山梨県須玉町アザミ鉱山の水晶

山梨県須玉町アザミ鉱山の水晶

1.初めに

私のHPが縁で知り合った、埼玉県のAさん(今まで名前の一部”あい”をとり
”Iさん”で登場)から、山梨県の水晶産地@八幡山、A増富、B向山・雄鷹山を
教えて欲しいとのメールがあった。
この中で、八幡山だけは採集に行った事がなかったので、昭和17年に発行された
「北巨摩郡の地質」に記載された八幡山鉱山の地図を送った。
つらつら想うに、この1年、人を案内することが多く、新たな産地を訪問せず、謂わば
”過去の遺産で食べている状況”なのを反省し、八幡山に行ってみたいと考えていた。
(1)位置の特定
「北巨摩郡の地質」に記載された八幡山鉱山の位置は、ここで日本式双晶を採集した
黒平に住むFさんから聞いた”八幡山の尾根近く”と合致する。多少の誤差は
あるにしても、ほぼ間違いないと考えられた。
八幡山鉱山【「北巨摩郡の地質」より引用】
水晶峠を起点に、八幡山鉱山を示す”父”の記号までの”方位”、”距離”を測定し
現在の2万5000分の1の地形図に落とした。
誤差を考え、この近傍の半径100mも検索すれば発見できるだろうと思った。
(2)ルート選定
10年程前、愛知県の人から、”八幡山を目指して、伝丈沢(黒平の奥)を遡上したが
沢が枝分かれてルートを見失って、行き着けなかった。ルートを教えて欲しい”と
聞かれたことがあり、行ったことは無かったが、直感的に”枇杷窪沢を遡上した
ほうが良いのでは”と答えたことがあった。
それは、私が甲府の工場に勤務していた時に発足した「鉱物同好会」の女性会員が
”子どもと枇杷窪沢に水晶拾いに行った”と話していたのが記憶に残っていた
からです。
(こどもでも行けるのなら、楽だろうと思った。行ってみて分かったことだが
作業用の林道が整備されており、途中までは(ここを力説)ピクニック気分で行ける。)
(3)いざ、行かん
このようにして、ルートと検索範囲を絞って、八幡山行きの機会を伺っていた。
そんな折、私のHPの愛読者・千葉県のTWさんから、”八幡山を案内します”との
メールが入った。
さらに、最近入会した「鉱物情報」から送られた最新号に「須玉町八幡山の水晶」の
記事があるではないか。この産地は、私が特定した地点とほぼ同じ場所で、確信を
深めた。
正に重ね重ねのグッド・タイミング!!(「至誠天に通ず」 とはこのことか。)
私が行ったことがない産地で行き着けるかどうか、難易度も分からず、しかも案内して
いただくので限られた石友にのみ声を掛けた。
案内してもらう土曜日にAさんが同行することになり、翌、日曜日に私がMさんを
案内する手筈が決まった。
案内していただいたのは、八幡山とは言っても、枇杷窪沢の支流「薊(あざみ)沢」の
産地で、今までどの採集記事でもみたことのない、私にとって新産地であった。
「水晶宝飾史」には、水晶産地の1つに「アザミ鉱山」の名前があり、沢の名前から
ここが「アザミ鉱山」と思われる。
案内していただいたTWさんに、厚く御礼を申し上げます。
(2002年11月採集)
参加者【ゲート前で】

