中国人同僚とミネラル・ウオッチング







         中国人同僚とミネラル・ウオッチング

1. 初めに

    2012年の夏、会社の送迎バスに乗ったところ、前の席に座ったFさんが、私が山梨から
   単身赴任していることを知って、「ほったらかし温泉に行ってきたが、素晴らしかった」、と
   話しかけてきた。
    「眼下に見下ろす甲府盆地の夜景は、新日本三大夜景に選ばれている」、など私自身
   初めて知る情報もあり、周りにいた人たちも、Fさんの話に引き込まれ、紅葉が美しくなり、
   ぶどう狩りができ、ワインも美味しくなったら山梨に行こうと言う機運が生まれてきた。
    その中心になったのが、日本の大学院を卒業し、私が単身赴任している会社で何年か
   前から働いている中国人同僚のSさんだった。女性1人だけを案内するのには抵抗があり、
   Sさんの友人にも声を掛けてもらったところ、中国人社員のAさんとRさん、合計3人の女性が
   参加する事になった。

    私が立案した計画は次のような濃密なものだった。

    第1日・・・・・・・・・富士山を中心とする山梨県の自然・食・歴史
               そして日本でのホーム・スティ体験
    第2日・・・・・・・・・山梨県と長野県の文化・食そして自然をたずねて

    2012年10月後半、第1日目、3人を甲府駅で出迎え、御坂で「ぶどう狩り」を体験し、御坂
   峠を越え河口湖から富士山5合目を目指す。スバルライン沿いの紅葉に感嘆の声を上げ、
   振り返ると富士山の山肌が間近に迫り、5合目から上は雪に覆われているのを見て、彼女
   たちの感激は最高潮に達した。5合目を散策の後、甲州名物「ほうとう鍋」を食べると寒さ
   が吹き飛んだ。

    精進湖からは「逆さ富士」こそ見られなかったが、真っ白な富士山が望め、日本の自然
   を満喫していただいた。
    本栖湖脇から、身延町に下り、「湯之奥金山博物館」では、K学芸員直々の指導で「砂金
   採り」を体験し、「砂金」と「きれいな貴石」をお土産に今夜の宿・中川旅館を目指した。

    私の家から徒歩5分にある美人の湯・「○○温泉」で旅の疲れをとっていただき、「馬刺」
   をはじめとする甲州の食を味わっていただいた。
    帰宅後、妻の指導で「茶道」を体験していただき、日本文化の奥深さをチョッピリ理解い
   ただいたようだ。
    中川旅館の四畳半に3人一部屋で休んでいただく。

    2日目は、文化の秋に相応しく、「山梨県立美術館」で、ミレーを中心とする絵画や彫刻を
   鑑賞していただいた。
    このあと、近くのSAから高速に乗り、「国宝・松本城」を目指す。空は雲一つなく、快晴だ。
    城を巡りながら撮影ポイントで写真を撮る。観光シーズン真っ盛りで、城の中は混雑して
   いるので入場を諦め、美ケ原に向かって走ると、ワイナリーが経営するレストランがあり、
   今日のランチはフレンチだ。
    ここには、農産物の直売所も併設され、「棗(なつめ)」など珍しいものや、リンゴなどを購
   入した。

    美ケ原は、紅葉の真っ盛りで、遠く富士山も見える。和田峠で、「黒曜石」を拾い、諏訪
   大社で独身3人娘は「○○祈願」し、諏訪湖のほとりで足湯に浸かっていると陽も傾いてき
   た。
    再び高速に乗り、甲府駅に直行すると妻が待っていた。いつもの千葉行特急に乗り、単
   身赴任先の駅に着いたのは21時を回っていた。
    国と国の間ではいろいろある日本と中国だが、中国人同僚にわが家に泊っていただき
   平均的(中の下?)な日本の家庭を知っていただけたのは有意義だった、と思っている。
    旅の途中でお世話になった、「古屋甲玉園」の古屋社長、「湯之奥金山博物館」のK学
   芸員はじめ、大勢の皆さまに御礼申し上げます。
    ( 2012年10月 実施 )

2. 【第1日目】

 (1) 「甲府駅に集合」!!
      前夜、22時近くに単身赴任先から帰宅した。朝一番の新宿発特急に乗った3人は、
     8時半過ぎに甲府駅の改札口に姿を現した。だが、出てこない。日暮里駅でSuicaを通
     してしまい、そのキャンセル処理をしてもらっていたらしい。
      事前に、乗車券と座席指定特急券を渡し、使い方も説明しておいたのだが、彼女たち
     には初めてで戸惑ったようだ。

      私の車は単身赴任先に置いてあるので、妻の軽自動車に乗ってもらう。助手席には
     最近運転免許を取得した遼寧省出身のSさん、後部座席には、吉林省出身のAさんと
     上海近く出身のRさんだ。いざ、出発!!

