2009年6月 ”現金鉱物採集の旅” 22nd Tokyo International Mineral Fair

          2009年6月 ”現金鉱物採集の旅”
         22nd Tokyo International Mineral Fair

1. 初めに

   東京では、国際的なミネラルショーが6月、12月の2回開催される。それぞれ、開催地に
  ちなんで「新宿ショー」、「池袋ショー」と呼ばれている。

   2009年6月、「新宿ショー」が開催される週末、東京近郊にある妻の実家と長男の家に
  行く用事があり、「東京飯田橋の「ミネラル・マーケット」と新宿の「ミネラルフェア」を訪れた。
  「ミネラルフェア」は初日の金曜日と終盤近い月曜日の2回も行ってしまった。
   ( どちらが本当の用事だったか??・・・・・・蔭の声 )

   国産標本をおいてあるブースは「クリスタルワールド」、「Ms.Hの店」、「真鍋鉱物研究所」
  「ノーベル社」、「益富地学会館」そして「大江理工社」などいくつかに限られている上、
  「市ノ川の輝安鉱」には、50万円を超える値段がついていて、とても手がでなかった。
  ( 既に持っているので買う気もないが )

   今回、次のような観点で、各ブースを丹念に探すと、面白い標本があり、しかも価格は
  高くなく、いわゆる『掘り出し物』だと思い、数点購入した。

   @ 石友への贈呈品・・・・・「千葉富山産トベルモリ石」「富山亀ケ谷鉱山産 水亜鉛土」
                   「竹森産すすき入り水晶」「マダガスカル産紫水晶」
   A 比較標本・・・・・・・・・・・「ブラジル産紫水晶」
   B 格安標本・・・・・・・・・・・「南アフリカ産ダイヤモンド」

    「マダガスカル産紫水晶」は、購入した時点では単なる「松茸水晶」だと思い込んでいた。
   帰宅して根元にある水晶を見ると双晶をなしていることが分かり、833円で買ったものが
   『瓢箪から駒』だった。

   今回の特別展は、「世界・日本の偉人・・・・鉱物との意外な関係」で、ゲーテやモーツァルト
  などが鉱物名に名を残しているのは知っていたが、「ナポレオン岩」があることなど初めて
  知った。

   国際的なミネラル・ショーのもう1つの楽しみは、外国の人々と情報を交換できることこと
  だ。
    @ Ms.Hとは、同い年の”戌(いぬ)”だと知った。
    A Petrov Rare Minerals のオーナーが甲武信鉱山を訪れたいというので、湯沼鉱泉
      社長の住所を教え、湯沼鉱泉に宿泊し、案内する約束をした。
    B ブラジルMultigemas LtdaのMr.Fredericoとの話で、”尾籠(びろう)”な話に、一応の
      決着がついた。

   「ミネラル・マーケット」では新産鉱物や新産地の鉱物そして古典的な産地の国産標本の
  良いものには馬鹿高い値がついているのも稀ではないが、「ミネラルフェア」に出品している
  古くからの「標本商」の店先にはひっそりと私が買うのを待っている格安な標本があり、
  V/P(ブイ・パー・ピー)に満足して帰途についた。
   ( 2009年6月 現金採集 )

2. 場所と規模

 名  称 場  所
(最寄り駅)
出店数 入場料 内  容  備  考
第22回東京国際
ミネラルフェア
ハイアット
リージェンシー
東京
(JR新宿)
約150
国内:国外=50:50
通し券1,000円
昨年2,000円だった
業者による販売
鉱物、化石、ジェム
ジェムが多い
 金曜日〜火曜日
 (5日間開催)

     ミネラルフェア会場【2009年6月 新宿】

3. 購入標本

 3.1 石友への贈呈品
     日ごろ多くの石友との交友の中で、その人が欲しがっている標本や探している情報
    などが何となくわかる。
     国内産地の標本でも、多量に採集しない私には、研究(少し大袈裟かな)のための
    わずかな数しか手元にない。そこで、贈呈するための標本はこのようなミネラルショーで
    購入することにしている。

  鉱 物 名
  (英語名)
  産   地  説      明 写      真 贈 呈 者 備  考
水亜鉛土
(HYDROZINCITE)
富山亀ケ谷鉱山
(かめがい)
 「日本鉱産誌」に
よれば、
亀ケ谷鉱山は
笹尾鉱山とも
呼ばれ、三井金属
鉱山が大正〜昭和
初期に「閃亜鉛鉱」
などを採掘した
ようだ。

       水亜鉛土


        ラベル

石川・Yさん

 Yさんは、亀ケ谷
鉱山を探してくれて
いる。

 ラベルのほうに
価値があるかも?

