2008年9月 北関東ミネラル・ウオッチング行

    2008年9月 北関東ミネラル・ウオッチング行

1. 初めに

   私のHPを見たり、産地情報を教えて欲しいなどでメールをいただいた皆さんと
  定期的にミネラル・ウオッチングを開催するようになって8年目を迎えた。
   常連だった皆さんの中には、@本人の事情 A家族の事情 B子供(本人)の
  鉱物離れ などで参加できなくなっている方もいる。

   古くからの石友・兵庫県のN夫妻は、@Aが重なり、ご一緒したのは2007年
  11月が最後になっていた。

   ようやく、本人の”事情”、家族の事情も好転し、今までのブランクを埋める
  べく、北関東の産地を2泊3日でご一緒した。

   福島県玉川村・・・・・・川辺鉱山
   福島県石川町・・・・・・黒江鉱山
   福島県石川町・・・・・・塩の平
   福島県石川町・・・・・・和久観音鉱山見学
   福島県石川町・・・・・・石川町民俗資料館見学
   福島県石川町・・・・・・猫啼ペグマタイト (猫啼温泉泊)

   福島県塙町・・・・・・・・矢塚の緑簾石
   茨城県常陸太田市・・小妻町貯鉱場
   茨城県常陸太田市・・小妻町希元素鉱物
   茨城県高萩市・・・・・・大能希元素鉱物(水戸市泊)

   茨城県城里町・・・・・・大正鉱山
   茨城県城里町・・・・・・高取鉱山・錫高野

   N夫妻が採集を希望していた @鉄電気石 Aモナズ石巨晶 Bリシア電気石
  などをはじめ 「鉄ばん柘榴石巨晶」 「フェルグソン石自形結晶」 「母岩付トパズ」
  そして「蛍石」のオマケまで採集でき満足したとのメールをいただいた。

   1日目の宿は、”痔症”に効能のある「猫啼温泉」で、豊かな湯量と落ち着い
  た雰囲気の宿では、秋の訪れを肌で感じながら、料理とワインを楽しんだ。
   2日目の宿は、茨城県庁脇のモダンな宿で、ラジウム温泉風呂で疲れを癒し
  最後まで『希元素鉱物』がついて回った。
   今回、燃費高騰の折、私の車に同乗してもらい、私のマンションから総走行距離
  500kmの久々の遠征だったが、疲れをほとんど感じなかったのはそれだけ楽し
  かった、ということだろう。
  ( 2008年9月採集 )

2. 第1日目

 (1) 新白河駅前で合流
    前日に東京科学博物館で開催されていた「エルドラド展」を見たN夫妻は、
   前日に福島県入りし、新幹線新白河駅近くのホテルに投宿していた。
    昔、『 白河以北、一山百文 』、といわれた時代もあったようだが、落ち着い
   た市街地で、夕食の場所探しには苦労したらしい。

    金曜日に山梨県から出てきた妻と千葉を発ったのが午前1時だった。適当な
   ICで東北道に乗る積りだったが下道が順調で、5時には白河に着いていた。
    ファミレスで朝食を済ませ、集合時間より1時間も早かったがN夫妻に電話
   すると朝食中とのことで、急かせるようになってしまった。

    ホテル前で集合し、再会の挨拶もそこそこに出発!!

 (2) モナズ石巨晶を求めて
      今回のミネラル・ウオッチング行で、N夫妻の希望の1つ「モナズ石巨晶」を
     求め、川辺鉱山を訪れる。
      今まで、岐阜県中津川で何回か一緒にトパズやサファイアを採集したときに
     ”外道”として、「モナズ石」が採集できた。数こそ多いものの、大きさは最大
     でも1mm程度、しかも結晶面が見られないカケラだけだった。

      川辺鉱山では既報のように、1cmクラス、しかも頭付き完全結晶が採れる
     こともある、と聞いてNさんの奥さんの眼が光っていた。

      川辺鉱山跡【Nさん撮影】

     土砂にまみれたズリ石(選鉱カス?)から希元素鉱物を探すのは困難なので
    ズリ石を土嚢袋に詰め、水場まで運んでパンニングした。

      パンニング風景

     パンニングすると希元素鉱物は真っ黒い電気石(一部はサマルスキー石と
    思われる)や赤〜赤黒色の鉄礬柘榴石とともに最後までパンニング皿の底に
    残るので、大き目の「モナズ石」はNさんの奥さんに進呈した。
     パンニング皿の底に、緑褐色の丸みを帯びた5mmほどの結晶が残ったが
    これがこの産地特産の「球状ゼノタイム」である。Nさんの奥さんも自力で採集
    できたようだ。

