岐阜県苗木地方の「金緑石」その2

         岐阜県苗木地方の「金緑石」その2

1. 初めに

   2006年8月に、岐阜県苗木地方でブルートパーズの中にインクルージョンとして含まれる
  「金緑石(クリソベリル)」を採集したのは既報のとおりである。

   HPの中で、”トパーズ勘兵衛”ことに高木勘兵衛翁が明治初期に採集したとされる金緑
  石の行方がどうなっているか知りたい書いたところ、千葉の石友・Mさんから(株)三菱
  マテリアルにあって、東京大学の和田コレクションに画像が収録されている、と教えてい
  ただいた。
   別なHPによれば、現物は兵庫県の「生野鉱物館」にあるらしい。

   金緑石の綺麗なものは、「アレキサンドライト」の宝石名で呼ばれ、太陽光では”緑色”
  白熱灯の下では”赤色”に見える『2色性』をしめすことで人気の高い宝石のひとつである。

   たまたま、インターネットオークションに2色性を示す「アレキサンドライト」が出品さ
  れていたので落札した。

   改めて岐阜県苗木地方で採集した「金緑石」を見直してみると、白熱ランプに照らされた
  部分は”赤色”、透過光に照らされた部分は”緑色”に見え、「アレキサンドライト」に
  極めて近い「金緑石」であることも判った。

   何としても、”トパーズ勘兵衛”が採集したものを上回る『分離結晶』を採集したいもの
  と念じている。
  ( 2006年11月編集 )

2. 金緑石(宝石名:アレキサンドライト)

 2.1 名前の由来
    鉱物としての金緑石/アレキサンドライト【Chrysoberyl/Alexadrite:BeAl2O4】の英語
   名はクリソベリルで、その名の通り、緑柱石(ベリル)やエメラルドと同じように、ベリ
   リウムを含むことから、太陽光の下では緑色に見え、「金緑石」と呼ばれる所以である。
    硬度8.5とトパーズ(8.0)よりも硬く、宝石としての要件を十分満たしている。

    この鉱物がアレキサンドライトと呼ばれるようになった、由来は有名なのでご存知の人も
   多いと思うが、ここに引用してみる。
    1830年、ロシアのウラル山脈にあったエメラルド鉱山で発見された。この鉱物は不思議
   なことに、 昼間に見たときは緑色だったはずなのに、持ち帰り夜ローソクの光の下で見
   てみると、赤色に変わっていた。 「これは神のいたずらに違いない。」と鉱夫たちの間
   で大騒ぎになった。これは貴重な石だという事で、 当時のロシア帝国皇帝ニコライ1世に
   献上された。 その日4月29日は皇太子アレキサンドル2世の12歳の誕生日だったため
   この非常に珍しい宝石にアレキサンドライトという名前がつけられた。 また、軍服の色が
   赤と緑だったロシア人にとっては、お守りとして特別な価値のある石となった。

    アレキサンドライトは、アメリカでは 6月、7月生まれの人の「誕生石」とされている。

 2.2 アレキサンドライトの変色性
    アレキサンドライトの最大の特徴は、色の変化にある。青緑色系スペクトルの強い
   太陽光や蛍光灯の下では暗青緑色になり、 赤色系スペクトルの強い白熱電灯の下では
   暗赤紫色に変化する。
    この変色性の原因は、エメラルドやルビーの発色成分であり、 黄色系スペクトルを吸収
   するクロムを微量に含んでいることに起因する、とされている。
    昼の太陽光は白色光と呼ばれているが、青み成分が多く、”白熱”電灯は点けると暖かく
   感じる赤外線に近い赤み成分が多いことが、2色性を際立たせている。

    
       白熱灯    太陽光
      2色性【オークション購入品】
       

 2.3 金緑石の結晶
    金緑石の結晶は、斜方晶系に属し、2つの結晶が双晶をなす『V字双晶』をつくったり
   V字双晶が3つ車座に並んだ『3連輪座双晶』で産することが多い。
    『3連輪座双晶』は、外形が六角板状に見え、外周の稜が屋根型になっている。

         
   ブラジル産V字双晶【マイコレクション】  ロシア産3連輪座双晶【東北大学収蔵品】
                    金緑石結晶
 

3. ”トパーズ勘兵衛”こと高木勘兵衛の「金緑石」の行方

   苗木地方の金緑石は、今から120年ほど前、明治初年に、錫鉱の採掘に伴って、ただ1ケ
  採集された、と記録されている。
   ”トパーズ勘兵衛”こと、高木勘兵衛が採集した、と伝えられる『金緑石』はどのような
  うなもので、その後どうなったのか、知りたいところである。
   そう念じていた矢先、某所で藤浪紫峰著『おにみかげ紀行』を入手した。その中に苗木の
  「金緑石」がどのようなもので、どこに保管されていたかが記述されている。

   『 福岡村木積澤の砂鉱中より高木勘兵衛翁が只1個採取せられたるものにして現品は三
    菱の和田標本中にあり。小なる淡黄緑色透明の六角板状にして径2.5mmに過ぎず。
    此の六角板状は交叉三連晶にして・・・・・・(鉱物誌第二版)
     筆者(藤浪紫峰)は、若林博士のご厚意により該標本を熟見するの機を得たるが
      其の大きさ形状は筆者所蔵石川産のものに比して著しく劣れり 』

    これによると、三菱金属(現三菱マテリアル)の和田標本に保管されており、「若林鉱」
   で知られる若林弥一郎博士の仲介で、じっくり見せてもらったが、径2.5mmだが、見栄え
   は、いまひとつであったらしい。

    このHPを読んだ千葉の石友・Mさんから”トパーズ勘兵衛”こと高木勘兵衛の「金緑石」
   は(株)三菱マテリアルにあって、東京大学の和田コレクションに画像が収録されている
   と教えていただいた。
    この画像を引用させていただく。

     金緑石【東大和田コレクションから引用】

4. 採集品

   改めて岐阜県苗木地方で採集した「金緑石」を見直してみた。

   (1)結晶系
       六角薄板状で、『 3連輪座双晶 』の特徴を備え、外周の稜が屋根型になってい
      る。これが2枚、平行連晶をなしている。

   (2)2色性
       白熱ランプの反射光に照らされ、透過光の影響の少ない手前側の結晶の表面部分
      は”赤色”、透過光に照らされた部分は”緑色”に見え、「アレキサンドライト」
      と同じ『 2色性 』を示している。

     採集品

    これらのことから、(妻の)採集品は、アレキサンドライトに極めて近い「金緑石」で
   あることが判った。

5. おわりに

 (1) まさか、採れるとは思ってもいなかった金緑石を採集でき、この産地を紹介・同行
    してくれた東京の石友・Mさん、何回か同行した兵庫県の石友・Nさん夫妻に厚く御礼を
    申し上げます。

 (2) 何としても、”トパーズ勘兵衛”が採集したものを上回る『分離結晶』を採集したいもの
    と念じている。
     ただ、六角板状で、サファイアと同じ形状をしているところから、千葉の石友・Mさん
    から、「○○○のパンニング次第ではモット良い標本が発見できるかもしれません。
    でもサーフィン好きな金緑石には手を焼くでしょうね。」と、メールをいただいた。

6. 参考文献

 1)藤浪 紫峰:おにみかげ紀行,我等の鉱物,昭和8年〜9年年
 2)長島 乙吉:苗木地方の鉱物,中津川市教育委員会,昭和41年
 3)益富地学会館監修:日本の鉱物,成美堂出版,1994年
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