 近日中に郵送
予定
 

トベルモリ石
(TOBERMORITE)
千葉県富山町  当時、国内
唯一の産地

      トベルモリ石

  
       ラベル

長野・小Yさん

 「日本の鉱物」
図鑑に載っている
鉱物の原産地
標本の完集を
目ざしている。

 これも、ラベルの
ほうに価値がある
かも?

 RITEと綴るべき
ところが liteとなって
いるのは”ご愛嬌”

 次回、お会いするとき
お渡しします。

すすき入り水晶
(QUARTZ
including
DRAVITE)
山梨県竹森  苦土電気石や
雲母などを含む水晶
【現在 採集禁止】
  
    すすき入り水晶
東京・Kさん

 2009年2月末に
いただいた
お手紙に
「 ・・・・・現在、
鉱物採集が
できないほど・・
具合が良くあり
ません
 子どもたちが
お世話になった
近くの小学校へ
鉱物を寄贈する
のが私の役割に
なってきました。
 ・・・Mineralhuntersが
採集した竹森の水晶で
要らない石があれば
安く譲っていただけ
ないでしょうか・・・・」

 要らない
余分な石は
ないので今回
買った。

近日中にKさんに
郵送の予定

 当然、お金は
取りません。

紫水晶/石英
(Amethyst
 /QUARTZ)
マダガスカル  先端は松茸に
なっている

 根元のL字の
部分は
「日本式双晶」

  
      紫・松茸水晶
湯沼・お姐さん

 「奈留島の双晶」を
贈る予定でブースを
回ったが、形が
良くないものでも
高かったので
急遽変更

 月遅れGWミネラル
ウオッチングのとき
お渡しし、喜んでいた
だけたようだ

 3.2 比較標本
     月曜日、2回目に訪れたとき、クリスタル・ワールドのブースにブラジル産水晶の群晶
    が10ケほど山積みになっていた。その中の1つを見ると、”煙かかった”ような雰囲気で
    明るいランプの下でよく見ると『紫水晶』だった。
     ブラジル産の紫水晶といえば、”柱面がなく錐面だけで、どぎつい濃い紫色”というのが
    通り相場だが、この1つは錐面〜柱面まで一様に”上品な薄紫色”に染まっている。

     山梨県のペグマタイト地帯に見られる「紫水晶」に似ていて、値段を見ると、840円と
    安かったので、比較用に購入。

       紫水晶【Corinto,Minas Gerais,Brasil】

     このように、乱雑に山盛になった中から、気に入った標本や面白い標本を見つけると
    『掘り出しもの』を見つけたようで、嬉しくなるから不思議だ。

 3.3 格安標本
      会場を回っていると、ブースのカーテンの下や展示の隅の方に目立たない標本が
     目につくことがある。店のオーナーすら「そんなのあったけ?」てな感じで、値段は驚く
     ほど安い。それらをいくつか購入した。

  鉱 物 名
  (英語名)
  産   地 写      真 備  考
ダイヤモンド
 (DIAMOND)
Premier Mine
Kimbarly
South Africa

        長径 3mm
 ご承知のように
「ダイヤモンド(金剛石)」は
4月の誕生石

 国産標本で
1月〜12月までの
「誕生石セット」を
作ってみたい

 ダイヤだけは
購入しなければ・・・

自然銅
 (COPPER)
秋田県
尾去澤鉱山

         全体


         拡大

 樹枝状結晶
葉に相当する部分の
結晶は等軸結晶
特有の形

 2007年に購入した
同じような標本の
1/3〜1/4の値段

4. 特別展「世界・日本の偉人・・・・鉱物との意外な関係」

    2009年6月の特別展は、堀先生による「世界・日本の偉人・・・・鉱物との意外な関係」
   と題して、古今東西10名の偉人にまつわる鉱物(岩石)、書籍の現物とエピソードを紹介
   していた。

No 人 名 
(国籍)
 鉱 物 名
( 岩 石 名 )
「 書 籍 名」
  産   地 写      真 備  考
1ナポレオン1世
プリンス・ナポレオン
(フランス)
ユージアル石

(ナポレオン岩)

グリーンランド

コルシカ島

         略
  
 「ユージアル石」
は、ナポレオン3世の
息子・ジョゼフが
グリーンランド探検時に
採集したと考えられて
いる。
2ミケランジェロ
(イタリア)
(大理石)
カララ
          略
 ミケランジェロ自身
大理石の採石夫、運搬工
でもあった。

 現在でも、カララの大理石は
重要な輸出品

3平賀源内
( 日本 )
「物類品隲(しつ)」
江戸
          略
 彼の著書・「物類品隲(しつ)」
の中で、金石(金属・岩石)類
117種を紹介している。