     【後日談】
     私が『精密パンニング』、と呼ぶ宿や自宅戻っての選別は、新聞紙などの
    上で乾燥させ、”茶こし”で篩いかけした後、顕微鏡の下でピンセットを使い
    鉱物種別に選り分ける方法で、場合によっては、漆器の皿などでもう一度
    パンニングし直すこともある。
     ( 茶こしの網目より小さな標本を集めても・・・・・・・・・ )

     先を急ぐ採集では、”三ツ岩岳の土嚢袋作戦”のように、自宅に持ち帰って、
    ジックリとパンニング・選別するのも良いだろう。

 (3) 鉄礬石榴石の巨晶を求めて
     私たちが次に向かったのは、過去に「鉄礬石榴石」の美晶・巨晶を採集した
    「黒江鉱山」跡だった。関西では、鉄礬石榴石の産地が少ない(ない?)ため
    N夫妻は良品を狙っていた。

     田んぼの見回りに来た地主の方がいたので、まず挨拶した。
     「何処から来た?」、と聞かれ、「神戸」「山梨」と答えると、私たちが遠方から
    来たことや、(老?)夫婦連れなので気を許してくれたのか、この産地について
    の昔話をしてくれた。

     @ ここは、「黒江鉱山」と呼ばれた。
     A 坑道があったが出水が多く、働いていた若い夫婦は朝4時に排水ポンプを
        動かし始め、9時ごろから坑内で働いていた。
     B ここでは、ピカピカの指輪に飾れるような「(鉄礬)石榴石」がいくつも採集
       できた。
        それらの多くは、昔、鉱物採集で訪れた人にあげてしまった。
     C 「モナザイト(モナズ石)」も産出した。
     D ここでは、「電気石」の良品も産出し、大きな母岩が「△△△」に飾って
       ある。

     「石を採らせてもらって良いですか?」、と尋ねると、快く許してくれた。ただ
    「掘った穴は埋めてくれ」、と注文があった。

     ここぞ、と思う場所を掘るがなかなか良品は出てこない。30分も過ぎたころ
    先ほどの地主の方が戻ってきた。「どうダ?」、と聞かれ、「駄目ですね」、と
    答えると、先頭に立って歩き出し、「この辺りを掘ってみろ」、とポイントを教えて
    くれた。
     騙された(失礼!)、と思って掘ったNさんの持つスコップに、”コロン”とした
    直径3cm(正確には29mm)の「鉄礬石榴石」があった。
     続いて、白雲母に伴う”ピカピカ”の「鉄礬石榴石」も出てきた。

      鉄礬石榴石【29mm Nさん採集】

     日ごろ、奥さんの後塵を拝することが多いNさんにとって、『欣快!!』のひと
    時だったようだ。

 (4) 塩の平の電気石を求めて
      国道118号線沿いのレストランで、昼食を摂り、「塩の平」の産地に向かう。
     私は忘れていたのだが、N夫妻と初めて知り合ったときに、「この産地の電
     気石を差し上げたようだ。
      多分、2000年ごろの採集品で、その頃は、”グズグズ”の塊状電気石の脈
     に部分的に”ピカピカ”柱状電気石があり、うまくすると頭付きもあった。
      以前は、整地され、まばらに草が生えている程度だったが、今ではススキや
     クズが背丈以上に生い茂り、産地に到達するのすら困難
      露頭は完全に土砂に埋まり、良品の期待も薄いので早々に撤退。

 (4) 石川町の鉱物資料・鉱山跡を訪ねて
   @ 「石川町立民俗資料館」
       ここには、石川町とその周辺で採集された岩石・鉱物が展示されており
      一見の価値があると思いN夫妻を案内した。展示内容は、数年前とほと
      んど変わっていなかった。
       Nさんの奥さんは、石川地方を代表する「鉄礬石榴石」や「緑柱石」の大
      きな結晶を食い入るように見入っていた。(魅入る?)

       ”アクアマリン”に見入る奥さん

   A 「和久観音鉱山跡」
        石川町では、昭和40年代まで行われていた珪長石の採掘場を産業遺跡
       として保存している。その1つに「和久観音鉱山跡」がある。ここには、露頭
       坑道などが遺されている。
        当然採集は出来ないので、見学だけで往時を偲んだ。

       「和久観音鉱山跡」

 (5) 猫啼地区の『アクアマリーン』
      1ケ月前、栃木県の石友・Sさん一家をここに案内したとき、奥さんが青緑
     色透明の宝石級緑柱石(アクアマリーン)を採集したのは既報の通りである。
      N夫妻が目ざすのもこれだった。しかし、世の中甘くはない! 表面採集では
     「雲母」や「塊状石榴石」を探すのが精一杯。ズリの土砂を、土嚢袋に詰め
     川まで運んでパンニングする作戦に変更した。
      パンニングしていると、Nさんの奥さんが「これが鉄コルンブ石ですか?」と
     パンニング皿の底から摘み上げた。1cm近い結晶で、コルンブ石ではない
     のはひと目で判った。ルーペで結晶形を確認すると、「フェルグソン石」で、
     四角錐状、頭がフラットな完全結晶だ。念のため、自作ガイガーカウンターを
     近づけてみると、”ピッ、ピッ、ピッ”と1秒間に2カウントくらいの強い放射能を
     示すので間違いない。

