以前、小Yさんが訪れ、叩いたズリ石の晶洞に小さいながら2、30枚の「日本式双晶」が付
坑道の前に広がる露天掘り跡と思われる凹みの周辺には褐鉄鉱で覆われたズリ石が点
帰宅後、相島鉱山について「日本鉱産誌」などの手持ち文献を調べてみたが名前が載って
産地を案内してくれた小Yさんに、厚く御礼申し上げる。
『 ジュラ紀の石灰岩・石灰質粘板岩と流紋岩の接触鉱床
金峯鉱業(株)開発中、従業員19名
この調査が行われた昭和30年代には、試掘されていたようだ。
坑道の入口や露頭の特定の箇所では現在もサンゴ状に「石膏」が成長している。薄青色や
坑道の前に広がる露天掘り跡と思われる凹みの周辺には褐鉄鉱で覆われたズリ石が点
小Yさんが、”カリフラワー”と言う表現がピッタリである。
(2)パリゴルスキー石【PALYGORSKITE:(Mg,Al)2Si4O10(OH)・4H2O】
このほか、「鉄閃亜鉛鉱」などが観察できたが、標本として紹介するほどのものはなかっ
(1) 「結晶洞窟」
長さ10mを超える巨大な「石膏」の結晶が文字通り林立する洞窟があるのには驚いた。
今回採集した「石膏」は、高さ10mm足らずで、比べようもないほど小さいが、1つ1つの
(2) 2度と訪れない産地
( New Year Meeting of Friends of Mineral 2006 , Tokyo )
いていた、というので、今回の狙いも日本式双晶だった。
在し、それを割ったが双晶が付いたものは見当たらなかった。それでも、「鉄閃亜鉛鉱」や
「パリゴリスキー石」が石英に伴って確認できた。
坑道の入口や露頭の特定の箇所では現在もサンゴ状に「石膏」が成長していて標本として
持ち帰った。
いなかった。かろうじて、インターネットで参考文献 1) の情報が得られ、これによれば昭和
30年代まで試掘していたようだ。
( 2009年4月採集 )
2. 産地
南相木村の「立岩(たていわ)」から臨幸(りんこう)峠に向かう林道沿いにある。詳細な
場所は湯沼鉱泉に宿泊し、社長に教えてもらうのが良いだろう。
3. 産状と採集方法
参考文献 1) に、地質・鉱床・産出鉱物は下記のように記されている。
鉄閃亜鉛鉱・磁硫鉄鉱・黄銅鉱・緑簾石・柘榴石・方解石・珪灰石・透輝石
( 長野試登 5447) 』
薄緑色に色づいた銅の2次鉱物と思われるものもあるが、乾くと白濁してしまい標本にはなり
そうもない。
坑道 成長中の石膏
産地
在し、それを割ると稀に多孔質の石英質の晶洞があり、中に水晶がある。小Yさんが採集し
た日本式双晶はこのような産状だったらしい。
4. 採集鉱物
(1) 石膏【GYPSUM:CaSO4・2H2O】
白〜透明、ガラス光沢で平行四辺形の剣(つるぎ)のような結晶が樹枝状に成長して
いる。
石灰質の母岩から染み出したカルシウム(Ca)と硫化鉱物から溶け出した硫酸塩(SO4)
から生まれたもので、現在も成長し続けている。
全体 部分
石膏
白色不透明、針状鉱物の集合体で石英脈の隙間に産する。英語では”Moutain-leather”
和名では石鞣皮(せきじゅうひ)、山鞣皮(やまじゅうひ)あるいは単に山皮(やまかわ)と
呼ばれる。( 鞣皮とは、なめしがわの意味 )
パリゴルスキー石
た。
5. おわりに
NHKの「 ワンダーワンダー 」で放映されたメキシコの結晶洞窟を見た読者も多いと
思う。私も、千葉のTさんはじめ多くの石友に放映日時を教えていただき期待していた。
ただ、炎天下の畑仕事での疲労と適度なアルコールの酔いのため睡魔に勝てず、ビデ
オで録画したものを翌日妻と一緒に観た。
52〜59℃という熱めの風呂の中で、年間0.02mmというユックリしたスピードで、50万年
という長い時間をかけて成長した、と語っていた。
鉱山の開発で、地下水位が下がり、成長は停止したが、そのお蔭でわれわれの眼に
触れることができた。
結晶は結晶洞窟のものと変わらずに美しく、自然の造形の妙にはいつもながら感心する。
「この産地は2度と訪れないだろう」、と思っていたが、「日本式双晶」の魅力(魔力)に
は勝てそうもない。
次回は、ジックリと双晶を探してみたいと思っている。
6. 参考文献
1) 河内 洋祐ほか:長野県南佐久郡下金属鉱床の放射能強度,地質調査所,昭和34年
2) 柴田 秀賢、須藤 俊男:原色鉱物岩石検索図鑑,図鑑の北隆社,昭和48年