2001年秋の採集会-梓(甲武信)鉱山の鉱物-

2001年秋の採集会-梓(甲武信)鉱山の鉱物-

1.初めに

長野県佐久郡川上村にある梓(甲武信)(こぶし)鉱山は、日下先生の
「鉱物採集フィールドガイド」にも取り上げられている通り、水晶の日本式双晶、
透明な方解石や柘榴石の巨晶をはじめ、各種の鉱物が採集できる。
しかし、ふもと一帯がきのこ山で、その権利を地元の某氏が買ったため、
鉱物採集が目的でも「入山禁止」になっていたのですが、きのこ山の権利を
「湯沼鉱泉」の社長が買い戻し、宿泊客は無料で、宿泊しない人は1人当り1000円
(子供500円)を払えば、入山できるようになりました
今回、2001年4月のゴールデンウイークに開催した採集会のメンバを中心に、
新たに千葉県に住む法学生のK君、Oさん父娘や私の甲府勤務時代の鉱物仲間Iさん
Yさんを加え小学4年生から50才代まで、(老)若男女13名が参加した。
採集会参加者【湯沼鉱泉社長を囲んで】
秋晴れの絶好の採集日和に恵まれ、梓(甲武信)鉱山の代表的な鉱物を一通り
採集できましたので報告します。
(2001年10月採集)

2.産地

141号線を佐久に向かって走り、JR最高地点の先で「川上村」表示に従い右折し、
三国峠に向かって走る。「梓川」の手前で右折し、町田市の自然休暇村を過ぎ、
橋の手前の路肩に駐車する。
ここから尾根を目指してまっすぐに登って行くと、大ズリ→緑水晶坑→ベスブ露頭
→松茸水晶ズリ→柱石露頭→緑水晶ズリ→灰重石坑道の順で、途中、途中で
採集しながら約4〜5時間かけて灰重石坑道まで登ります。
水晶坑道から上に登ったテラス(平坦部)に上のベスブ露頭から落とした分離結晶が
ある。
ここから左上に約150m行くと一面開拓畑状態の場所があり、ここが松茸水晶の
産地です。
ここから右に戻るようにして、先ほどのベスブ石のズリの上に約10mにベスブ石の
露頭がある。
ベスブ露頭から右上方向に踏み分け道を登ると、柱石の露頭です。
ここから、踏み分け道を右上に登り尾根を越えると緑水晶のズリです。
右に行くと方解石交じりのズリが落ちています。このズリの大元が、
灰重石の坑道です。
ズリが滑り、疲れがきていることもあり、ここの急斜面が一番きつく
感じられます。

3.産状と採集方法

ここには、ペグマタイト脈とスカルン鉱床がある。ペグマタイトの
代表である水晶からスカルンの代表の灰重石まで幅広い産出鉱物が採集でき
何回訪山しても、その度に新しい発見があって飽きない。
また、ここは、他の産地と違って、ズリ以外に露頭から直接採集できる
場所が多く、新鮮で大きな標本が採集できる。
ズリでは、ツルハシやクマ手を使って土砂を崩しながら、結晶を探します。
露頭では、大き目(1.5kg)のハンマとタガネで、目的の鉱物の周りを
ちょっと大きめにかきとります。
灰重石は、坑道の特定の場所ですので、ライトとミネラライトを駆使して
ポイントを探します。

4.産出鉱物

灰重石坑道や、ここまでくる間に採集できる主な鉱物は、順番に次の通りです。
(1)磁鉄鉱【Magnetite:Fe,Fe2O3】
緑水晶坑口の前に一面真っ黒なズリがあり、そこを掘ると、磁鉄鉱の塊があり、
空洞部分には、八面体の自形結晶が見られます。
この坑口付近で緑水晶が採集できますが、後で訪れた「緑水晶ズリ」のものと
比べると貧弱なのですが、10年くらい前は、ここの「米緑水晶」を採集して
喜んだものです。
磁鉄鉱
(2)ベスブ石【Vesuvianite:Ca19(Fe,Mn)(Al,Mg,Fe)8Al4(F,OH)2(OH,F,O)8(SiO4)10(Si2O7)4】
緑水晶坑から約70m上にズリ(最近できた)があり、さらにその上15mに
露頭があり、分離結晶や母岩付きのピカピカベスブ石が採集できる。
今回、千葉県からきたOさんの娘のHさんが、ピカピカの分離結晶を採集。
ベスブ石
(3)松茸水晶【Rock Crystal:SiO2】
松茸水晶は、平行連晶の一種とみなされ、藤屋や韓国産の紫水晶などに見られる。
松茸の軸の上に傘がかぶったような水晶で、別名「冠水晶」とも呼ばれています。
TV「何でも鑑定団」に出演して以来、みんなから”博士”と呼ばれる柳生君が
1cmクラスと小さいが、松茸水晶を採集。私も、1.5cmをしっかりゲット。
松茸とは逆に、先細りになった、「逆松茸」を何人かが採集。
(4)磁硫鉄鉱【Pyrrhotite:FeS】
六角板状の結晶が重なりあって、褐鉄鉱化したものを採集した。

