山梨を離れる前に心残りがいくつかあった。その1つは、『日本産鉱物50種』のうち未だ入
手していない『徳島県眉山のルチル』を探しに行くのが何年か先になることだった。
今から8年ほど前、2002年12月、例年より早い本格的な冬の訪れ・降雪でフィールドでの
ミネラルウオッチングがままならず、古い「地学研究」誌を読んでいると、岡本要八郎先生と
桜井欽一先生が書いた ”「あなたはおもちですか?」鉱物コレクターの資格審査”
という記事に目が止まり、その内容について、私のHPで紹介させていただいた。
それ以来、フィールドやミネラルショーでは、日本産鉱物50種+【番外】、計54種を積極的
2005年に、岐阜県木積沢で「苗木石」、京都府白川で「褐簾石」の2点を自力で採集し、
このことを知って、兵庫県の石友・N夫妻が2010年春にわれわれ夫婦を案内せんと、下見
1mm弱の「赤い緑簾石」を顕微鏡で見ると、白雲母を伴う石英の上に、ガラス光沢、紅色
N夫妻のお蔭で最後の1つが加わり、日本産鉱物50種+【番外】、計54種が揃った。54種
いつになるかハッキリしないが、単身赴任から戻り次第、『眉山のルチル』を現地で観察す
『 鉱物収集には色々なスタイルがあるが、コレクターは、珍種、美晶を手に入れて胸をと
気になるのは、両氏による資格審査基準で、それは、次の通りである。
『 @ 全部あれば一流コレクター
眉山がある徳島県高越(こおつ)でN夫妻に案内していただき「ルチル」を採集した経緯と
この時の採集品とN夫妻から恵与いただいた「ルチル」を比較してみて気になることがある。
4.1 「 日本産鉱物50種」 マイ・DB
* 印は他の産地のものを代用してもよい.
4.2 入手方法
やはり、『持つべきものは石友』
4.3 自力採集比率の低い訳
住んでいる甲信越地域の自力採集率が
(2) 訪山率
「日本産鉱物50種」の鉱物は54種
その理由は、手稲鉱山からは「自然
私が訪れたことがある産地は22ケ所と
複数の鉱物が選ばれている7産地の内、5産地を訪れていないのだから、それらの産
(3) 採集確率
自力採集率=訪山率×採集確率・・・・・・・・・・(式1)
つまり、訪山して、採集できて初めて自力採集率は100%になるが、訪山しなくても
採集確率=自力採集率/訪山率=0.35/0.5=0.7=70%
1発で採集できず、何回か訪れてようやく採集できた標本もあり、1回だけ訪れての
さらに厳しいのは、『採集禁止の壁』だ。近年、全国各地の産地の中で、採集が禁止
採集禁止・・・・・16%
これから集めてみようと
『 1ミリ弱細柱状、顕微鏡ではオレンジ色で、ルチルか?と当初思ったんですが、赤い
私が、「ルチルの可能性がある」、とメールしたので意を強くした奥さんから
『 眉山の標本、見ていただいて、やっぱりルチルですよね。私が見つけたんだし
”婦唱夫随”のNさんは
『 いや、僕もそうじゃないか、と思ってたけど、Webの 「××の鉱山と××」に記載さ
(2) 「眉山のルチル」
鉱物コレクターの資格審査
( How Many Specimens do you have ? , Qualification of Mineral Collector )
に追いかけるようにしている。
48種( 48/54=89% )が揃ったところで足踏み状態が続いた。年に1種増えるか増えない
かの状態だったが、2007年に「荒川鉱山の三角黄銅鉱」を入手でき、これの一部と交換に
「日三市鉱山の荒川石」も入手できた。
さらに、2009年、愛知県の石友・Tさん親子に「尾平鉱山の灰鉄輝石」(仮晶)を恵与いた
