2008年春休み房総ミネラル・ウオッチングの旅

   2008年春休み房総ミネラル・ウオッチングの旅

1. 初めに

   栃木県の石友・Sさん一家と湯沼鉱泉社長の仲立ちで知り合ったのは2005年
  8月だった。その当時小学生だった娘のYさんは、中学生になり、2年生だった
  昨年(2007年)の夏休みに岐阜県苗木地方を一緒に回った。
   このとき採集した「サファイア」、「トパズ(黄玉)」などの鉱物標本に、”比重”
  などの測定実験結果を加え、自由研究としてまとめて提出したところ、先生の
  推薦で市郡の理科展に出品され、上位入賞を果たし県から賞状を頂き家族で
  大喜びだった。

   3年生になる今年も自由研究のテーマに「鉱物採集」を選ぶことにしているの
  で、栃木県とは地質的にも違う房総半島を巡るミネラル・ウオッチングをご一緒
  することにした。

   既に私のHPで紹介した産地を中心に約360kmを2日間で巡検し、博物館級の
  「ソーダ沸石」はじめ、この産地の代表的な標本を一通り採集することができた。
   今回、Sさん一家を案内したのは、千葉県の代表的な産地をほとんど網羅する
  房総半島一周の旅だった。

   (1) 下佐久間・・・・・・・・・【採集禁止】
                   見学のみ
   (2)  平久里・・・・・・・・・・「ゾノトラ石」、「トベルモリー石」、「霰石」など
                   「自然銅」のポイントは、今回パス
   (3) 嶺岡林道・・・・・・・・・「方沸石」など
   (4) 鴨川・・・・・・・・・・・・・八岡海岸の「ソーダ沸石」、「方沸石」など
                    太海の「メノウ」は、波が荒く危険なので断念
   (5) 長崎鼻・・・・・・・・・・・「霰石」など

   初日に泊まった鴨川市の民宿では、『石はあるが、海なし県』に住む私たちに
  とって普段口にできない新鮮な魚介類のオンパレードで、しかもボリュームも
  満点で、大食漢の私でも”完食”できなかった。

   2日目の昼食は、銚子漁港前の食事処で房総の珍味『なめろう』を皆で味わ
  い、その語源が岡山の『ままかり』同様にその美味しさからきていることを実感
  した。

   2日間とも快晴に恵まれ、”晴れ男”健在を示すとともに、産地では鉱物同志会
  Sさんや、千葉の石友・Yさん親子に偶然お会いするなど、ハプニングもあった。

   今回のポイントを中心に、石友たちと次回の「ミネラル・ウオッチング」で回る
  のを楽しみにしている。
   ( 2008年3月採集 )

2. 【第1日目】

 2.1 市原SAに集合!!
     6時にマンションを出発。7時前に市原SAに到着し、私たち夫婦はいつもの
    シルバー割引朝食バイキングをいただく。食事を終え、Sさん一家を待って
    いると私の携帯が鳴る。悪い予感。京葉道路が渋滞し、30分くらい遅れそう
    だ、とのSさんからの電話だった。
     車のベッドに横になって「千葉県の鉱物」や「関東地方の鉱物」を読み直し
    ていると、”コンコン”と窓を叩く音がする。Sさんのご主人だ。10分程度の
    遅れだった。
     朝食がまだ済んでいないSさん一家は、ハンバーガーを買い込み、走りながら
    食べていただくことにする。
     半年振りにお会いすると、娘のYさんは縦に大きくなり、奥さんは横に成長
    している。【本人談をそのまま掲載】

     Sさん一家【市原SAにて】

 2.2 採ってよいのは写真だけ【下佐久間の蛇紋岩露頭】
     鋸南富山ICで館山道をおり、下佐久間の露頭に向かう。ここは嶺岡山地の
    西の端に位置し、かつて「アルチニ石」など炭酸塩鉱物の良品が産出した
    蛇紋岩の露頭が観察できる。
     HPで既報のように、ここは現在採集禁止になっており、栃木県では見る
    ことができない蛇紋岩の露頭を見学していただく。

     下佐久間【採ってよいのは写真だけ】

 2.3 平久里の霰石
     下佐久間を後にし、平久里に向かう。沿道の河津桜は既に葉桜に変わっ
    ていて、暖かさを感じさせる。黄色い菜の花畑には、モンシロチョウや蜜蜂が
    飛び交い、菜の花畑に近づくと強い香りがして、Sさんの奥さんは「こんな
    匂いがしたのかしら?」と不思議がっていたが、私は子供のころに嗅いだ
    匂いを思い出していた。
     里山では、ウグイスが綺麗なメロディーを奏でている。まさに房総の春
    真っ盛りだ。