 「水晶(精)」と「石英」の
誤った使い方などを指摘して
いる。

4モーツァルト
(オーストリア)
モツァルト石
イタリア
愛媛県

   イタリア・原産地標本


     拡大写真
  【赤褐色部分が本鉱】

 なぜ、モーツァルトの
名がイタリア産の新鉱物に
献名されたか疑問
 ”没後200年の記念の
年に発見”という漠然とした
理由しか見当たらない

 モーツァルトが秘密結社
・フリーメーソンの会員で、
彼の代表作「魔笛」には
その思想が込められている、
とされる。

5ゲーテ
( ドイツ)
ゲーテ鉱
 −
     略
 ゲーテの名は、ごくありふれた
鉱物の1つ、ゲーテ鉱(針鉄鉱)
として献名されているのはあまりにも
有名
6宮沢 賢治
( 日本 )
 オパール
   −
     略
 幼少の頃”石っこ賢さん”と
呼ばれた宮沢賢治は鉱物・岩石を
採集するだけでなく、自分の作品の
中に「オパール」はじめ各種の鉱物
を登場させている。

 一時、鉱物標本商になることを
真剣に考えたほどだった。

7柿本人麻呂
( 日本 )
 自然砒
 群馬県
     略
 人麻呂は、天皇家内の
勢力争いに破れ刑死したと
される。
 群馬県下にある
人麻呂神社の近くに
坑道が残されていて、
自然砒の鉱脈がある。
 人麻呂が、猛毒の砒素を
取り扱う立場にあった。
8僧 行基
( 日本 )
 水晶
 岩手県
 玉山金山
     略
 玉山金山は
天平年間、僧 行基に
よって発見されたと
伝えられ、僧が腰掛けて
休憩した「行基菩薩 腰掛岩」が
残っている。
9和田 維四郎
( 日本 )
 魚眼石
 新潟県
 間瀬

       魚眼石
 和田がドイツの大学に
寄贈した鉱物標本の1つの
魚眼石
 里帰り品
10ペリー
(アメリカ )
 黄鉄鉱
 東京都
 小笠原島
     略
 ペリーは幕末1853年
日本に開国を迫った。
 一行は、小笠原諸島に向かい
鉱物資源の調査を行い
黄鉄鉱を発見した。
 明治時代、この黄鉄鉱は
海外に輸出された。

 現在、立ち入り禁止

5. おわりに

 (1) 国際的なミネラル・ショーのもう1つの楽しみは、外国の人々と情報を交換できることこと
    だ。

    @ Ms.Hは、アメリカ人だが、もともとは日本人のようで、日本語でコミュニケーションが
      できる。
      以前、里帰り品の「市ノ川産輝安鉱」や「秩父鉱山の自然金」などを買ったので、
      今回も里帰り品があるか期待していたが、以前からあり既に持っている「荒川鉱山の
      三角黄銅鉱」と「ダンビュライト」だけだった。
      四方山話をしていて、お互いの年の話になり、同い年の”戌(いぬ)”だと初めて
      知った。Ms.Hは、「雰囲気でわかるのよネ」とのことだった。(相性が合うのだろう)

    A Petrov Rare Minerals のオーナーは、里帰り品や希産鉱物を持っているので、必ず
      ブースを覗いて見ることにしている。以前、「市ノ川の輝安鉱」を格安で購入できた
      ことはHPでも紹介した。

      彼が、湯沼の水晶洞を見学し、甲武信鉱山を訪れたいというので、湯沼鉱泉社長の
     住所を教え、湯沼鉱泉に宿泊し、案内する約束をした。

    B ”尾籠(びろう)”な話
       ”尾籠”とは、「礼儀を欠くこと」、「けがらわしく、人前で言うのを憚るべきこと」と
      辞書にある。現在、後者での使い方が多いようだ。

       2003年11月、長野県川上村にある「シオサブ澤源頭」で、水晶のBelowda双晶を
      国内で最初に採集したことをHPで報告した。

      ・2003年11月 ミニ採集会 -小川山の双晶を求めて-
       ( Mineral Hunting Tour in Nov. 2003
         Hunting Various Types of Twins at Mt.Ogawa , Nagana Pref. )

       その後、”Belowda”の日本語読みに幾通りか出ているのが気になっていた。

       私の読み方・・・・”ベローダ”
                  この双晶が最初に発見されたBelowdaはブラジルにあり、ポルト
                  ガル語圏なので、日本人になじみがある”ローマ字読み”すれば
                  間違いないだろう、と単純に考えた。
                  (その後、ポルトガル語辞典で確認したが間違いなさそうだった)

