔                 赤絵陶磁器
                           「鴨川銅山」産業遺物

    昼過ぎになり、Tさんの「MH せっかく南房総まで来たのだから何か美味しいものをた
   べよう」、との提案にすぐさま乗って鴨川市街地に向って進む。
    途中で、千葉に単身赴任してから入手した「鴨川鉱山(銅山)」の絵はがきに描かれた
   ポイントに来て、見比べるための写真を撮影した。( 「あんたも好きだネ」・・・蔭の声)

        
            絵葉書【大正初期】                 現在【2011年1月】
                         鴨川鉱山(銅山)の今昔

    【後日談その1】
      HPの読者から、「鴨川鉱山の風聞」、と題するメールをいただいた。

     『 (HPを)見させていただきました。言い伝えでは、鴨川鉱山は室町のころにもあっ
      たといいます。
       鴨川の沖合に浮かぶ海獺島まで坑道があり元禄の地震で陥没して中に閉じ込
      められて居るとの話もありました。鴨川漁港のなかに磯村という地域の陥没もあり
      ますので関連も考えられます。参考まで。資料はありません             』

     室町時代といえば、1400年ごろから1570年頃までで、山梨県にあった金鉱山は室
    町時代に信玄やその父・信虎の時代に坑道掘りで始まった、と伝えられており、あり
    得ない話ではない。
     『石なし県』としては、夢のある話だ。

    鴨川駅まで行ったのだが、途中には旅行客が食事ができそうな店が見当らない。国
   道に出ると、海鮮料理店の看板が見えたので入ってみた。100人は収容できそうな大き
   な店で、半分くらいの席が埋まっている。
    『「鯵御膳」を食わずして、房総の味を語るなかれ』、のキャッチコピーに惹かれ、2人と
   も「鯵御膳」(2,500円)を注文、ご好意に甘え、支払いはTさんにお任せした。
    「 ゴチになりました !! 」

     

 ・「なめろう」とたたき
 ・「さんが焼」  ・フライ
 ・南蛮漬け
 ・酢で〆めた(?)

  「 奈良のYさん!
    本場で食べる「さんが焼」と
   「なめろう」は最高!!
    これで、冷酒か熱燗でも
   あればなお結構だが・・・・ 」


    満腹になったところで、これからの予定を打ち合わせる。湯沼鉱泉社長がお気に入り
   の「鉄丸石」、別名「へそ石」を採集することに決定。ちょうど、戻り道の途中、和田町に
   ある産地だ。
    川の水が少なく、採集は楽だったが、完全な形の『丸石』はメッキリ少なくなって
   いる。それでも、Tさんが見つけた一品は、孫の頭ほどもあり、孫の顔を想い出させる愛
   らしいものだった。

        
            採集風景              マイ・コレクション
                 「鉄丸石」の産地と採集品

     【後日談その2】 

      その翌週の日曜日、東京の骨董市に行った。いろいろな出店をのぞいていると
     どこかで見たような真っ黒い石が置いてあった。
      ラベルを見ると、「鉄丸石」とある。ただ、産地は千葉県ではなく、『阿部川』とある。
     静岡県の安倍川のことだろうか。値段を見て驚いた。38,000円だ。

      「鉄丸石」【静岡県安倍川?産】

      骨董市での値段はあってないようなもので、値引くのがあたり前になっている。
     店主の方も心得たもので、値引きを前提にした高い値段が付いていることが多いが、
     それにしても 4万円近いとは驚きだ。

    こうして、恵方・南房総でのミネラル・ウオッチングは終日春を春を思わせる暖かい陽
   に包まれ、無事に終了した。私のマンションに戻ったのは4時過ぎで、思ったより産地が
   近いのには、改めて県内であることを認識させてくれた。

5. おわりに

 5.1 「恵方」「鬼門」
     縁起の良い方角が「恵方」なら、悪いほうは「鬼門」であろう。昔、「ディスカバー・ジャ
    パン」が流行ったころ、石川県の金沢を訪れたことがあった。ガイドさんが、『 金沢城
    の鬼門(北東)にあるのが卯辰山で、・・・・城を守る為に寺院が集められた・・・・・・』、
    と話していたと記憶している。

     Tさんと私の弥次・喜多コンビにとって、「北西」が鬼門のようで、2008年に訪れた栃
    木県と福島県の境の「越路銅山」跡ではとんでもないものを発見したのは既報の通り
    だ。

     ・栃木県「越路銅山」の鉱物
      ( Minerals from Koshiji Copper Mine . Tochigi Pref. )

     もっとも、気にしていたら、ミネラル・ウオッチングにしろ何にしろ、行く場所がなくなっ
    てしまう。

 5.2 また会う日まで
      Tさんと私は、満州(中国東北部)で、生をうけ、民間会社に勤務し、「技術士」の資
     格を取得し趣味が鉱物と共通点が多く、楽しいミネラル・ウオッチングだった。
      Tさんとおしゃべりしながら、南房総の長閑(のどか)な景色を眺め、おいしいものを
     いただき、明日からの活力を得た。Tさん、またご一緒しましょう。

        
             スイセン畑                  ソテツとスイセンと夏ミカン
                         南房総春景色

5. 参考文献

 1) 加藤 昭、松原 聰:鉱物採集の旅 東京周辺をたずねて,築地書館,1982年
 2) 草下 英明:鉱物採集フィールドガイド,草思社,1988年
 3) 松原 聰:関東地方の鉱物,鉱物情報100号記念出版物企画委員会
           池田重夫技官退官記念会,平成10年
 4) 千葉県立中央博物館編纂:千葉県の鉱物,同館,2000年
 5) 松原 聰、宮津 律郎:日本産鉱物型録,東海大学出版会,2006年
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