       
           河津桜               菜の花畑
                       房総の春真っ盛り

     道の駅「富楽里(ふらり)とみやま」でトイレ休憩の後、平久里に向かう。ここで
    は、下見の時発見した蛇紋岩の露頭で綺麗な「霰石」、「方解石」、「ペクトライト」
    を採集、斑レイ岩の露頭からは希産とされる「針状結晶のゾノトラ石」を採集し、
    次なる「自然銅」を目指して移動しよう車に戻ってきた。

     そのとき近づいてきた車から降りた人が、「MHさんですか?」と私の名前を
    呼ぶのでビックリした。
     千葉県在住のSさんで、私と同じ鉱物同志会の会員だという。この日、鴨川
    方面を探索し、その帰途とのことだった。
     「トベルモリー石」の露頭を案内してくれるというご好意に甘え、私だけが
    もう一度採集に出かける。

     柘榴石角閃石片岩の露頭があり、その中に「トベルモリー石」と「ペクトラ
    イト」の白い脈がきていて、それをタガネとハンマで掻き採る。
     Sさんのお蔭で未採集だった「トベルモリー石」の良標本をゲットできた。
     お礼に、「自然銅」の産地を教え、お別れした。

 2.4 嶺岡林道
     当初の予定は「自然銅」の産地を訪れる予定だったが、「トベルモリー石」を
    採集していたため、スキップせざるを得なかった。
     嶺岡林道1号と2号の合流点付近に嶺岡乳牛研究所がある。『日本の酪農
    発祥の地』、というので、ヤギなどの小動物が放し飼いにされていて触れる
    こともできる。TVでしか見たことがない、背中にコブがあるインドの白い牛な
    ども間近で見ることができる。

     ここで、昼食にする。食後のデザートは、ここで作っているアイスクリームだ。
    観光地に多い、”甘ったるい”ものと違い、文句なく美味い。

     アイスクリームを食べるYさん

  (1) パラグライダー場
       嶺岡林道2号を走ると、左側にパラグライダー場が見えてくる。この日は
      風が強すぎて静まるのを待っていた。
       私たちが”キラキラ”輝く「方沸石」を探していると、一人の女性が近づい
      てきて、「何を探しているのですか?」と聞いてきた。
       ナトリウム(Na)を含む石なので、数千年前ここは海の中にあったこと、
      それが陸になったことなどを説明していると、いつの間にか10名近い
      ギャラリーが集まっていた。

         
             地学講座             方沸石露頭のYさん
                     パラグライダー場

  (2) 嶺岡ニッケル鉱山跡
       ここにある、蛇紋岩の転石を割ると、破断面に緑色の鉱物が見える。
      下見のときも気づいてはいたのだが、鉱物種が決められなかった。よく
      見るとへき開が顕著で、「透輝石」だろうと思う。

    この辺りから、眼下に太平洋の大海原と鴨川の町が見え隠れし、この日最後
   の産地が近い。一気に急な坂を下ると八岡海岸だ。

 2.5 八岡海岸
    八岡海岸に下り、転石がごろごろしている場所で、白い脈や”キラキラ”輝く
   「方沸石」がきている部分を丹念に見ると「ソーダ沸石」の針状結晶が見える。
    この転石を小割りにすると、晶洞部分に結晶が林立する良品部分が見つかる
   ことがある。
    Sさんが見つけた転石には、綺麗な結晶が見えたのだが、見える部分だけを
   採ろうとしたら、”粉々”になってしまったようだ。SOSを聞いて駆けつけ、周りから
   大きく掻き採っていくと、30cmほどの全面に「方沸石」その間に「ソーダ沸石」の
   針状結晶が見られる”博物館級”の標本が得られた。
    Sさん一家の了解を得て、この標本は私が預かることになった。

       博物館級に魅入るSさん一家

    このほか、ここでは、「魚眼石」と思われる輝きの強い結晶も見られ、何個か
   サンプルを確保したので、実体顕微鏡での同定が楽しみだ。

    このとき、後ろから私の名前を呼ぶ人がいた。声を聞いて、すぐ千葉の石友
   Yさんだと判った。息子のY君も一緒だ。高校生になり、薄っすらとヒゲも生え、
   立派な青年になりつつある。

    Yさん親子は、某鉱物団体と一緒に、八岡海岸を訪れ、別な場所で「桃簾石」
   を採集していたらしい。海岸をフラフラ歩いていた妻がYさんを見かけて声をかけ
   Yさんが私のところに駆けつけてくれたのだった。

    この日は、某大学のメンバーも来ており、20名近い採集者がいたことになる。

 2.6 太海海岸
     「房総錦石」を探しに、太海海岸に行ったが満ち潮で波も荒く、安全を考え
    次回のお楽しみ、となった。

 2.7 鴨川の夜は更けて
     単身赴任先の課長で、外房九十九里の方がいる。外房でのお勧めの宿を
    紹介して欲しいとお願いしたのは、ミネラル・ウオッチングの2週間ほど前だっ
    た。ネットであちこち探して見たのだが、房総半島は首都圏に近い観光地な
    ので、1泊2食15,000円は覚悟しなければならない。
     課長がネットで探して申し込んでくれた宿は、民宿で1泊2食6,500円という
    格安で、リピータも多いという。