だき、「手稲石」を購入し、残るは『徳島県眉山産のルチル』ただ1種になっていた。
を行ってくれていた。
3月の初旬、瀬戸内名物を使った奥様手作りの「釘煮」と共に、「眉山の紅廉石」と「赤い緑
廉石」を送っていただいた。「赤い緑簾石」とは変なのだが、高名な鉱物の先生の鑑定らし
い。
の細柱状結晶で、私には、どうみても『ルチル』としか思えない。N夫妻も『ルチル』との思い
が強いようだ。こうして、勝手に『徳島県眉山のルチル』は”入手済”にして、心おきなく単身
赴任できた。
の産地、入手方法、自力採集できたものは現在も採集可能か否かなどをデータとしてまとめ
てみた。
すると、自力採集したのは1/3弱しかなく、半分以上が購入品である。54種の半分以上を
占める、北海道、東北、近畿、中国、四国、九州には採集らしい採集に行っていないのだか
ら当然の結果かもしれない。
るのが夢だ。
貴重な標本と情報を恵与いただいた石友・N夫妻に厚く御礼申し上げる。
( 2010年3月 入手 )
2. 日本産鉱物50種選定の経緯
1958年(昭和33年)の「地学研究」に、「北投石」発見者の岡本要八郎先生とアマチュア鉱
物学者の桜井欽一先生が連名で次のように書いている。
きめかせた覚えがあるであろう。
誰もが欲しがるであろう、日本産の鉱物を50種選んでみた。
そんなことをして何になる!! など怒り給うな。これは、お遊びです。 』
A 70%以上なら、立派なコレクター
B 30〜50%では、まだまだ努力が足りない
C 30%以下では、コレクターという資格はない 』
3. 「眉山のルチル」
ルチル【RUTILE:TiO2】は、チタン(Ti)の酸化鉱物で、「鋭錐石」、「板チタン石」と同じ組成
をもつチタン3兄弟(姉妹?)の一人だ。
古い鉱物図鑑には「金紅石(ルチル)」と言えば徳島県眉山産が載っていることが多い。
単身赴任先に持ち込んだ柴田先生の「原色図鑑」にも、肘折双晶図を添えて掲載されてい
る。そのくらい有名なところから日本産鉱物50種に選ばれたのだろう。
N夫妻に恵与いただいたものも並べて示す。
「原色図鑑」 N夫妻恵与品
徳島県眉山産 金紅石(ルチル)
採集品をHPに掲載したのは2003年11月だった。
( Rutile of Koutsu , Tokushima Pref.)
ルチルの表面には
トパズ(黄玉)と同じように
縦(C軸)方向に条線がある
のが普通だが、N夫妻から
いただいた標本の柱面は
平坦なのだ。
徳島県高越産 ルチル
4. 日本産鉱物50種+番外4種のデータ分析
「日本産鉱物50種」の完集を機に、各種の情報を付け加えてデータ分析(事業仕分け?)
してみたい。
「日本産鉱物50種の鉱物種、産地の元情報に、@ 産地訪問の有無 A 産地の地域
B 私の標本入手方法 B 自力採集したものは現在採集可否 などを付け加えて、マ
イ・DB(ベータベース)をこしらえてみた。
No 産 地 訪山
○:有 地域 鉱 物(産状) 入手
方法 備考
1 福井県赤谷産 ○ 北陸 自然砒
(金米糖状結晶)
採集 採集可能
2 北海道手稲産 北海道 自然テルル
購入
3 兵庫県生野産 近畿 自然蒼鉛
購入
4 愛媛県市ノ川産 四国 輝安鉱
(美しい結晶)
購入
5 秋田県太良産 東北 方鉛鉱
(八面体と六面体の集形)
購入
6 秋田県院内産* ○ 東北 輝銀鉱(結晶)
購入
7 秋田県阿仁産 東北 閃亜鉛鉱
(美しい結晶)
購入
8 兵庫県夏目産
<夏梅の間違い> ○ 近畿 紅砒ニッケル鉱
採集 採集可能
9 秋田県荒川産 ○ 東北 黄銅鉱
