岐阜県飛騨市(旧河合村)天生鉱山の「石墨」











        岐阜県飛騨市(旧河合村)天生鉱山の「石墨」

1. はじめに

   東京の石友・Mさんと岐阜県飛騨市月ケ瀬の大隅石を採集し、産地を後にしたのは
  まだ午前11時前であった。この近くに石墨で知られた天生(あもう)鉱山があったことを
  思い出し、訪れてみることにした。
   前日、Mさんの下見ではズリらしい箇所は見つからなかった、とのことであったが、ゲ
  ートボールに興じていた人たちに「天生鉱山」の場所を聞いてみた。
   『 ここから、天生峠に向かって行くのだが、道路が工事中だで、通れんかも 』、ど
  うも話がかみ合わない。どうやら、”天生金鉱山”を教えてくれているらしい。”石墨”
  を掘った鉱山、と聞くと 『 黒鉛を掘ったのは、この山の上から月ヶ瀬方面数kmに
  穴(坑道)がいくつもある 』
、とようやく話が通じた。
   手近かな、ゲートボール場上の急斜面をよじ登ってみると、崩れた坑口前に、排水用の
  鉄パイプなどが散乱し、そのあたりが石墨の粉を撒き散らしたように黒ずんでいる。ズリ
  を掘り返すと、すぐに「石墨」標本を採集できた。
   ”五無斎”こと保科百助を評した言葉ではないが、1つは持っていたいが、2つはいら
  ない標本である。
   ( 2006年8月採集 )

2. 産地

   岐阜県飛騨市(旧河合村)天生集落の高台に広いグランドがあり、南側に山が迫ってい
  る。その山の西側斜面が産地である。

    天生鉱山跡

3. 産状と採集方法

   天生鉱山の石墨は、接触変成に伴い生成したと考えられ、母岩の中に脈状や小さな塊状
  で産出する。
   崩れた坑口前に広がっているズリを掘り返して採集する。

    ズリ

4. 産出鉱物

 (1)石墨(黒鉛)【Graphite:C】
     ここの石墨は、変成岩の中に、脈状や小さな塊状で産する。晶質石灰岩の中に、小
    さな葉片状で産するものは、一見「輝水鉛鉱」を思わせる。
     石墨を持ち合わせた白紙の上で擦ると、真っ黒い線が引ける。私たちの身近な”鉛筆
    の芯”の原料になっていることに納得させられる。

     石墨

     このほか、採集できる鉱物は見当たらなかった。

5. おわりに

 (1) 天生鉱山の石墨を知ったのは鉱物採集を始めてまもない、15年ほど前に鉱物同志会
    のF氏に聞いてであった。家族旅行で、富山県側から天生峠を越え、天生の集落に来る
    と古びた簡易郵便局があった。
     「天生鉱山」を聞くと、不確かな答えしか得られず、しかたなく記念押印だけして
    帰った。

 (2) それから15年余りが過ぎ、天生を訪れてみると簡易郵便局は、真新しい局舎に変わ
    っていた。
     天生鉱山のズリは、簡単に見つかり、念願の標本を手に入れることができた。同行
    いただいた石友・Mさんに厚く御礼申しあげます。

 (3) 天生鉱山の石墨は、自形結晶を示すわけでもなく、美しい色合いをしている訳でも
    ない。
     ”五無斎”こと保科百助を評した言葉ではないが、1つは持っていたいが、2つは
    いらない標本である。

6. 参考文献

 1)益富地学会館監修:日本の鉱物,成美堂出版,1994年
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