山梨県甲府市荒川 ”幻の紫水晶”

        山梨県甲府市荒川 ”幻の紫水晶”

1. 初めに

   2007年11月、石友・Mさんと山梨県甲府市黒平町で「新産地」探索を行い、黒平集落
  の皆さんから、貴重な情報と現物をいくつか頂いた。
   この時得られた情報を2人で総括していると、Mさんの口から、驚くような話が飛び出
  した。

   荒川を遡ってきた釣り人から、『来る途中に”紫水晶”が一杯落ちていた』、と聞いた
  と言うのである。さらに、その日会った、別な釣り人も同じようなことを言っていた、と
  聞くと間違いなさそうである。
    金峰山に源を発し、水晶峠、乙女鉱山、黒平集落、昇仙峡などを経て甲府市民
     の飲み水となり、富士川に合流する。

   2週間後に、荒川流域の探査を実施する事にした。上流側のA地点に集合し、私の
  車で下流側のB地点に行き、ここから荒川の川岸を遡行し、紫水晶を探査しようという
  のが計画の概要だった。

   荒川の川岸の岩にかかった飛沫が凍っているほどの寒さの中、両岸に別れ、探索
  すると、膨大な量の石英塊や石英片が落ちていて、期待が膨らむ。
   1kmあまり遡上すると、川岸の石英で”薄いピンク”に見えるものがある。よくよく見ると
  「褐鉄鉱」で汚れた石英が光線の加減で”紫水晶”に見えることが解った。

   どうやら、これが”紫水晶”の正体らしい。さらに遡上を続け、巨大な一枚岩を大きく
  高巻きにし、見慣れた場所から林道を通り、Mさんの車まで、約6km、4時間余りの強行
  探索だった。

   途中、至近距離での銃声、おびただしい数の”熊の糞”にビクビクしながらの探査行の
  成果は、湯沼鉱泉社長へのお土産、40cmの”母岩付き日本式双晶”2つだった。

   結局、”幻の紫水晶”に終わったが、気になっていた産地に1つ、決着をつけられた
  ので、気分的に楽になった。同行いただいたMさんに、厚く御礼を申し上げる。
   ( 2007年11月 調査 )

2. 産地

   今回探査したのは、黒平集落から乙女鉱山の下流までの荒川本流域である。

3. 産状と採集方法

   釣り人の話を又聞きし、私が勝手に想像した産状は、次の通りである。
   @ 荒川の岸に露頭があって、そこに紫水晶の晶洞がある。
   A 枝沢との合流点に紫水晶が散らばっていて、枝沢の上流に晶洞がある。

   見逃すことがないよう、両岸に別れて調べることにした。ウエーダー(胴長靴)では歩
  きにくいが、深みがあると遡上できないので、長靴をはき、念のため、ウエーダーを
  ザックに背負っていくことにした。
   ( 結局、ウエーダーは使わず、深みは高巻きして回避した )

   荒川本流に下りると、岸辺や水中におびただしい数の石英塊や片が散乱している。

      
            岸辺                水中
                  散乱する石英

4. 産出鉱物

    今回の探査行で採集できたのは、石英片だけである。中には、透明感があり結晶
   質のものもある。
    これらは、全て乙女鉱山附近から流された転石と思われ、鉱物標本としての価値は
   ほとんどない。( 写真撮影が済んだので、荒川に戻す予定 )

 (1) 石英【QUARTZ:SiO2

        
        褐鉄鉱で汚れ                 透明
       【紫水晶の正体】 
                       石英
    

5. おわりに 

 (1) われわれが本流の遡行を始めて間もなく、至近距離で、”バン、バン、バン”と銃
    声が3発した。やがて、賢そうな白い猟犬がわれわれの前に姿を現した。

     これって、”われわれが獲物!!”
    ( 「助けて、ヘナK小隊」・・・・・大隊長 )

     この日、林道脇で出猟の準備をしているグループに出会い、猟犬を荷台に積んだ
    何台かの軽トラックともすれ違った。

     黒平周辺には、多くのハンター(Animalhunters)が入り込んでいるので、”誤射”
    殺されない注意が必要だ。

 (2) 今回、全く訪れたことがなかった地域の探査行で、初めて見る景色、風物が心を
    豊かにしてくれた。
     ガマ(晶洞)は開かなかったが、”緑釜”が見られただけでも大満足だ。

        
            緑釜                 3段の滝
                       滝2態
 (3) この秋は、「山葡萄」などの山の食べ物も豊富らしく、アチコチにおびただしい数の
    ”熊の糞”が見られ、活発に活動している様子がうかがえた。

        
          山葡萄                熊の糞
                      自然2態

 (4) 探査行の成果は、湯沼鉱泉社長へのお土産、40cmの”母岩付き日本式双晶”
    2つだった。
     母岩は、「猿の腰掛」で好まれる”栂(つが)”で、”母岩”に相応しい木である。

      ”母岩付き日本式双晶”

 (5) 2003年に開拓(再発見)した向山鉱山の露頭や△△△は、今でも訪れるたびに
    歓迎してくれ、誰かしらがガマ(晶洞)を開け良品を採集している。
     このような良い思いをするには、今回のような地道な努力の積み重ねが必要で
    それがあるからこそ、ガマが開いたときは、何倍も嬉しい。

     『 東に紫水晶の美晶、西に綺麗な石榴石 』、の情報で産地を追い掛け回す
    だけに終わりたくない、との思いを強くしている昨今である。

6. 参考文献

 1)  中川 清:山梨県の水晶 水晶Vol.11 No.1,鉱物同志会,1998年
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