     鴨川駅からさほど遠くない民宿に16時過ぎには到着した。割烹として造られ
    た部屋は、北山杉の床柱、細い竹を網代にした天井など、つくりが凝っていて
    民宿に多いプレハブに毛の生えたようなものではなく一安心。
     女将さんも浜辺に多いタイプの気風の善い人で、リピータが多い理由もわかる。

  (1) 乾杯!!
      やがて料理7品(カニ、サザエの壷焼き、マグロ他の刺身、鰆の照り焼き、
     鯵の南蛮漬け、車海老ほかの鉄板焼き、金目鯛の煮付け)が並ぶ。
     今日一日の成果に先ずは乾杯!!

         
            乾杯!!                料理
                    鴨川の夜は更けて

  (2) 標本玉手箱
       私が千葉に来て採集した中でお気に入りの鉱物種「印西の貝化石の中の
      方解石」と「長崎鼻のピンク色霰石」をYさんにプレゼント。翌日訪れることに
      なっているが採れない場合の保険でもある。

       Yさんから私たち夫婦にペアルックの携帯ケースをいただいた。Yさんが趣味
      で作ったものだが玄人はだしで、気に入った。使うのがもったいない。

  (3) 大人の時間
       この後、Sさんが持ってきた「男山大吟醸雫酒」を酌み交わしながら近況を
      話し合う。
       半年前に岐阜県苗木地方をご一緒したときには考えられなかった環境に
      私があるのも不思議というか人生の機微であろうか。
       いつまでも語り合っていたいが、栃木を5時に出発したお疲れのSさん一家
      なので早めにお開きとする。

3. 【第2日目】

 3.1 今日も快晴!!
     7時からの朝食にあわせ6時30分に起床。食堂で宿泊客の皆さんと朝食をい
    ただく。朝から「渡り蟹の味噌汁」が五臓六腑にしみ込む。シッカリ2膳のご飯を
    食べ、いざ出発!!

     出発にあたり、女将さんを囲んで記念写真。Sさんの奥さんは、女将さんから
    『 Yさんとご姉妹ですか? 』、と聞かれ、「 また来る!! 」、と叫び、これで
    リピータ第一号決定

       記念写真【鴨川の宿の朝】

 3.2 九十九里×4km/里=436km ?
      8時前に宿を出立。太平洋の沿岸を北上する。九十九里は長い。1里4kmと
     して436kmはないにしても100km前後ありそうだ。走れども走れどもこの日の
     目的地長崎鼻には着かない。

 3.3 長崎鼻
      途中、道の駅で休憩し、長崎鼻に着いたのは11時近くだった。海岸沿いの道路
     見て驚いた。駐車するスペースがないほどの車で、茨城ナンバーなども多い。
      小さな子どもと一緒の家族連れが海岸に向かっている。またしても悪い予感
      海岸線には100人を超える人々が”アラレ石”ではなく”アサリ”を採っている。
     人影が少ないエリアはプロの漁師さんが”ノリ”を採集している(後で気付いた)
      1月末に訪れたときと同じように、石を叩き始めてすぐ、『△○?□?△!』と
     怒鳴る人がいる。
      どうやら、ここで石を叩くな、ということらしい。しかたなく、海岸を離れた場所の
     「古銅輝石安山岩」を叩いていると、『 いいものが採れたかね? 』、と通り
     かかった磯組合の漁師さんに聞かれた。
      これこれ云々、説明すると、『 この時期は、ノリの漁期なので立ち入りは
     難しい 』、との事だった。だが、この場所は、叩いてもOKとの事だった。
      Sさん一家を呼び寄せ叩き始めたが、”ピンク色の霰石”にはお目にかかれ
     なかった。それでも、白色や緑色の霰石、黄鉄鉱などを採集し長崎鼻を後に
     した。引き上げるとき、柱に吊るされた手書きの看板を見て、初めて合点が
     いった。

       長崎鼻看板

 3.4 銚子の名物

     銚子の名物と言えば、「灯台」「醤油」「ぬれ煎餅」そして「イワシ」らしい。昼食
    時になったので、銚子漁港の食事処に入る。”いわしづくし御膳”と”なめろう”を
    注文する。
     ”いわしづくし御膳”には、握り、南蛮漬け、刺身、てんぷら、甘露煮と種々の
    味わい方が楽しめる。”なめろう”は、鯵のたたきに味噌を加えたもので、生姜
    醤油でいただく。
      日本酒が欲しい。