       別な読み方・・・・・”ビロウダ”
                  2006年4月の「ペグマタイト」誌77号に「小川山のビロウダ双晶」
                  という報文が掲載されている。

       現地の人がどう発音するかを知りたくて、スペルを書き、ブラジルMultigemas Ltda
      のMr.Fredericoに発音してもらった。

       私の耳には、”ベローダ”か”ベロゥダ”と聞こえたので、自分なりには”尾籠”な
      話には、決着がついた、と思っている。

 (2) 「モーツァルト石」
      2006年1月、鉱物同志会の新年会で堀会長から「モーツァルト石」の話があって間
     もなく、千葉県の石友・Mさんから原論文を恵送していただき、モーツァルト石について
     翻訳したものをHPに掲載した。

     ・モーツァルト石(Mozartite)
      ( Mozartite , Italy )

      白黒印刷の論文だったこともあり、どのような色なのかも全く分からなかったが
     今回、原産地の標本を間近にみることができた。
      しかし、どこが「モーツァルト石」なのか??

      モーツァルトは、秘密結社・フリーメーソンの会員だったらしい。フリーメーソンがどの
     ような目的、会員の構成で、どのような活動をしていたのか(しているのか)、私には
     解りかねる。
     ( ダビンチコードにも出てきたような気がするが・・・・・ )

      そんな折、別な趣味の「郵便切手」の雑誌を見ていると、ルクセンブルクからフリー
     メーソンに関する記念切手が1978年に発行されていると知り、さっそく購入した。

      
 ルクセンブルクにおけるフリーメーソンのグランド・ロッジ175周年記念
            【ルクセンブルク発行 1978年】

      切手の説明には、次のようにある。

      「 グランド・ロッジはフリーメーソン地区本部のこと。フリーメーソンの象徴「立方体の
       切り石」
とルクセンブルク市街を描く」

      ・ ルクセンブルクのフリーメーソンの地区本部の結成175周年を記念する切手が
       発行されその活動が公認され、「秘密結社」の性格を失っているのか、それとも
       切手を発行させる隠然たる力をもっているのか(天の声)?
      ・ シンボルが「切り石」とあり、フリーメーソンが石切職人の組合から発足した、という
       説を裏付けているようだ。
      ・ この切手は、オーストリア凹版切手彫刻の名匠・ザイデルの若き日の作品
        1966年、オーストリア国立印刷局に入局した彼は、1974年以降、ルクセンブルク
        切手を担当することになった。   などなど

        これらも、調べてみると面白そうだが・・・・・

 (3) 原典にあたる大切さ”
      2009年3月ごろ、和田維四郎著「宝玉誌」についてHPで紹介した。

      ・稀覯本 和田維四郎著 「宝玉誌」
       ( Rare Book " Precious Stone " by Tsunasiro Wada )

      この中で、尾崎紅葉の「金色夜叉」のなかで、主人公・間(はざま)貫一がお宮を
     足蹴する場面があり、「ダイヤモンドに眼が眩み・・・」と貫一が言った、と書いた。
      「金色夜叉」はページをペラペラめくった程度で、隅から隅まで読んでいないことに
     気付き、古書店で文庫本を買い、読み直してみた。
      新聞に連載したところ好評で、話が膨らんだためか、「前編」「中編」「後編」「続金色
     夜叉」「続続金色夜叉」「新続金色夜叉」と文庫本で600ページ弱のボリュームがあり、
     読み終えるのに半月余りかかった。

      「ダイヤモンドに眼が眩み・・・・」のくだりがいつ出てくるのか、心待ちにしながら読み
     進んだが、結局この台詞は出てこない。これは、舞台や映画のために後世脚色された
     台詞のようだ。

      この一事から、”原典に当る大切さ”を再認識し、平賀源内の「物類品隲」も古書店
     から取り寄せ、読み進めている。

      「水精(晶)」と「石英」を取り違えたのは、貝原(益軒)先生のせいかであるかのよう
     に源内は書き残しているが、私は違うのでは、と考えている。
      これについては、別な機会に報告したい。

6. 参考文献 

 1) 平賀 国倫編輯:物類品隲(しつ)  日本古典全集,日本古典全集刊行會,昭和3年
 2) 日本鉱産誌編纂委員会編:日本鉱産誌(BI-b) 銅・鉛・亜鉛,東京地学協会,昭和31年
 3) 浜口 乃二雄、佐野 泰彦編:ポルトガル語小辞典,大学書林,昭和49年
 4) 梅原 猛:水底の歌,集英社,1981年
 5) 尾崎 紅葉:金色夜叉,新潮文庫,平成16年
 6) 松原 聰、宮脇 律郎:日本産鉱物型録,東海大学出版会,2006年
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