平成13年平地学同好会研究発表会

平成13年平地学同好会研究発表会

1.初めに

福島県いわき市にある平地学同好会は1950年(昭和25年)に創設された、
日本でもその歴史において有数の地学同好会です。
私が甲府に勤務していた時に、地学会のメンバを竹森に案内した縁があり、また、いわき市は、
私が住むひたちなか市から、常磐道を使えば車で1時間の距離にある所から、私が茨城県に
転勤になると同時に入会しました。
毎年、12月には会員の研究成果を発表する機会があり、私は「鉱物切手の楽しみ」
と題して、発表させていただきました。
(2001年12月報告)

2.平成13年平地学同好会研究発表会

12月のはじめに、いわき市で研究発表会が開催され、約20名の会員が参加し、
”フタバスズキリュウ”の発見者である鈴木氏の司会で進行した。
司会の鈴木氏
会長挨拶の後、私を含めて5名の会員が発表した。
No1 「平成13年度定期巡検を振り返って」
No2 「鉱物切手の楽しみ」
No3 「いわき市石炭・化石館の教育施設としての20年」
No4 「たった1枚の古文書から」
No5 「平成13年度県外巡検について」

No1は、恒例になっている11月23日(祭日)の巡検(懐かしく感じられる言葉です。)
の結果について、Sさんが発表した。
No2は、最近、鉱物産地が荒れ、採集禁止の産地が増えており、地球にやさしい鉱物採集
として、私が鉱物に関連する切手などの収集品を紹介した。
No3は、いわき市石炭・化石館に勤務する発表者のNさんが、来館者への分かりやすい解説や
来館者の質問などにつて発表した。
No4は、平藩主であった安藤家の借用書の原文コピーと読み下し文を元に、その経緯などを
解説した異色の発表でした。
No5は、2001年8月18日〜19日まで実施した県外巡検「細倉鉱山と気仙沼周辺を訪ねて」に
ついて、19ページの論文をもとにO氏が発表した。
この巡検の、鉱物関連については、既にHPに掲載した通りです。

3.「鉱物切手の楽しみ」

私は、カラー印刷した8ページの論文をもとに発表した。
3.1 採集禁止情報
私が知りえた入山禁止や岩石の持ち出し禁止などの情報は下記の通りです。

(1)採集・入山禁止産地
・長野県和田峠の満バン柘榴石・・・・・営林署により採集禁止、始末書を書いた人もいる
・長野県栗生水晶山の毛鉱入り水晶・・・地主により採集禁止
・長野県栗生大理石採石場の灰鉄柘榴石・・地主により採集禁止
(2)採集・入山禁止
・岐阜県関戸川の黄玉(トパーズ)・・・・採集禁止と言われている
・茨城県山の尾の鉄バン柘榴石、アクアマリーン・・地元により採集禁止
・茨城県妙見山のリチア電気石・・・・・・村により持ち出し(=採集)禁止
・山梨県夜子沢の透石膏・・・・・・・・・県により採集禁止
・山梨県上佐野のクロム透輝石・・・・・・県により採集禁止
(3)有料
・長野県梓(甲武信)鉱山の日本式双晶、灰重石・・地元により採集禁止、
                        1,000円払えば入山可
                       「湯沼鉱泉」宿泊者は無料
・福島県宝坂のオパール・・・・・・・・・入山料5,000/10,000円払い採集
(4)許可制
・山梨県塩山市水晶山の草入り水晶・・・・事前に地主に採集許可を受け入山

これら以外でも、乙女鉱山や雨塚山のように産地の荒廃ぶりから、採集禁止が
懸念される産地もある。
3.2 鉱物切手の世界
(1)鉱物を描いた切手
「鉱物とは、天然に産する無機質で、物理・化学的にほぼ均質で、一定の性質を持つ
固体物質である。」と定義している教科書が多い。
そこで、化学組成と結晶構造から、15分類して見る。それらのいくつかの例を示す。

左 自然銀(ドイツ)   右:鋭錐石 (モナコ)

(2)「鉱物」「地質学」に関係する人物、教育機関などを描いた切手
鉱物に関係する人物は、理工学関係の人が多いのですが、ドイツの偉大な作家ゲーテは、
鉱物収集が趣味で、その功績を称える意味で「ゲーテ鉱」という鉱物があるほどで、
意外な人物が鉱物と縁があることに驚かされる。
コスト・キラーとして恐れられる(?)日産自動車のカルロス・ゴーン氏が
「鉱山学校」に学んだことを知って身近に感じた鉱物愛好家も多い筈です。

ピッチブレンド鉱からラジウム発見したキュリー夫人

(3)鉱物の探査・採掘・精錬・利用方法を描いた切手
鉱物の採掘〜精錬〜利用を産業の一分野として捉えて、その位置付けを理解できる。

左:地質調査(ヴェトンナム)中:パンニングと近代的採掘(ナイジェリア)右:宝飾の街・甲府(日本)