         
          ”いわしづくし御膳”           ”なめろう”
                      銚子の味

 3.5 また会う日まで
     食事の後、お土産の干物などを買う。名残惜しいがSさん一家とお別れし、
    私たち夫婦は佐原の「伊能忠敬記念館」を見学し、マンションに無事帰った。
    総走行距離360km

4. おわりに

 (1) 日本の教育
      2008年は、日本の教育にとって大きな転換点になりそうだ。従来のいわゆる
     『ゆとり教育』の弊害が指摘され、授業時間を増やしたり、カリキュラムを見直
     したりと、『教育改革』が進むことだろう。

      このキッカケになったのは、読者の皆さんもご承知のように、日本の中高生の
     学力レベルが世界的に見てジリ貧になってきていることらしい。
      引き合いに出されるフィンランドと比較して、日本の中高生の学力低下は眼を
     覆いたくなるようなものだ。

     今回、春休み房総ミネラル・ウオッチングの旅をご一緒したSさん一家の娘・Y
    さんから、2008年1月末に次のようなメールをもらった。

     『 理科展の報告です。
      私の理科研究は残念ながら県展には行けませんでした。去年、「金賞なら県に
      行けるんだけどな。」とは言われたのですが、詳しい話を聞いたら、郡の理科展で
      金賞(1学年で1つ金賞があるそうです)を取った作品の中から、さらに4つに絞る
      のだそうです。そしてまたさらに、その4つの中から県展に出す1つを決めるのだ
      そうです。
       今年はその4つの中には残ったようで、郡の理科展の賞状と県の理科展の
      賞状(最後の4つに残れば県展に行かなくても県の賞状がもらえるのだそうです)
      をもらいました。

       お母さんが聞いてきてくれたのですが、芳賀郡市(真岡市は芳賀郡市です)の
      理科研究はレベルが高いのだそうです。「最後の4つに残れれば大したものですよ。
      県の賞状はなかなか貰えないですから。」と言われたそうです。そして、「芳賀郡を
      制する者は県を制す」という言葉があるほど県展での成績が良いのだそうです。

       去年は銀賞、今年は金賞だったので、ちゃんとステップを踏んで、来年はMHの
      言うとおり県展での上位入賞を目指したいと思います!

       頑張って石拾いに行かなくちゃ!                         』

       このように、自分で目標を持って勉強しようという生徒のお役に立つことが、
      日本の教育レベル、ひいては日本の技術力(∝経済力)の向上につながると
      すれば望外の喜びだ。

 (2) ”なめろう”と”さんが(焼)”
      このページに、いきなり”なめろう”などという訳の判らない食べ物が登場し、
     全国区の読者の皆さんは、何のことか判らないのではないだろうか。
      かく言う私も奈良の石友・Yさんから次のようなメールをいただくまで、知らな
     かった。

     『 千葉、鉱物採集Lifeを楽しんでおられるようで、誠、御慶!!!
      で、もう「なめろう」「さんが」を御賞味されましたか??「鯵のたたき」!
      これも又良し、「親父!お銚子、もう1本!」フフフ・・・。

       これを味わうのも「安房Lifeならでは」ですよ!海無し県の甲州に帰ったら食べ
      られませんよ。ウヒヒヒヒ・・・。                              』

       ”なめろう”は、すでに説明した通りで、食べ方は、酢で〆たり、大葉(しその葉)で
      くるんだり、いろいろあるようだ。
       その語源は『 皿までなめてしまうほど美味しい 』、からきて、岡山の『ままかり』
      と似ているようだ。

       ”さんが”は、”なめろう”をあわびの殻に詰め、焼いたものらしい。実は、館山道
      市原SAの海産物売店に”さんが”が売っているのである!!
       アワビではなく、ホタテ貝風のものに詰めたものを”さんが焼”の名で売っている。
      行きしなだったので買うのは見送ったが、いつか帰り道に買ってみようと思って
      いる。

       さんが焼

       Yさん、食後感想文に乞うご期待

 (3) このミネラル・ウオッチングで私が発見し未公開の新産地を含め、房総の代表的な
    産地・鉱物が把握できた。
     石友たちと「ミネラル・ウオッチング」で回るのを楽しみにしている。

     今回の採集品については、別なページで報告したい。

5. 参考文献

 1) 加藤 昭、松原 聰:鉱物採集の旅 東京周辺をたずねて,築地書館,1982年
 2) 草下 英明:鉱物採集フィールドガイド,草思社,1988年
 3) 松原 聰:関東地方の鉱物,鉱物情報100号記念出版物企画委員会
           池田重夫技官退官記念会,平成10年
 4) 千葉県立中央博物館編纂:千葉県の鉱物,同館,2000年
 5) 松原 聰、宮津 律郎:日本産鉱物型録,東海大学出版会,2006年
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