         
            採集風景            「フェルグソン石」
                              【Nさん奥さん採集】

      「精密パンニング」は帰宅してのお楽しみとして、第1日目の採集を切り上げ
     今夜の宿、猫啼温泉「井筒屋」に向かった。

 (6) 猫啼温泉の夜は更けて
      石川町の猫啼温泉は平安時代の女流歌人・和泉式部にちなむ伝説から
     その名が由来する、と宿の案内板に書いてある。

      『 和泉式部が、都に上る途上、石川に投宿した。可愛がっていた猫をこの
       地に置いていったところ、猫は式部を慕って啼き続け、憔悴しきって元気が
       なくなってしまった。
        ここから、
”猫啼”の名が生まれた。
        狩人が沢の水を汲んできて、お湯を沸かし猫を入れると、
”痔”を患って
       いた猫は元気になった。 』

        話の前半はともかく、後半は何とも色気のない話である。

       この日は3連休の初日とあり、宿は満員状態だった。われわれの部屋は
      値段の関係で旧館だったが、庭の眺めも素晴らしく、1泊2食付き、ビールを
      飲んでも1万円でお釣りがきたのには感激だ。
       ( インターネット予約で10%引きも大きい )

       部屋に着き、早速一風呂浴びることにする。早い時間なので広いお風呂
      には人影もまばらで、ゆったりと疲れた身体を癒すことができた。
       露天風呂からは、珪長石堀場があった「井筒山」が間近に見え、木々の
      葉先が薄っすらと紅葉を始め、一足早い東北の秋の訪れを感じた。

       風呂から上がり、今日の採集品を整理し終わると、夕食の時間だった。
      まずはビールで乾杯!! この地方の地の食材を生かした料理をいただく。

       猫啼温泉の夜は更けて

       夕食後、私たちの部屋に来ていただき、山梨県のワインを飲みながら、
      楽しい「大人の時間」を過ごす。
       この日、午前1時に出発した私たち夫婦を気遣ってくれ、早めのお開き
      となった。

3. 第2日目

 (1) 矢塚の「緑簾石」
      朝風呂を浴び、朝食を済ませ、2日目がスタートだ。最初の目的地・塙町の
     矢塚(長久木)の緑簾石産地を目指す。
      産地は、木々が大きく成長し、ズリは以前よりだいぶ狭まっていた。坑道は
     時々訪れた人が掘っている様子が見られるが、われわれは先ずズリの表面
     採集から始めた。持参したピンセットで、結晶面の見えるものを探すと1cm
     クラスなら頭付も何本か見つかった。
      また、”真っ赤な鉄(灰?)バン石榴石”の母岩付もいくつか採集できた。
      引き上げる前に、ズリの土砂を土嚢袋に入れ、近くの沢まで運び、パンニング
     すると、写真にあるように、小さいながら、透明感があり、頭付で”宝石級”
     何本か採集できた。

         
            採集風景            「緑簾石」
                            【Nさん奥さん採集】

 (2) 小妻町貯鉱場の「リシア電気石」
      今回のミネラル・ウオッチングの目玉の1つが、「リシア電気石」だった。
     妙見山が岩石持ち出し禁止になって7年になるが、「貯鉱場」は禁止区域外
     なのでN夫妻を案内した。
      最近でも訪れる人が絶えないようで、ズリの石は、下へ下へと移動している
     ようだ。眼を皿のようにしてズリの表面を探すと、透明感のあるリシア電気石
     が見つかる。
      Nさんの奥さんが採集したものは、一時行方不明になったようだが無事再
     発見され、写真が送られてきた。見ての通り、頭付、青色透明で、これまた
     ”宝石級”の逸品だ。

         
            採集風景              「リシア電気石」
                               【Nさん奥さん採集】

 (3) 小妻町の「希元素鉱物」
      N夫妻が欲しがっていた「鉄電気石」を石川では採集できなかった。そうなると
     もっとも可能性が高いのが、小妻の希元素鉱物産地である。8月に栃木県の
     石友・Sさん一家を案内して以来だが、誰も訪れた様子がなかった。
      電気石を含む脈を叩き、希元素鉱物を含む電気石を母岩付きで
     採集を試みる。周りに散らばった岩片や土砂は土嚢袋に入れて持ち帰った。