(4)切手や郵便物に押された消印・風景印
1)消印
切手は、発行され使われた時代(明治・大正・昭和・平成)がはっきりしている。
切手や封筒に押された鉱山に関係する消印の局名や日付をみれば、そのころ、郵便局を
持つほどに大きな鉱山町が栄えていたことを示している。
明治中期の代表的な切手である「小判切手」には、別子銅山や荒川鉱山など
著名銅山の消印が見られる。

小判切手と荒川鉱山の消印

2)風景印
風景印は、昭和6年7月に、逓信省が日付印を美しく見せ、併せて日本の風景を
紹介するため、名勝旧跡に因んだ図案の日付印を使用したのが、風景印の始まりである。
風景印は、郵政省を経て総務省となった現在でも引き継がれ、郵便局所在地の社会環境の
変化に応じて、図案が改正され、その形も提灯型やチューリップ型がでるなど、
ますます趣味化している。
鉱物や鉱山が関係する風景印の図案は、大きく次のように分類できる。
@その地方の有名鉱物……………山梨県甲府(水晶)
A鉱山とその関連施設……………茨城県日立(精錬所と鉄索)
               北海道室蘭(石炭積み出し桟橋)
B歴史的鉱山遺跡…………………新潟県佐渡島相川(佐渡金山と道遊の割戸)

日立鉱山の風景印

3)記念印(特印)
国家的な行事を記念して、特別な記念の消印を一定の期間使用することがある。
このときに使われる切手は、その行事を記念して発行された記念切手である
ことがおおい。
大正天皇の大礼(結婚)25周年を記念して発行された切手に石狩・美唄炭山の
局で消印したものである。
表は、大正天皇と皇后の肖像が入った絵葉書である。

日立鉱山の風景印

4)広告入り日付印
戦後の一時期、企業などの広告と日付を組み合わせた、「広告入り日付印」と
呼ばれる消印が使われた。
下は、静岡県浜松市にあった三平鉱山が昭和26年に使用したものである。
この鉱山が、何を採掘していたのかまだ、調べきれていませんが、
「躍進する!! 三平鉱山」の広告から戦後の復興を支えているのだという、
誇りと意気込みが感じられます。

三平鉱山の広告印

(5)鉱山、鉱物や博物館を描く絵葉書、写真
佐渡金山や九州の高嶋炭鉱など有名鉱山の観光土産用の絵葉書で、鉱山の施設、
採掘状況や産出量などが分かる。
博物館や大学の所有・展示鉱物で、その地方で産出した鉱物が分かる。

明治天皇院内銀山行幸

(6)鉱山関係者(鉱山主〜鉱夫)宛てあるいは差出郵便物
プライバシーの問題もあり、実物は紹介できませんが、鉱山主宛ての鉱業税の
納入督促状を見ると、鉱山(やま)で儲けた人はほんの一握りで、ほとんどが
損をしたことが分かる。
妻から鉱夫宛てと思われる鉛筆書きの稚拙な文字で書かれた「銭オクレ、
ヤヤ(小児)ビョーキ」の葉書を読むと、身につまされるものがある。

4. 蒐集について

2001年11月11日付日本経済新聞の文化欄に車谷 長吉(くるまたに ちょうきつ)氏の
「骨董について」が掲載され、興味深く拝読し、眼から鱗の想いがした。
氏の哲学として、『人間本来、無一物。蒐集ごとは、いくら所持金(時間)を
つぎ込んでも、最終的には満足できるということはなく、寧ろ飢餓感にさいなまれる。
さらに、自分の所有したものを他人に見せびらかしたくなる悪癖を伴う。』
私は、産地が荒れる原因の一つとして、人より良いものを採集したいと言う心理
(競争原理?)が働くと分析しています。
誰しも、大きくて、美しく、そして珍しい標本を求めて際限なくのめり込んでしまう
のだと思います。そんな訳で、地学会をはじめ鉱物のサークルでは、会員の蒐集標本
(採集・購入・寄贈)に優劣を付け、悪戯に蒐集熱を煽るような企画は、すべきではない
と考えている。

5.私の鉱物採集の楽しみ

私は、10年近く前から、鉱物採集にしろ何にしろ、「一物満足(いちもつまんぞく)」を
心がけています。
ある産地を訪れ、その産地の代表的な標本が採集できればそれで良し、何も採れなくても、
一緒に行った石友との出会いを喜ぶ、その姿勢をこれからも大事にして行きたいと
考えています。

6.おわりに

(1)年に1回の発表会で、私の場合研究成果と呼べるほどのものではありませんが、
纏めて報告することにより、あやふやだった知識を調べ直したり、体系付けたりと、
老化の進んでいる頭脳にとって良い刺激になった。
(2)発表会の後、ホテル・サンルートで、忘年会を兼ねた懇親会があり、
楽しいひと時を過ごすことができた。
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