 (2) 「甲州の名物は、葡萄と水晶」
      御坂峠を目指すと道路の両側に「葡萄園」の看板が目白押しだ。その中の1つ「古屋
     甲玉園」の看板が見えたので入った。入った理由は、「山梨県立博物館」の正面にあり
     進行方向左側で、駐車場も広そうで入りやすかったからに他ならない。店の名前も入
     ってから社長に名刺をいただいて知ったのが真相だ。綾小路きみまろ流にいえば、『単
     なる偶然』だ。

      駐車場には大型バスも入れるように、高い位置に葡萄棚があり、3人の美人の入場
     に気付いた社長が、葡萄狩り用のリフトを運転してきて、3人を乗せ、葡萄の房に手が
     届く位置まで持ち上げてくれた。

         
               初めての葡萄狩り                 社長と記念写真
                            「古屋甲玉園」にて

      社長のモットーは、『出会いは楽しく!!』、ということで、次々と味見用のぶどうや柿、
     そしてブドウジュースさらにはワインまで勧めてくれ、行ける口のAさんは、ワイングラスを
     何回か空ににした。

       Sさん、○杯目

      自分で切りとった葡萄を定番のカゴに詰めてもらい、社長に別れを告げた。

 (3) 御坂峠を越え富士山5合目へ
      幕末の狭客・黒駒の勝蔵ゆかりの黒駒を通り、車はぐんぐん高度を上げていく。御坂
     トンネルを抜けると、眼下には河口湖をはさんで富士山の雄姿が見えるはずだが、雲
     に隠れて姿がみえない。(美女3人がきたので、恥ずかしいの??)

      河口湖大橋を渡り、スバルラインに入る。道路の凹凸からメローディが聞こえる区間が
     あるとRさんがインターネットで下調べしてくれていた。路面に”♪”マークが見えて間も
     なく、路面とタイヤの間から発する音が室内に聞こえてきた。
      聞いたことはある曲なのだが、局名が思いだせない。あっという間に、その区間を通
     り過ぎ、しばらく走ってたころ、どうやら『富士山』らしい、と思い至った。

      1合目から2合目、3合目と登って行くにつれ周りの木々の紅葉が美しくなる。3合目の
     展望台にトイレ休憩を兼ねて停まり、後ろを振り返ると真っ白い雪に覆われた山腹から
     頂上までが見え、彼女たちは大喜びでカメラのシャッターを切っていた。
      私自身、こんな形で富士山が見えるとは予想もしていなかった位だから、彼女たちに
     とっては大きなサプライズだった。

       3合目からの富士山

      さらに車は登っていく。4合目まで行くと、富士山が噴火した時の赤〜黒い噴石が間
     近に見られるようになる。
      ミネラル・ハンターズとしては、富士山の噴石(溶岩)にも興味がある。富士山の溶岩
     には鉄分が多いせいか、磁石を近づけると写真のように吸いつくのだ。
      富士山の麓・青木ケ原樹海は行方不明者が多いことで有名だ。その理由の1つとして
     鉄分の多い溶岩のせいで磁石が正しい方角を示さなくなり、遭難する人もいるらしい。

         
            4合目からの富士山                      溶岩
                                          【磁石が吸いつく】

      さらに車は登っていく。間もなくスバルラインの終点5合目だ。山頂を目指す登山客に
     とっては、ここが実質的な1合目だ。
      5合目のモニュメントの前で記念写真を撮り、登山客の雰囲気を味わうために登山道
     を散策する。
      ただ、観光・体験乗馬用の馬の糞・尿の臭いが充満し、顔を顰(しか)める場面もあっ
     た。

         
               モニュメント前                    登山道
                            富士山5合目

      そうこうするうちに、お昼の時間だ。山梨に来てもらったら、美味いもんだよカボチャの
     『ほうとう』を味わってもらわねば。彼女たちが土産ものを物色している間に、ほうとうが
     食べられる場所を探し、予約した。(出来上がるまで、20分くらい時間がかかる)