磁硫鉄鉱【径10mm、褐鉄鉱化している】
(5)曹柱石【Marialite:(Na,Ca)4(Al(Al,Si)Si2O8)3(Cl,CO3)】
柱石には、Naに富む曹柱石とCaに富む灰柱石があり、甲武信鉱山では、両方が採集
できます。露頭の様子がすっかり変わっており、柱石を探すのに一寸手間取りましたが、
真っ白い方解石と母岩の境目を探すと見つかります。
(6)灰鉄輝石【hedinbergite:C(Mg,Fe)Si2O6】
ここの灰鉄輝石は鉄分が多いのか、真っ黒、平べったい四角柱状で産出する。
神戸大医学生のT君と初参加の法学生K君が相次いで良品を採集した。
K君は、鉱物採集が4回目で、露頭を初めて叩いて、方解石の中から3cmの結晶が
”ポロリ”と飛び出し、感激していました。
T君は、この直前に山道で踏み潰されそうになっていた冬眠(休眠?)状態の
”ヤマネ”を発見し、命を助けたことから、柳生君が「ヤマネの恩返し」と命名した。

灰鉄輝石【私の採集品】
(7)緑水晶
曹柱石露頭から上にあがり、小さな尾根を越えたところのズリでは、緑水晶の群晶や
分離した単晶が採集できる。かなりの確率で両錐の単晶も採集できる。
今回、手付かずと思われるズリから5cmの分離結晶や10cmを越える群晶を採集
緑水晶 群晶【13cm】
(8)方解石【Calcite:CaCO3】
灰重石の坑道の中には、厚さ数十cmの方解石脈が何本も走っています。
その一部を掻けば、透明で複屈折を示す標本が採集できます。
また、方解石脈の晶洞部分からは、方解石の自形結晶が採集できます。
坑道のズリでも大きな方解石が採集できます。
(10)灰重石【Scheelite:CaWO4】
緑水晶の日本式双晶のでる坑道の中で方解石に埋もれた結晶として、また
灰バン柘榴石や方解石を伴って産出します。
ミネラライトがあれば、難なく探せます。
白色色の下では、やや黄色味をおびた、白い8面体の結晶で、紫外線で青白く
蛍光を発するので、簡単に識別できます。また、暗い坑道の中では、持って
みて重く(比重6.2)感じるのも、鑑定のポイントです。
灰重石
(11)緑水晶日本式双晶【JapaneseTwin including Actinolite:SiO2】
ガサガサした感じの緑水晶の群晶を良く探すと平板の日本式双晶がV字形、
X字形やY字形をしたものが採集できる。
愛知県のK氏親子は、坑道の中で競争で採集し、7ケ採集した息子のS君に
今回も軍配が上がりました。
緑水晶 日本式双晶【2cm】

5.おわりに

(1)初めてや6ケ月ぶりにお会いする方が多かったのですが、皆さん
和気藹々(あいあい)と鉱物採集を楽しんでくれました。
(2)次々と採れる良品に後ろ髪を引かれ、あちこち長居をしたため、下山の
途中で日が暮れ、急遽ライトを点灯しての下山となりましたが、無事全コースを
回ることができ、参加者のご協力に感謝しています。
(3)夜は、「湯沼鉱泉」の温泉につかり、疲れを取ったあと、岩魚の生造り、
塩焼きをはじめ食べきれないほどの料理に舌鼓をうち、自己紹介や近況報告で
宴も盛りあがった。
また、今回は、持ち寄った重品を「標本玉手箱」(登録商標でしたら別な言葉に
代えます)として、配布する試みもありました。
(4)梓(甲武信)鉱山は範囲が広く、どこでもそこそこのもの
(他の産地なら1級品!)が採集できます。
今回も、一般的なルートをざっと回りましたが、「鉱物採集フィールドガイド」に
ある「川端下」に行ってみたいという希望もありますので、次回こそ計画して
みたいと思っています。
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