(三角式結晶)
購入
10 新潟県赤谷産 ○ 甲信越 黄鉄鉱(菱体面
<原文のまま>に似た結晶)
購入
11 大分県尾平産 九州 硫砒鉄鉱
(長柱状結晶)
購入
12 山口県長登産 ○ 中国 輝コバルト鉱
購入
13 群馬県中丸
(旧八幡産) 関東 四面銅鉱(結晶)
購入
14 山梨県乙女産 ○ 甲信越 水晶
(日本式双晶)
採集 採集禁止
15 宮城県小原産 ○ 東北 紫水晶
採集 採集禁止
16 新潟県赤谷産* ○ 甲信越 玉髄
(そろばん珠状)
購入
17 富山県立山産 北陸 魚卵状珪石
購入
18 岡山県下徳山産 中国 赤鉄鉱(結晶)
購入
19 徳島県眉山産 四国 ルチル
恵与
20 長野県湯股産 甲信越 方解石(球状)
購入
21 長野県浦里産* ○ 甲信越 玄能石
採集 採集可能
22 島根県松代産 中国 霞石(結晶の集合体)
恵与
23 福島県飯坂産 ○ 東北 フェルグソン石(結晶)
購入
24 福島県石川産 ○ 東北 サマルスキー石(結晶)
採集 採集可能
25 福島県石川産 ○ 東北 モナズ石(結晶)
採集 採集可能
26 神奈川県玄倉産 ○ 関東 燐灰石(結晶)
採集 採集可能
27 岐阜県神岡産 中部 緑鉛鉱(結晶)
恵与
28 栃木県足尾産 ○ 関東 藍鉄鉱(結晶)
購入
29 大分県木浦産 九州 スコロド石(結晶)
購入
30 秋田県日三市産 東北 荒川石
(ベスジェリ石<原文のまま>)
交換 「三角黄銅鉱」
と交換 31 秋田県玉川産 東北 北投石(渋黒石)
恵与
32 山梨県乙女産 ○ 甲信越 ライン鉱
(灰重石後の鉄重石結晶)
採集 採集禁止
33 岐阜県苗木産 ○ 中部 苗木石(変種ジルコン)
採集 採集可能
34 滋賀県田ノ上山産 ○ 近畿 トパズ
購入
35 富山県黒部産 北陸 十字右
購入
36 大分県尾平産 九州 斧石(美しい結晶)
購入
37 長野県武石産 ○ 甲信越 緑簾石(いわゆる焼餅石)
採集 採集可能
38 京都府白川産 ○ 近畿 褐簾石(花崗岩中の結晶)
採集 採集可能
39 大分県木浦産 九州 ベスブ石(結晶)
購入
40 静岡県河津産 ○ 中部 イネス石
採集 採集可能
41 長野県御所平産 ○ 甲信越 電気石(扁平な結晶)
採集 採集可能
42 大分県尾平産* 九州 ダンプリ石
購入
43 長野県川端下産 ○ 甲信越 柱石
(もと透角閃石と誤認されていた)
採集 採集可能
44 茨城県日立産 ○ 関東 菫青石(結晶)
採集 採集可能
45 大分県尾平産 九州 灰鉄輝石(結晶)
恵与
46 福岡県長垂産 九州 紅雲母
購入
47 山口県六連島産 中国 金雲母
購入
48 岐阜県神岡産 中部 魚眼石(結晶)
購入
49 東京都三宅島産 関東 灰長石(結晶)
恵与
50 新潟県間瀬産 ○ 甲信越 方沸石(結晶)
採集 採集可能
番外1 北海道手稲鉱山産 ○ 北海道 手稲石
購入
番外2 鹿児島県咲花平産 九州 大隅石
購入
番外3 京都府河辺産 ○ 近畿 河辺石
購入
番外4 神奈川県湯河原産 関東 湯河原沸石
購入
【番外】は、ぜひあつめておきたい、日本特産鉱物である。
長野県の石友・小Yさんが、『 知人のある人がこのページを読んで「日本産鉱物50種」
の完集に挑戦している 』、と教えてくれた。
私の他にも物好き(失礼!)がいるものだ、と思いながらも、何かの参考になればと
”入手方法”をまとめてみた。
購入したものが半分強
自力で採集したものは1/3
しかない。
恵与・交換してもらったものが
約15%ある。
入手方法内訳