       『ほうとう』を味わう

      熱々のほうとうで身体も心も温まり、午後の部スタートだ。

 (4) 「砂金採集」体験
      5合目から下ると、雲が晴れ富士山の姿がくっきりと見える。これなら、精進湖からも
     富士山が見えるはずだと案内する。予想通り、精進湖から湖面を通しての富士山は
     絵になっていた。(残念ながら、デジカメの設定が悪く富士山が飛んでしまった)

       精進湖の3人娘

      本栖湖畔を通り、身延町(旧下部町)に下る。「湯之奥金山博物館」に到着したのは
     16時ごろだった。ここでは、砂金採りを体験していただく予定だ。忙しい中、K学芸員が
     砂金採りのレクチュアをしてくださった。
      「初心者の方は、5,6粒採れれば合格です」、の到達目標に3人ともプレッシャーを感
     じたようだ。「K学芸員は砂金採りの世界大会金メダリストですから、採れないのは皆さ
     んの腕が悪いせいです」、と私が追い打ちを掛けた。

  
          余裕のRさん         「採れない!!」Sさん        無心のAさん
   

      皆さん、何とか6粒以上は採れたようだ。最近は、水槽の中に「瑪瑙(めのう)」などの
     半貴石をバレル研磨した小さい粒も混ぜてあり。それらを砂金と一緒にビンに入れて
     お土産だ。

         
                    砂金                     「半貴石」
                     湯之奥金山博物館・「砂金採り体験」成果

      陽が落ちて、暗くなった富士川沿いを甲府の私の家を目指して車を走らせる。
      自宅に着いたのは予定より遅い18時過ぎだった。この日は、自宅近くの美人の湯・
     「○○温泉」に入浴し、旅の疲れをとっていただいた。お風呂あがりは、併設の休憩施
     設で夕食だ。「馬刺」など、甲州ならではの食材を味わっていただく。

 (5) 日本文化の侘び・茶道体験
      帰宅後、妻から3人娘に茶道の手ほどきをしてもらった。中国と日本の茶道はだいぶ
     違うようだ。
      妻のお手前を見本にそれぞれが茶を立て、茶を味わっていただく。

  
        茶匙をつかうAさん      お茶を立てるSさん      お茶を飲むRさん
   

      チョッピリ日本文化の奥深さを知っていただけたようだ。美味しいので贔屓(ひいき)
     にしているケーキ屋さんで買ってきたケーキを食べながら談笑していると消灯時間だっ
     た。

3. 【第2日目】

 (1) 「山梨県立美術館」で藝術の秋を堪能
      朝食を済ませ、私の家から20分ほどにある「山梨県立美術館」を訪れる。駐車場の
     銀杏の葉も黄色く色づき、芸術の秋に彩(いろど)りを添える。
      「山梨県立美術館」は、ミレーの絵を中心に展示し、県内外の観光客が多数訪れる
     ことで有名だ。お茶目なAさんは、館の入り口にあるミレーの『種を播く人』になりきって
     いる。

         
              銅像にならう3人娘            『種を播く人』・Aさん
                          「山梨県立美術館」

      開館間もないこともあり、訪れる人もまばらで、ゆったりとした気持ちで1枚1枚の絵を
     鑑賞できる。
      ここを何回か訪れてほとんどの絵を何回か観ている私だが、3人娘の見方には、男女
     の違い、国民性の違いなどが色濃く出ていて、”え!!”と思うような解釈もあり、参考
     になった。

 (2) 国宝・「松本城」
      美術館で1時間半ほどゆったりとした時間を過ごした後、近くのSAから高速道にのり
     長野県松本市を目指す。12時少し前に松本ICを下り、松本城近くの駐車場に車を入れ
     お城を一巡する。
      抜けるような青空、黒と白のコントラストが際立つお城、真っ赤な橋の欄干など、どこ
     から見ても絵になるお城だ。

         
                           国宝・「松本城」

 (3) ランチはフレンチ
      観光シーズン真っ盛りで、城の中は混雑しているので入場を諦め、美しケ原に向かっ
     て走ると、「山の辺」ワイナリーが経営するレストランがあり、ここでお昼にすることにし
     た。
      レストランの前には、『限定30食』のランチの看板があり、値段もリーズナブルなので
     これを注文する。
      30分以上待たされて、席に案内された。ドリンクは、ワイン、コーヒー、紅茶などが選
     べるようになっている。行ける口のSさん、Aさんはワイン、運転する私はコーヒーを注
     文する。