 (4) 大能の「希元素鉱物」
      小妻を後にして、希元素鉱物産地の1つ「湯平」を横目に見て、大能に向
     かう。まず、小妻での採集品を洗浄し、土嚢袋の土砂をパンニングする。
      「モナズ石」に混じって「球状ゼノタイム」、「フェルグソン石」などが見つかる
     が、帰宅後の「精密パンニング」に期待することにして、大能のズリに向かう。
      ズリの土砂を土嚢袋に入れ、沢まで運びパンニングすると、大量の「磁鉄鉱」
     に混じって「モナズ石」や「フェルグソン石」が見つかるが、細かい選別は帰宅
     後の楽しみとする。

       パンニング風景

      空の雲の動きが怪しくなってきたので、早々に切り上げ、高萩ICから常磐道
     に乗り、水戸IC近くの今夜の宿を目指す。

 (5) 水戸の夜は更けて
      茨城県庁近くのホテルに投宿。ラジウム大浴場で汗を流し、食事のために
     ホテルの外に出る。驚いたことに、近くには食事をする適当なところがないの
     だ。アチコチ探した挙句、ホテルの隣にある焼肉店に入った。
      まずは、生ビールで乾杯!!

      ホテルに戻り、N夫妻の部屋にお邪魔し、福島県の生酒を飲みながら翌日
     の作戦を練る。
      この日も早朝からの採集で疲れて早めに”バタンQ”

4. 第3日目

 (1) 大正鉱山の「錫石」
      6:45からホテルで朝食を摂り出発。熟睡していたので気付かなかったが
     夜半に雨が降ったようだった。
      水戸から高取鉱山を右手に見て、大正鉱山に向かう。檜林の中のズリを
     掘って母岩付きの錫石を探すが、なかなか良品は出てこない。
      それでも、Nさんの奥さんが、3mmほどの結晶が数個付いた標本をゲット
     して早々に引き上げた。

 (2) 錫高野
      仏国寺側から錫高野縦断を試みる。高取山の麓にあるズリで水晶に付いた
     トパズを探すが、水晶そのものが少ない。
      ついで、「蛍石」産地を訪れる、ここは、過去の産地になっているが、それでも
     ”透明””紫石”の母岩付き蛍石を採集できた。
      この3連休最後の産地、”大ズリ”でトパズを探す。トパズを含む可能性がある
     石英脈の入った母岩そのものが少なく、苦戦した。”もう駄目か”、と思った
     ころ、褐鉄鉱に汚れた大きな塊の表面に『庇面式トパズ』が付いている標本
     を採集し、奥さんへのプレゼントとした。

         
            高取山              「蛍石」産地

      
           大ズリ
                     採集風景

      私は、駐車場に引き返し、N夫妻と妻とは錫高野ゲートで合流した。

 (3) また会う日まで
      日帰り温泉「ホロルの湯」で汗を流し、N夫妻の荷物を宅急便で送り返す
     べく荷造りして、夫妻をJR友部駅に送り届けたのは、特急出発時間の15分
     前だった。
      またお会いできるのを楽しみに、お別れした。

5. おわりに

 (1) 北関東ミネラル・ウオッチング
      無事兵庫県の自宅に帰ったN夫妻から、何回かメールをいただいた。

     『 石の 産地別仕分けがすみました。
      泥を落とす度に ウットリと眺めてしまうので、ちっともはかどりません。
      当分楽しめそうです。

       だいぶチェックが進みました。川辺はモナズ石ざくざくです。(奥さん)
      産地にいっぱいあった、稀元素鉱物の放射線のおかげか、猫なき温泉の
      湯の霊験あらたかなのか、”事情”が本当によくなりました。
      もう大丈夫です。(Nさん)

       さて、休止していた鉱物採集活動、これを機会に再開、がんばります。 』

 (2) 秋の訪れ
      『地球温暖化』などと言われる異常な天候が続いているが、北関東の産地を
     回ると、萩、ホトトギス、吾も紅(われもこう)の花が咲き、アケビが大きな実
     をつけ、着実に秋が近づいているのを肌で感じることが出来た。

      これから本格的なミネラル・ウオッチングの季節を迎え、多くの石友たちとの
     出会いを楽しみにしている。

         
         小妻「ホトトギス」            錫高野「アケビ」
                      秋の訪れ

6. 参考文献

 1) 小関 孝治 et al :福島県石川町猫啼地区ペグマタイト鉱床調査報告
               地質調査所,昭和29年
 2) 長島 乙吉、弘三:日本希元素鉱物,日本鉱物趣味の会 長島乙吉先生祝賀記念事業会
               昭和35年
 3) 三森たか子:いしかわの 石の物語,石川町教育委員会,平成8年(1996年)
 4) 石川町観光課,歴史民俗資料館:石川の鉱物と岩石,同館,2005年
 5) 松原 聰、宮津 律郎:日本産鉱物型録,東海大学出版会,2006年
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