梓(甲武信)鉱山の鉱物

梓(甲武信)鉱山の鉱物

1.初めに

長野県佐久郡川上村にある梓(甲武信)(こぶし)鉱山は、日下先生の
「鉱物採集フィールドガイド」にも取り上げられている通り、水晶の日本式双晶、
透明な方解石や柘榴石の巨晶が採れる。
鉱山の範囲が広く、その時々に発見があり、最近でも、松茸緑水晶やピカピカの
ベスブ石を求め鉱物愛好家が殺到したばかりである。
H.Pにも掲載してあるように、2000年11月に梓(甲武信)鉱山で採集会があり、
草入日本式双晶をはじめ、ベスブ石、柱石、灰重石など立派な標本を採集できた。
今回の採集会のメインコースとして、現地で会った私の中学の後輩(!)という、
T大学に勤務するN氏を交え、小学4年生から50才代まで、12名が参加して、各種の
鉱物が採集できましたので報告します。
(2001年4月採集)

2.産地

141号線を佐久に向かって走り、JR最高地点の先で「川上村」表示に従い右折し、
三国峠に向かって走る。「梓川」の手前で右折し、町田市の自然休暇村を過ぎ、
橋の手前の路肩に駐車する。
ここから尾根を目指してまっすぐに登って行くと、大ズリ→緑水晶坑→ベスブ露頭
→松茸水晶ズリ→柱石露頭→緑水晶露頭→灰重石坑道の順で、途中、途中で
採集しながら約3〜4時間かけて灰重石坑道まで登ります。

緑水晶坑での採集風景
水晶坑道から上に登ったテラス(平坦部)に上のベスブ露頭から落とした分離結晶が
ある。

ベスブズリでの採集風景
ここから左上に約150m行くと一面開拓畑状態の場所があり、ここが松茸水晶の
産地です。

松茸水晶ズリでの採集風景
ここから右に戻るようにして、先ほどのベスブ石のズリの上に約10mにベスブ石の
露頭がある。

ベスブ石の露頭
ベスブ露頭から右上方向に踏み分け道を登ると、柱石の露頭です。

柱石の露頭へ【4月末なのに雪が残っている】

柱石の露頭での採集風景
ここから、踏み分け道を右上に登り尾根を越えると緑水晶のズリです。

緑水晶のズリでの採集
右に行くと方解石交じりのズリが落ちています。このズリの大元が、
灰重石の坑道です。
ズリが滑り、疲れがきていることもあり、ここの急斜面が一番きつく
感じられます。

左:灰重石坑道前で 右:坑道【雪と巨大なつららが残る】

3.産状と採集方法


3.産状と採集方法

ここには、ペグマタイト脈とスカルン鉱床がある。ペグマタイトの
代表である水晶からスカルンの代表の灰重石まで幅広い産出鉱物には、
何回訪山しても、その度に新しい発見があって飽きない。
また、ここは、他の産地と違って、ズリ以外に露頭から直接採集できる
場所が多く、新鮮で大きな標本が採集できる。
灰重石は、坑道の特定の場所ですので、ライトとミネラライトを駆使して
ポイントを探します。ブラックライトを持参した方がいましたが、灰重石の
検出には、役立ちませんでしたのでご参考まで。