2.産地

増富鉱山跡の三叉路でTWさん一行と待ち合わせる。木賊峠に向かって林道を
500mも走ると、左に枇杷窪沢の左岸を走る林道の入口がある。200mも進むと
ゲートがあり、その左手前に4〜5台の駐車スペースがある。
ここから、だらだらの上り坂を20分ほど歩くと2又になり、ここを右に行くという。
私や「鉱物情報」の八幡山の位置は、ここを左に行くはずなので、TWさんの言う八幡山は
別な産地なのかなと初めて気が付く。
2叉から右の林道を進むと路面は荒れ、部分的に1mもえぐられた場所がある。
20分ほどで、2叉があり、右手の道に入ると砂防ダムとつぶれた作業小屋がある。
砂防ダムの銘板でここが、薊(さざみ)沢であることを知る。3番目の砂防ダムを
過ぎ、沢に入ると点々と真っ白い石英塊が見られる。それらのいくつかは、何面かが
結晶面を示す”水晶”である。
沢を15分も遡ると、石英が全く見られなくなり、産地はこの手前であることが
分かる。
ズリと思しきところには坑口はおろか坑道の跡らしき場所もない。がけの斜面をみると
石英が落ちている。坑口はこの上に違いないと読み、急な斜面を木の根、岩角を
掴みながら100mもよじ登ると、そこから上には石英が見られず、坑道(露頭?)の
陥没跡と思しき場所がある。
ここから一番上の砂防ダムの間、約300mが産地です。
薊(あざみ)沢産地【TWさん撮影】

3.産状と採集方法

地質図を見るとこの一帯は花崗岩で、沢にはマサ化した真っ白い砂や花崗岩の
大小の塊が転がっています。それらの間や、ズリを掘り返して採集します。
この時期は、表面がカチカチに凍っているので、ツルハシなどで凍土を取り除いて
その下を掘ります。

4.産出鉱物

ここで採集できたのは、水晶だけです。「水晶宝飾史」によれば、アザミ鉱山では
透明水晶のほか草入り水晶を産したとありますが草入りは見かけません。
(1)雲母付き冠水晶【Rock Crystal with Muscovite:SiO2】
大きなものは少なく、最大で35mmでした。表面に雲母やセリサイトが付着した
ものが多く、インクルージョンとして雲母の入ったものがある。
採集していると、水晶を触った手袋や素手がキラキラと輝き、キララ(雲母)の
語源に納得させられます。
結晶形態的にはC軸(上下)方向から見ると、六角柱状よりも関戸川のトパーズを思わせる
菱形をしたものがみられる。また、冠水晶のように、頭にもう一回結晶したと思われる
形跡が残っているものも多く見かけた。表面に、”微斜面(Vicinal Face)”が見られる
ものもあり結晶の成長過程の複雑さを物語っています。
雲母付き冠水晶
(2)平板水晶【Rock Crystal Plane Type :SiO2】
平板水晶も比較的多く見かけ、坑道跡(?)の前で見つけた人頭大の石英塊には
平板水晶がいくつか付いており、そのうちの1つは、軍配型日本式双晶を思わせる
(思いたい?)ものがあった。

     母岩付き          分離結晶
          アザミ鉱山産平板水晶
(3)透明石英【Quartz :SiO2】
まれに、透明度が非常に高い光学ガラスを思わせる透明石英があります。
透明石英

5.おわりに

(1)今回、八幡山水晶鉱山探しの手始めに「アザミ鉱山」で水晶採集ができ
案内していただいたTWさんに、改めて御礼申し上げます。
(2)帰りに、本来の八幡山鉱山を目指すべく探査したが、ルートを発見できず
後ろ髪を引かれる思いで引き返した。
後になって考えると、私が探査した沢をあと100mも登ると大小の石英が所々に
見られたのであった。
(3)「水晶宝飾史」によれば、アザミ鉱山の水晶は、白印材(印鑑)、玉石(水晶玉)
天然石(クラスター)など向けに16,875kgという膨大な水晶が採掘された
とあります。
(4)ここは、女性や子どもでも安全に採集できるので、春の採集会の候補地の1つです。

6.参考文献

1)斎藤利信編:北巨摩郡の地質,北巨摩郡教育会理化研究部,昭和17年
2)増富壽之助:鉱物 -やさしい鉱物学- ,保育社,昭和60年
3)篠原方泰編:水晶宝飾史,甲府商工会議所,昭和43年
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