福井県美山町赤谷鉱山の自然砒

1.初めに

 福井県にある赤谷鉱山は「金米糖状自然砒」の産地として、鉱物コレクターの間で
世界的に有名です。過去に、3回ほど訪れ、その度に5〜10mmのものを数ケ採集した。
 今回、尾小屋鉱山(金平金山)をNさんご夫妻に案内していただいた。お返しと言うと
おこがましいが、赤谷鉱山を案内して差し上げ、一緒に採集を楽しんだ。
 最後の最後に、Nさんのお奥さんが、1つひとつの結晶がしっかりして、それらの集合体が
金米糖状をなす1cmを越える、今では”博物館級”と言っても過言でない標本を
採集した。
 私は、”金米糖”はいささか食傷気味なので、”サイ形”(=さいころ状)自然砒
「輝安鉱」や「鶏冠石」などを採集した。
     記念写真【”博物館級”にニッコリ】
(2003年7月採集)

2.産地

 赤谷鉱山は、福井足羽郡美山町赤谷にあります。
鏡鉄鉱(赤鉄鉱)で有名な新潟県の赤谷鉱山と混同する方と出会いますが、全く違う
産地ですので、お間違いのないように。

3.産状と採集方法

 変質した流紋岩中に産し、抜け落ちた(流紋岩が風化した?)単晶がズリ粘土
の中から探し出せます。
 採集方法は、ズリ粘土を川の中でフルイ掛けして、残った、小石の中から、拾い出します。
  採集風景

4.産出鉱物

(1)自然砒【Native Arsenic;As】
   自然砒は、母岩付きと分離結晶とが採集できます。
   母岩付きは、金米糖が母岩にシッカリと喰い込んでいますが、回りが風化して
   抜け落ち易くなっているのが分かります。
   母岩付き自然砒

   分離結晶では、今回、長径10mmの「ズシリ」と手応えのある(比重:5.78)
   ”金米糖”と呼べるものを筆頭に、約10ケ採集できました。
   「福井縣鑛物誌」によれば、『斜方6面体Rの主軸の仝心放射状集合は
    金米糖状の球を造る。径10乃至15ミリあり。』
とあります。
   今回、新鮮で表面が金属光沢を示すものを採集した。
   自然砒の回りを、輝安鉱が取り囲んだ、面白い産状のものもあります。
       
      自然砒【”金米糖”】      自然砒【輝安鉱が取り囲む】

   今まで、”金米糖”にだけ、目を奪われていましたが、「福井縣鑛物誌」によれば
   『斜方6面体の結晶軸が、互いに平行に重なり合うときは、”サイ形”に近き
    平行連晶を形づくる。径5乃至10ミリあり』
として、結晶図も添えてあります。
    今回、”おや”と思って採集した中に、”サイ形”(=さいころ形)をしたものが
    何個かあった。
   自然砒【”さいころ形”】
(2)輝安鉱【Stibnite;Sb2S3】
   母岩には、輝安鉱脈が走り、その劈開面が針状〜柱状にみえ、空洞には
   小さな頭なし単晶もみられます。
   輝安鉱

(3)鶏冠石【Realgar;As4S4】
   3年前に”赤い鉱物”を採集し、「紅安鉱?」ではないか、はたまた”辰砂”かと
   考えましたが、一部黄色(石黄【Orpiment:As2S3】)になりつつある部分もあり
   鶏冠石に落ち着きました。
   鶏冠石

(4)黄鉄鉱【Pyrite:FeS2】
   表面が金色にピカピカ輝く黄鉄鉱の集合体を採集した。
   黄鉄鉱

5.おわりに

(1)杉の実が落ちていて、形が”金米糖”にそっくりで、20mm位有るので
   今回も、一瞬喜び、すぐにガッカリでした。
(2)「福井縣鑛物誌」によれば、”金米糖状自然砒”の発見の経緯は次のようです。
   『和田(維四郎)氏「日本鑛物誌」によれば、明治25,6年頃、独逸フライベルヒ
    鉱山大学のステツネル地質学教授が本鉱物を日本産として得、其精細なる産地
    及産出の状態を知らむことを和田氏に照会したことがあり。当時、和田氏も
    未だ之を知らず。百(ママ)方捜索して、始(ママ)めて、赤谷産なることを
    知り得たり。
    但該鉱物は、篠本氏が他の鑛物と共に独逸のクランツ(商会)へ輸送したる
    中にありたるものなりと云う。』
とあります。

(3)今回の採集、標本の分析にあたり、「福井縣鑛物誌」に助けられるところが
   大きかった。本書の入手に、ご尽力いただいた、石友のTさんに御礼申しあげます。
(4)こどものころ、父が演習の携行食糧「乾パン」を持ち帰り、その中に”金米糖”が
   あったことを、13回忌が過ぎた今頃になって、思い出しています。
    金米糖をほとんど見かけない昨今、「金米糖状」は、死語になってしまうので
   しょうか。

6.参考文献

1)市川 新松:福井縣鑛物誌,同,昭和8年
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