福井県美山町赤谷鉱山の「メタ輝安鉱」 -その2-

1. はじめに

    福井県福井市美山町にある赤谷(あかだに)鉱山は「金米糖状自然砒」の産地として
   鉱物コレクターの間で世界的に有名だ。
    2009年9月、愛知の石友・Tさん親子を案内し、兵庫県のN夫妻とともに産地を訪れた。

    ・ 2009年9月 北陸ミネラル・ウオッチング【ダイジェスト版】
     ( Digest Version of Mineral Watching Tour in Hokuriku Area , Sep. 2009
      Nagano,Niigata,Ishikawa,Fukui & Gifu Pref. )

    帰宅後、Tさんから写真を添えたお礼のメールをいただき、今どき2cmを筆頭に多数の
   良品が採集できるとは想定外だったようだ。

     
赤谷鉱山産「自然砒」
【採集、撮影:Tさん】

 菱面体結晶が
球状に集合した
いわゆる「金平糖」
 粘土中にあったせいか
酸化が進まず、銀白色
部分が残っている。


    私が、今回ここを訪れた目的は、狙って「メタ輝安鉱」を採集したかったからだ。石友
   Nさんが送ってくれた見本をポケットに忍ばせ、ズリでそれらしい石を叩き続けて1時間
   一向に「メタ輝安鉱」は姿を見せない。
    外道で、「針状輝安鉱」、「母岩付き自然砒」などは嫌と言うほど出てくる。(贅沢!!)
   ポケットに忍ばせたNさんの恵与品をもう一度ジックリ見直す。どうやら、母岩は緻密な
   玉髄質のようだ。
    狙い違わず、叩いた石の断面が赤い。「来た!メタ輝安鉱だ!」。これで、念願が
   叶った。

    貴重な標本を恵与してくれた滋賀の石友・Nさんと同行いただいた皆さんに厚く御礼
   申し上げる。
    ( 2009年9月 採集 )

2. 産地

   過去のHPに詳しく記載されていますので詳細は割愛する。

     

産地で思い思いのポイントに
散らばって、採集

Tさん親子は『金平糖』
Ms.Nと私は『メタ輝安鉱』を
狙う。

 【対岸から撮影:Nさん】


3. 産状と採集方法

 3.1 産状
     これも、過去のHPに詳しく記載されていますので詳細は割愛します。

 3.2 採集方法
     「金平糖」を採集するときは、@ ふるい掛け、かA パンニングが有効なのだが、
    「メタ輝安鉱」は、、「ハンマで叩き、割れ口をルーペで見ることの繰り返し」だ。高品位
    標本は、「初めに」でも書いたように、割った瞬間”紅(あか)色”が目に飛び込んでくる
    ので、ルーペがなくてもわかるはずだ。(確認のためには、ルーペが必要)

4. 産出鉱物

 (1) メタ輝安鉱【METASTIBNITE:Sb2S3
      メタ輝安鉱は、輝安鉱【STIBNITE:Sb2S3】と化学式(=組成)が同じ
     いわゆる『同質異像』の関係にあるが、その外観(見た目)は全く違う。

      Nさんに恵与いただいたリッチなものと、今回私が採集した標本を並べ、産状など
     を検討してみたい。

区 分 採 集 者     標   本   写   真   説        明
全体Nさん  石英粗面岩の石英脈を
鉱染する”銀黒”様硫化
鉱物と共生
 
Mineralhunters
【2009年9月採集】
 玉髄質の石英塊の
「輝安鉱」と共生
 
拡大Nさん  輝安鉱がほとんど
見られない
石英部分に生成
 
Mineralhunters
【2009年9月採集】
 輝安鉱が少ない部分の
石英に接して生成
「輝安鉱」の表面にも共生

      比較結果から、『採集のヒント』をまとめておこう。

      @ 母岩
          一見、Nさんの恵与品と私のものでは、母岩が違う印象を与えるかも知れな
         いが、これは、石英粗面岩に走る石英脈に対してどう割ったか、の違いだけ
         である。
          つまり、Nさんは、「石英脈に直角」に、私は輝安鉱が良く見える「石英脈に
         平行(沿って)」に割った結果なのだ。
          Ms.Nが採集した標本は、輝安鉱の柱状結晶が縦割りになったもので、石英
         との際に「メタ輝安鉱」が見られ、石英がエンジ(鈍い赤)色に鉱染していた。