      
               ランチはフレンチ
           【ワインを飲みたかった・・・・・】

      ランチの後、併設されている農産物の直売所で、「棗(なつめ)」など珍しいものや、
     長野県特産のリンゴなどを購入した。

 (4) 美ケ原でミネラル・ウオッチング
      美ケ原は、紅葉の真っ盛りで、遠く富士山も見える。和田峠では、「柘榴石」の採集
     を、とも考えたが用具がないため、「黒曜石」を拾ってミネラル・ウオッチング終了だ。

         
              富士山を望む                    黒曜石
                             美ケ原

      旧中山道の一里塚などを車窓に見て、下諏訪の町に向かう。車内で、某テレビ局の
     アナウンサーが『旧中山道を歩いた』、という原稿を『1日中、山道を歩いた』、と読んだ
     と駄洒落を飛ばしたのだが、反応は今一つだった。
      逆に、日本では一里は4,000m(4km)だが中国の一里は、500mだと教えてもらう。

 (5) 諏訪大社で○○祈願
      諏訪大社を訪れる。何を隠そう、私が諏訪大社を訪れるのは初めてなのだ。手洗水がお
     湯になっているのは、まさに温泉町ならではだ。社殿の前で、○○を祈願する独身の
     3人娘だった。

         
               お湯の手洗水                   ○○祈願
                             諏訪大社

 (6) 諏訪湖畔で足湯体験
      諏訪湖畔に「間欠泉」があるのを見てもらおうと湖畔に行った。15時を過ぎており、
     今日の噴出は終わっていた。
      湖畔に「足湯」があるので、体験してもらう。一日中歩いて疲れた足には、何よりだっ
     たようだ。
      そうこうするうちに、釣瓶落としの夕日が、山際に沈みそうになっていた。

         
                「足湯」体験                     夕日
                             諏訪湖畔

 (7) さよなら甲州
      「諏訪IC」から再び高速に乗り、甲府駅に直行すると妻が待っていた。ここで車を妻に
     バトンタッチだ。
      妻の見送りを受け、いつもの千葉行特急に乗り、単身赴任先の駅に着いたのは21時
     を回っていた。

4. おわりに

 4.1 約20年ぶり
     私が山梨県にある工場に転勤になったのは今から20年以上前の平成元年(1989年)
    だった。1ケ月ほどの単身赴任の後、家族を呼び寄せた。

     平成3年から、国内外の関連会社を担当させていただき、海外・マレーシア工場の社
    員が来日するたびに、山梨県内の名所・旧跡を案内したり、東京ディズニーランドに行っ
    たり、自宅に招いて夕食を共にしたりしていた。

     平成5年から、欧米の工場とも関係ができ、アメリカ人を自宅に招き夕食を共にするこ
    ともあった。当然、妻や子供も一緒だ。こんな訳で、外国の人がわが家に来るのが当た
    り前の生活だった。しかし、平成7年に、私が単身赴任で東京の工場に戻り、その後茨
    城の工場に赴任してからは、このような機会は絶えてなかった。

     今回、約20年ぶりに中国人がわが家を訪れ、泊っていただいた。国と国の間ではいろ
    いろある日本と中国だが、中国人社員にわが家に泊っていただき平均的(中の下?)な
    日本の家庭をや生活を知っていただけたのは有意義だった、と思っている。

     これからも、このような機会を増やせればと考えている。

 4.2 初冬の風物詩
      「木枯らし」が吹き始めるこの季節、近くの農産物即売所に行くと、「甲州百目柿」が
     山のように積んで売られている。「甲州百目柿」は、干し柿や熟し柿用の渋柿で、百目
     (375g)はオーバーにしても、大きなものを実測すると300g近いものがあった。

      単身赴任先から帰宅すると、妻が「甲州百目柿」箱買いしてあった。1箱、20ケほどで
     2箱あり、妻が外出した翌日の朝の内に皮をむき、紐に結えて陽当たりと風通しの良い
     場所に干した。

         
                「甲州百目柿」                 干し柿
                            初冬の風物詩

      40個では、私と妻の実家、嫁さんや息子などに配るのには足りないと思い、その日の
     夕方に40ケほど追加を買いに走り、それもその日の内に干した。もう少し欲しい気もす
     るので、次回帰った時に売っていれば追加で干すつもりだ。

5. 参考文献

 1) 山田 滋夫:日本産鉱物 五十音配列 産地一覧表,クリスタル・ワールド,2004年
 2) 松原 聰:鉱物 ウオーキングガイド 全国版 ,丸善株式会社,2010年
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