2010年12月「第19回東京ミネラルショー」







       2010年12月「第19回東京ミネラルショー」

1. 初めに

    東京では、年に2回、国際的なミネラル・ショーが開催される。それぞれ、開催場所が
   新宿、池袋なので、それを頭につけて、年末に開催されるのを「池袋ショー」とも呼んで
   いる。
    2010年6月、新宿のミネラルショーを訪れた時、国産標本を揃えているブースが少なく、
   しかも古い標本はほとんどなく、どうしたものか思案していた。

    栃木県の石友・Sさん一家にメールすると、受験勉強に明け暮れている娘のYさんが
   息抜きに行きたいというので、会場で合流する事にした。

    開場15分ほど前に東京・池袋の「サンシャイン文化会館」に到着し、入場券を購入し
   列に並ぶと既に2、300人が並んでいた。予定よりも少し早く開場し、国産鉱物がありそ
   うなブースに駆け付けた。
    国産標本を物色していると携帯が鳴り、Sさんからだった。会場の入り口付近でSさん
   一家の女性3代が待っていた。Sさん一家とは、Yさんの高校入学が決まった時に一緒に
   ミネラル・ウオッチングに行ったのが最後で、ほぼ1年半ぶりだった。
    Yさんはすっかり高校生らしくなり、家族の皆さんもお元気そうで何よりだ。お昼をご一
   緒することにして、再び別行動となった。

    再び会場に戻ると、大江理工社のブースには、国産標本の古いものから最近のものまで
   素晴らしい標本が並んでいた。
    「山梨県乙女鉱山のライン鉱」「小尾八幡山の燐灰石」があったので、値段も良かった
   が、『自分へのご褒美』 として、迷わず購入した。

    間もなく、Sさんから携帯に連絡があり、お昼をご一緒した。娘のYさんは、『理系』志望
   とのことなので、大学生になっても、鉱物に興味を持ち続けて欲しいと願っている。
    ( 2010年12月 情報 )

2. 場所と規模

    JR池袋駅からサンシャインビルを目指して進み、「東急ハンズ」の脇から一度地下に
   降り、「文化会館」を目指す。2008年から、2Fだけでなく3Fの一部でも販売されるように
   なり、会場のスペースに若干余裕が出たような気がした。

      3F会場入口

    公式ガイドブックには、国内215(201)社、海外86(74)社、合計301(275)社が出展し
   ( )内の2009年にくらべ、出展社数は30社近く増え、鉱物、ジェムなどの人気の高さを
   物語っている。

    ” Mineral Show ”、と銘打っているが、「化石」だけ、あるいは「ジェム(磨き石)」だけの
   ブースも沢山あり、次のようなものを展示、即売している。

    (1) 鉱物
    (2) 化石
    (3) ジェム
    (4) 隕石
    (5) 文献・図書・切手・古銭

3. 購入標本

    山梨県を代表する鉱物と言えば水晶(石英)だが、岡本、桜井良先生が選んだ「日本
   産鉱物50種」には、「乙女鉱山の日本式双晶」と並んで「乙女鉱山産のライン鉱」が入っ
   ている。

    ・「あなたはおもちですか?」
     鉱物コレクターの資格審査
     ( How Many Specimens do you have ? , Qualification of Mineral Collector )

    少し眼の肥えた方なら、「小尾八幡山の燐灰石」なども見逃さないはずだ。今回、大江
   理工社のブースを訪れると、「乙女鉱山産のライン鉱」と「小尾八幡山の燐灰石」が”ひ
   っそり”と置いてあったので、値切った上で購入した。

 3.1 「乙女鉱山のライン鉱」
      「ライン鉱」と呼んでいるので、そのような名前の鉱物があるのか、と思われる方が
     いるかも知れない。今でこそ、『ライン鉱は、灰重石の結晶形を残したまま、鉄重石に
     置き換わったもので、「灰重石後の鉄重石」が正式な呼び名である』 
ことを知ってい
     る人も多いと思う。