      A 共生鉱物
          Nさんのも私のも、輝安鉱が少ない(ほとんどない)部分の石英に接している
         傾向がみられる。
          ただ、”不毛の”石英脈ではなく、必ず近くに輝安鉱があるし、今回採集した
         標本のように、輝安鉱に接しているものもある。

      B 色・外観
          Nさんから恵与いただいたサンプルを一目見て、どの鉱物に似ているか、と
         言われると、「洋紅石」だろうか。「ベンガラ(赤鉄鉱)」に似てなくもないのだが
         もっと明るく、輝きがある。
          『非晶質』(結晶しない)、とされるが、微細な尖った結晶の集合のように見え
         るので、そのような印象を受けるのだろう。

      たまたま、「輝安鉱」の標本として持ち帰ったものにも”シミ”のようなものが共生して
     いるくらいで、質さえ問わなければ量的にはかなりありそうだが、肉眼でも”紅色”が
     見られる質の高いものは稀の印象だ。

5.おわりに

 (1) 「紅い鉱物」
      2008年発行の加藤先生の「一覧」に、メタ輝安鉱の産地として、福井県福井市赤谷
     鉱山が記載してある。
      2006年発行の松原先生の「型録」には、メタ輝安鉱の名がないこところから、発見さ
     れて、まだ2、3年のようだ。

      『いつまでもあると思うな産地(親)と鉱物(金)』、だが、その一方でこのように新しく
     発見される鉱物や産地があるのも、ミネラル・ウオッチングを楽しくしている要因の
     1つだろう。

      さて、2000年に赤谷鉱山を訪れた記録が私のHPにある。

      このとき、”紅い鉱物”を採集し、「紅安鉱?」ではないか、はたまた”辰砂”かと
     考えたが、一部黄色(石黄【ORPIMENT:As2S3】)に似ている部分もあり
     「鶏冠石」としておいた。

      「鶏冠石」としておいたが、これが「メタ輝安鉱」だったかも知れず、この標本を探し
     出してもう一度見直す必要がありあそうだ。
      もし、このとき、「メタ輝安鉱」の存在を知っているか、疑問をもって分析に出してお
     けば、”新産鉱物の発見者”になり得たかもしれない。

      私自身は、”発見者”になることにはほとんど執着しないが、興味のある方は
      @ 不明な鉱物は分析を依頼する。
      A 国内で産出未報告の鉱物でもその外観、物性などをインターネットで調べて
        おくとよいだろう。
 

      これも、ミネラル・ウオッチングを面白くする1つのキーワードになりそうだ。

 (2) 「福井・下味見」局
      以前のページで紹介したが、「赤谷鉱山」は「味見鉱山」と呼ばれた時期もあった。
     「赤谷」は鉱山よりもさらに山奥にある集落だが、「味見」は、福井市あるいは大野
     市寄りにあるより規模の大きな集落で、「上味見」、「下味見」の2つの集落がある。
     赤谷鉱山に最も近い集落は「下味見」である。
      私の別な趣味の1つに、郵便切手などを集める「郵趣」がある。赤谷鉱山があった
     「福井・下味見」局の消印を押した郵便切手が売られていたので、すぐに入手した。

     

「福井・下味見」局消印
菊5厘切手田型

大正2年8月26日



 (3) 念願叶って
      赤谷鉱山を訪れ、「これでこの産地も、ようやく卒業できそうだ」、と何回か書いた
     気がする。2009年4月のHPを読んだ石友・Nさんに「メタ輝安鉱」の佳品を恵与いた
     だき、”雌伏2ヶ月”、今回「メタ輝安鉱」を狙って採集でき、この産地も卒業できそう
     だ。
      貴重な標本を恵与してくれた滋賀の石友・Nさんと同行いただいた石友の皆さん
     に改めて御礼申し上げる。

6.参考文献

 1) 松原 聰、宮脇 律郎:日本産鉱物型録,東海大学出版会,2006年
 2) 加藤 昭:日本産鉱物分類別一覧 −無名会七十五周年記念−,無名会,2008年
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