ミネラルマーケット・2005

          ミネラルマーケット・2005

1. はじめに

    東京新宿で国際的なミネラル・ショーが開催されるのに合わせ、アマチュアが自分の採集品を
   売る「ミネラルマーケット」が開催される。
    昨年初めて行って、「日三市鉱山のベゼリ石(荒川石)」の現物を手にとって見ることができ
   山梨県産の鉱物を中心に、20点近くの標本を購入した。その中に、山梨県の私が知らない
   産地の標本があり、昨年から今春にかけその産地を探し出し、購入した標本以外の鉱物も
   採集できた。
    ここでは、鉱物を購入するだけでなく、産地情報も仕入れることができ、今年も訪れ、次のような
   標本と情報を入手した。

   @絶産(採集禁止)品・・・・・・・茨城県山ノ尾の緑柱石、仏生寺の緑柱石
                      岡山県布賀鉱山の「逸見石」、栃木県文挟「塩素燐灰石」
   A山梨県産・・・・・・・・・・・・・・・鞍掛鉱山の輝水鉛鉱
   B著名採集者の標本・・・・・・・南部標本「高取鉱山のトパーズ」
   C採集見本・・・・・・・・・・・・・・・島根県古浦ケ鼻の「バビントン石と葡萄石」
                      岡山県大佐山の「母岩付きジルコン」、擬宝珠(ぎぼし)山の赤鉄鉱
                      岡山県高瀬鉱山の「灰クロム柘榴石」
                      兵庫県夏梅鉱山「紅砒ニッケル鉱」
                      長野県茂来山の水晶、富山県立山新湯の「魚卵状オパール」
   D産地情報・・・・・・・・・・・・・・・鳥取県藤屋の「紫水晶」

   ( 2005年6月 現金採集 )

2. 場所と規模

    昨年までは、JR秋葉原駅前の「ラジオ会館」が会場であったが、今年からJR飯田橋駅近くの
   「レインボーホール」の会議室が会場になった。
    10時30分開場とあり、昨年と同じ混雑を予想して10時前に到着すると、10名ほどが待っている
   程度で、開場間際に改めて行くと、列は20名程度に伸びていた。
    列の中に、石川県の石友・Yさんの顔を見つける。前日に「ミネラル・フェア」を見たそうで
   私と同じパターンである。
    10時30分キッカリに開場。並んでいた人々がドッ、となだれ込む。10m×30m程度の部屋に
   約10店ほどが、標本を所狭しと並べており、最初は立錐の余地もないほどであったが、30分も
   過ぎると潮が引いたようで、アチコチに隙間ができてきた。
    ここで、売られているのは、次のようなものであった。

   (1) アマチュアが自力で採集した国産鉱物や化石
   (2) 外国(中国など)産の鉱物
   (3) 文献・図書・標本ケースなど

    当然、国産標本のブースが黒山の人だかり、となり、外国産のコーナーは気の毒なくらい
   人気がありません。

3. 購入標本

 3.1 「あなたは、おもちですか?」
      「あなたは、おもちですか?」の鉱物50種+番外4種、合わせて54種のうち、持っていないものは
     7種であった。
      各ブースを丹念に見て回ったが、7種は見つからなかった。

 3.2 南部標本
      あるブースを覗いていると、ガッシリした標本箱に入った大ぶりの標本が目についた。
     標本ラベルを見ると「南部標本」とあり、その下からオリジナルの標本ラベルが現れた。
     そこには、次のように書かれていた。

      No   :322
      名  称:黄玉 Topaz
      採集地:茨城県高取鉱山
      採集者:南部 キ’
      年月日:昭29.3

            
          ラベル                   トパーズ
              南部標本「高取鉱山産トパーズ」

      南部標本の主、南部秀喜氏は明治30年(1897年)、元土佐藩(高知県)絵師の家に生まれ
     大正6年(1917年)高知工業学校採鉱冶金科を卒業、三菱生野鉱山に入社。爾来、佐渡、手稲
     尾去沢そして高取と三菱鉱業系の鉱山に勤務し、昭和45年(1970年)に退職した。
      この間、54年間にわたって氏が20数箇所の日本の代表的な鉱山から採集した3,150点の
     鉱物標本が南部鉱物標本と称されるものである。
      氏が亡くなる昭和47年(1972年)に前後して、小室 吉郎氏が自分の標本も加え南部・小室
     コレクションとして保存に尽力した。
      これらの標本の多く(2,604点)は、平成4年(1992年)茨城県自然博物館準備室に納入された。
     私が購入したのは、それに漏れたものと思われる。