4.産出鉱物

灰重石坑道や、ここまでくる間に採集できる主な鉱物は、次の通りです。
(1)磁鉄鉱【Magnetite:Fe,Fe2O3】
緑水晶坑口の前に一面真っ黒なズリがあり、そこを掘ると、磁鉄鉱の塊があり、
空洞部分には、八面体の自形結晶が見られます。
今回、神戸大医学生のTさんが良品を採集した。
(2)ベスブ石【Vesuvianite:Ca19(Fe,Mn)(Al,Mg,Fe)8Al4(F,OH)2(OH,F,O)8(SiO4)10(Si2O7)4】
緑水晶坑から約70m上にズリ(最近できた)があり、さらにその上15mに
露頭があり、分離結晶や母岩付きのピカピカベスブ石が採集できる。
今回、愛知県からきたK氏の息子のS君が、1.5cmクラスの分離結晶を採集。
ベスブ石
(3)松茸水晶【Rock Crystal:SiO2】
松茸水晶は、平行連晶の一種とみなされ、藤屋や韓国産の紫水晶などに見られる。
松茸の軸の上に傘がかぶったような水晶で、別名「冠水晶」とも呼ばれています。
今回、1cmクラスと小さいが、両錐の松茸水晶を千葉県のY氏の息子のY君が採集。
松茸とは逆に、先細りになった、「逆松茸」を何人かが採集。
(4)灰バン柘榴石【Grossular:Ca3Al(SiO4)3】
松茸水晶ズリでは、灰バン柘榴石の分離結晶で、10面近くがしっかりしたものを
採集した。10年近く前に、ベスブ露頭と松茸ズリの間あたりで、緑柘榴石が採れた
ことを思い出しています。

灰バン石榴石【径15mm】
(5)曹柱石【Marialite:(Na,Ca)4(Al(Al,Si)Si2O8)3(Cl,CO3)】
柱石には、Naに富む曹柱石とCaに富む灰柱石があり、甲武信鉱山では、両方が採集
できます。露頭から採集できたことで、千葉県の高橋氏はじめ多くの方が感激して
いました。

柱石
(6)緑水晶
曹柱石から尾根を越えたところのズリでは、緑水晶の群晶や分離した単晶が
採集できる。かなりの確率で両錐の単晶も採集できる。
緑水晶 両錐【4cm】
(7)方解石【Calcite:CaCO3】
灰重石の坑道の中には、厚さ数十cmの方解石脈が何本も走っています。
その一部を掻けば、透明で複屈折を示す標本が採集できます。
また、方解石脈の晶洞部分からは、方解石の自形結晶が採集できます。
坑道のズリでも大きな方解石が採集できます。
(8)灰重石【Scheelite:CaWO4】
緑水晶の日本式双晶のでる坑道の中で方解石に埋もれた結晶として、また
灰バン柘榴石や方解石を伴って、脈状で産出します。
ミネラライトがあれば、難なく探せます。
白色色の下では、やや黄色味をおびた、白い8面体の結晶で、紫外線で青白く
蛍光を発するので、簡単に識別できます。また、暗い坑道の中では、持って
みて重く(比重6.2)感じるのも、鑑定のポイントです。

灰重石【左:白色光 右:紫外線】
(9)緑水晶日本式双晶【JapaneseTwin including Actinolite:SiO2】
ガサガサした感じの緑水晶の群晶を良く探すと平板の日本式双晶がV字形、
X字形やY字形をしたものが採集できる。
K氏親子は、坑道の中で親子競争で採集し、息子さんに軍配が上がったようです。
その後、持ち帰った群晶を割ったら20ケ余りの日本式双晶が出てきたとの
メールをいただいた。
緑水晶 日本式双晶【2cm】
(10)氷長石【Adularia:KAlSi3O8】
灰重石坑道の最上部分で、灰バン柘榴石、水晶などのある晶洞部分に最大3cm
くらいの自形結晶として産出します。
灰重石の5〜6cmmの結晶が出たのも、ここだそうです。

氷長石【2cm】

5.おわりに

(1)出発するときは小雨で、しかも小学生もいるので無事全コースを
回れるか心配したのですが途中で雨も上がり、全くの杞憂に終わり、参加者の
ご協力に感謝しています。
(途中で、道を間違えごめんなさい!!)
(2)梓(甲武信)鉱山は範囲が広く、どこでもそこそこのもの
(他の産地なら1級品!)が採集できます。
今回は、一般的なルートをざっと回りましたが、「鉱物採集フィールドガイド」に
ある「川端下」に行ってみたいという希望もありますので、次回計画してみたいと
思っています。
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