      しかし、これが発見された当時、『ライン鉱は新鉱物なりや?』、という一大論争が
     鉱物界に巻き起った。
      明治31年(1898年)、巨智部博士が「ライン鉱は、鉄重石で、灰重石の仮晶である」
     と鑑定し、決着がついた。

      今回入手した「ライン鉱」を紹介する。

          
                  表【太陽光】                裏【紫外光】
                           ライン鉱【乙女鉱山産】

      標本の裏面にミネラライトの紫外線を照射すると、青白く光る八面体の鉱物が観察
     できる。これが、もとの鉱物の「灰重石」だ。

 3.2 「小尾八幡の燐灰石」
     明治時代、山梨県の水晶峠の北にある小尾八幡山の水晶坑で、燐灰石が発見され
    和田維四郎標本に加えられている。
     その後、大勢の人が訪れ、晶洞の中の土砂を全部持ち帰って調べたが、カケラすら
    発見できなかった、と聞いている。
     今回入手できたのは、サイズは何分の一かだが、和田標本にあると同じような円柱
    状でC軸方向に条線が発達している。
     頭には、C軸に直角なC面とX面などの錐面がいくつか観察でき、『頭付き結晶』だ。
    ミネラライトを照射してみたが、全く蛍光はない。

        燐灰石【小尾八幡産】

4. おわりに

 (1) 乙女鉱山近況
      妻から、2010年11月30日付読売新聞の切り抜きが送られてきた。

     
                    読売新聞切り抜き【2010年11月30日付】

      記事の見出しは、『廃鉱に水晶 無許可採掘』、とある。

      11月末、山梨県の林務部と日下部警察署が乙女鉱山の共同パトロールを実施し
     たところ、無数の掘り跡、焚火の跡、そして石の隙間に隠されていたビニール袋に
     包まれた大小2点のハンマとノミ(タガネのこと)が見つかった。
      ほかにも、木の洞(うろ)に隠されたハンマなどが見つかり、日下部署員が”証拠”
     として持ち帰った。
      森林保全の観点からも現状を懸念し、今後もパトロールを不定期に実施する
、で
     記事は結ばれていた。

 (2) 小尾八幡山の思い出
      ミネラル・ウオッチングで石友皆さんを小尾八幡山に案内したのは、7年以上も前の
     2003年5月だった。

      ・2003年5月鉱物採集会【ダイジェスト版】
       (Digest Version of Mineral Hunting Tour in May 2003 , Yamanashi & Nagano Pref.)

      この時、この会の”長老”ともいうべき、千葉・Tさんが、「MH、こんな石があった」
     と人さし指ほどの太さで長さ2、3cmの標本を差し出した。円柱状で縦に条線があり
     私はてっきり「トパズ」だろうと思ったが、地面に落ちていた水晶片でひっかくと簡単
     にキズがつき、『 幻の燐灰石があった !!』、と大騒ぎになった。

      後日、Tさんは、堀先生をここに案内したことが会誌「水晶」に掲載されている。

      「燐灰石」を眼にした私は、「1つあれば、いくつかあるはず」、と何回か通ったのだ
     が、幸運の女神はほほ笑まず仕舞いだった。

      あれから、7年以上が経ち、『時効』、だろうと思いHPに載せなかった部分を補足し
     た次第だ。

      こんな裏があり、「小尾八幡の燐灰石」を迷わず購入した次第だ。

5. 参考文献 

 1) 岡本要八郎、桜井欽一:「あなたはおもちですか?」鉱物コレクターの資格審査
                   地学研究Vol.10 No.5,1958年
 2) 益富 寿之助:水晶 やさしい鉱物学,保育社,昭和60年
 3) 山田 滋夫:日本産鉱物五十音配列産地一覧表,クリスタル・ワールド,2004年
 4) 松原 聰、宮津 律郎:日本産鉱物型録,東海大学出版会,2006年
 5) プラニー商会:第19回 東京ミネラルショー公式ガイドブック,同商会,2010年
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