(1) 遠い産地を訪れていない
私の持論の1つに、『行っても採れないかもしれないが、行かなければ絶対採れない』
がある。
日本産鉱物50種+4種の産出鉱物を地域別にまとめ、自力採集比率を下表にまとめて
みた。
地域 鉱物種 自力採集数 自力採集率
北海道 2 0 0%
東北 10 4 40%
関東 6 2 33%
甲信越 10 7 70%
北陸 3 1 33%
中部 4 2 50%
近畿 5 3 60%
中国 4 0 0%
四国 2 0 0%
九州 8 0 0%
全国 54 19 35%
私が住む甲信越からある距離以上ある
北海道、中国、四国、九州の自力採集率が
”ゼロ(0%)”である。
70%とそこそこ健闘しているにもかかわらず
”ゼロ”に引っ張られて、全国平均では35%
になってしまう。
自力採集率
50種の産地の内、訪れたことがある産地の比率を”訪山率”として地域別にまとめて
下表に示す。
地域 産地数 訪山箇所 訪山率
北海道 1 0 0%
東北 9 5 56%
関東 6 3 50%
甲信越 8 7 88%
北陸 3 1 33%
中部 3 1 33%
近畿 4 4 100%
中国 4 1 25%
四国 2 0 0%
九州 4 0 0%
全国 44 22 50%
あるのに、産地の数は44になっている。
テルル」と「手稲石」の2種が選ばれて
いるように1つの産地でから複数の鉱
物種が選ばれているからだ。ほかに、
福島県石川町 2種 ○訪山
新潟県赤谷鉱山 2種 ×未訪山
乙女鉱山 2種 ○
生野鉱山 2種 ×
神岡鉱山 2種 ×
尾平鉱山 4種 ×
木浦鉱山 2種 ×
全体のちょうど50%(半分)しかない。
訪山率
地の12種は自力採集できる訳がない。
産地を訪れれば必ず採れるほど甘いものではない。産地を訪れてもポイントが判らず
手ぶらで帰ってきた類の話は枚挙に暇(いとま)がない。
訪れた産地で採集できた確率を”採集確率”と定義すると、「日本産鉱物50種」1つ
ひとつについて、次のような(式1)が成り立つ。
採れなくても自力採集率は0%、と厳しいのだ。
採集確率は50%程度だろう。腕(目?)が良いのか、悪いのか?
になっている箇所がある。フィールドに立てなければ、絶対に採集できないのだ。
私が訪れて採集できた産地・標本の現状を私が知る範囲でまとめてみた。
私が訪れて採集できた
19種の産地と標本が
現在でも採集可能かを
まとめてみた。
採集可能・・・・・84%
お考えの方が若しおられるなら
20%前後は、”自力採集”を
断念せざるを得ないようだ。
産地の現状(2010年4月)
5. おわりに
(1) 「赤い緑簾石」
「眉山のルチル」を送っていただいN夫妻からのメールに『赤い緑簾石』なるケッタイな
ことばがあった。
色の緑廉石がある、とのことなので、とりあえず、そうしておきました 』・・・・Nさん
そうだと思ってました 』・・・・・・・N夫人
れていて、そうかな、思った次第です。 汗 』・・・・・・Nさん
貴重な標本を送っていただいたN夫妻には申し訳ないが、本文でも書いたように、恵与
いただいた標本が100%「ルチル」との確信がない。かくなる上は、現地を訪れ”肉眼サイ
ズ”の標本を直接観察するしかなさそうだ。
それを楽しみに、千葉でのミネラル・ウオッチングと単身赴任を楽しもうと思っている。
6. 参考文献
1) 岡本 要八郎、桜井 欽一:「あなたはおもちですか?」鉱物コレクターの資格審査
地学研究Vol.10 No.5,1958年
2) 柴田 秀賢、須藤 俊男:原色鉱物岩石検索図鑑,北隆館,昭和48年