      南部秀喜氏の鉱物採集の足跡は「南部鉱物標本解説」に、克明なスケッチや採集に至る経緯
     そして標本記載の形で残されている。
      これによれば、高取鉱山での黄玉(トパーズ)の採集経緯は、次のようであった。

     『 本鑛山ニテ黄玉ヲ産スルハ既ニ昔ヨリ知ラレタルモ之ニ付テ其産状等詳細ニ記載スルモノ
      無ク、更ニ本邦第一ノ和田標本中ニモ高取黄玉標本無ク・・・・・・・・・・・
       然ルニ、昭和24年8月現地ニ採集ヲ試ミ、終ニ之ヲ発見セリ。・・・・・・・・・・・・・・
       其後昭和27年11月ヨリ昭和29年3月マデ数回高取ヲ訪レ鋭意其標本ヲ探索セル結果
      実ニ興味ツキザル種々ノ産状ヲ発見、数多ノ標本ヲ採集シココニ高取産黄玉ノ産状ノ
      大略ヲ知ルニ至レリ。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

      南部氏が数回にわたる高取採集行の最後に得られた標本の1つだと思われます。

 3.3 国産標本
      今回購入した主な標本は、山梨県産を初めとする次のような標本であった。

    産地    鉱物 産状価格   備考
山梨県鞍掛鉱山
(駒ケ岳or金満寿鉱山)
輝水鉛鉱500円灰重石が有名だが
2004年に購入済
茨城県山ノ尾緑柱石3,000円採集禁止
茨城県仏生寺緑柱石800円絶産(?)
岡山県布賀鉱山逸見石1,000円採集禁止
栃木県文挟塩素燐灰石900円絶産(?)
島根県古浦ケ鼻バビントン石750円採集見本
島根県古浦ケ鼻葡萄石750円採集見本
岡山県大佐山ジルコン1,500円採集見本
母岩付き
岡山県擬宝珠山赤(鏡)鉄鉱1,500円採集見本
岡山県高瀬鉱山灰クロム柘榴石500円採集見本
兵庫県夏梅鉱山紅砒ニッケル鉱500円採集見本
長野県茂来山水晶1,500円採集見本
富山県立山新湯魚卵状オパール700円採集見本

 3.4 文献・標本ケース
      大ぶりのガラス蓋つき標本箱(1ケ300円)を5つ購入した。大昔に入手した有名標本を
     整理したいと考えています。
      長野県・川上村のYさんの”蝶”、”石器”標本を見せていただき、標本整理をせねば
     と遅ればせながら、考えました。

4. おわりに

 (1) 茨城県自然博物館に立ち寄り、「南部鉱物標本」のトパーズを見た。この日は、年に
    数回ある”無料入館日”とのことで、いつもより込み合っている気配であった。

     トパーズ群晶

     同館の収蔵品目録・鉱物 −南部・小室コレクション@−には、NK-250102はじめ
    高取鉱山産のトパーズが8点記載されている。
    (NK:南部・小室両氏の頭文字)
     内2点は”丸箱に○○個入り”とあり、明らかに分離単晶で、残り6点が”母岩付き(群晶)”と
    思われる。「南部鉱物標本解説」には18点の母岩付きが掲載されており、全てが博物館に
    納入されたのでもないようです。

 (2) ほとんどの鉱山が閉山した現在でも、「マーケット」には、それぞれの鉱山(採石場)の
    逸品が並んでいました。
     アマチュアとは言え、その採集ぶりは玄人はだしの方々が多いようです。
     これだけのものが採集できる背景には、
     @ インターネットなどの発達によって産地情報があっと言う間に広まる。
     A 自家用車の普及に加え、高速道路から林道まで整備され、産地へのアクセスが便利になり
       産地が近くなった。
      ことが挙げられます。

      しかし、それと同時に産地の荒廃、採集禁止など地元の反発も強まり採集マナーには
     気をつけねば、と自戒する昨今です。

5. 参考文献 

 1) 南部 秀喜:南部鉱物標本解説(復刻版),茨城県自然史博物館,平成8年
 2) 山田 滋夫:日本産鉱物五十音配列産地一覧表,クリスタル・ワールド,平成16年
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