2009年6月 ミネラル・ウオッチングの鉱物

      2009年6月 ミネラル・ウオッチングの鉱物

1. 初めに

   私のHPを見ていただき、産地情報を差し上げたり、産地をご一緒した石友と定期的に
  ミネラル・ウオッチングを開催するようになって9年目を迎えた。

   2009年は例年より遅くに雪が降ったこともあり、「月遅れGWミネラル・ウオッチング」を
  6月初旬に開催したところ、『新産地』の発見もあり、延べ53名の皆さんと楽しい2日間を
  過ごすことができた。

   ミネラル・ウオッチングの間、皆さんを産地へ案内、ポイントの説明、採れていない人へ
  サンプルの提供、そして安全上の配慮、と自分のための標本を採集する時間はほとんど
  ない。
   そうなると、ミネラル・ウオッチングで私が標本を入手できる機会は、限られてくる。

    @ 産地の下見
    A 「オークション」と「玉手箱」
    B 産地のフォローアップ

   2006年6月初旬、「月遅れGWミネラル・ウオッチング」と題して、長野県と山梨県の産地を
  巡検した。この下見、当日の「オークション」と「玉手箱」そしてフォーローアップで入手した
  私のお気に入りの標本を紹介したい。

   これらのいくつかは、”絶産”や”新産”で、参加者のレベルが年々向上していることを
  うかがわせる。また、初めての産出報告となる標本もあった。
   ( 2009年6月 採集・入手 )

2. 下見の重要性

   2009年6月、ミネラルショーの会場でお会いしたW氏が、6月1日に山梨県の水晶産地に
  通じる林道に行ったら、ゲートが締まっていて通れなかった、と話していた。7月中旬まで
  通行止だった年もあった。
   私は、県の出先機関に事前に電話し、2009年は6月2日に開通することを確認していた
  ので、2日に妻と下見に訪れた。
   ( 妻は、産地との往復所要時間を計測する”モルモット”の役割が大きい )

   下見が大切な理由はいくつかある。

   @ 産地に行けるか?
       W氏の例のように、ゲートが締まっていて、歩くとなると、往復20kmもあり、不可能
      で、行き先を急遽変更しなければならない。
   A 安全の確認
       産地に行く途中の川の増水状況、倒木そして崖崩れなど、危険な箇所がないか
      万一、危険があれば、できる範囲で排除して置く。
   B 採集できるか?
       1年(数ケ月)前に採集できた産地が「採集禁止」になっていることもある。運よく
      採集可能であっても、その産地の代表的な標本が採集できなければ参加者は
      ”ガッカリ”するだろう。
       ”試し採集”でポイントと採集できるかを確認することも欠かせない。

       この日は平日でもあり、誰もいないだろうと思っていたら、あに計らんや、先客が
      ご夫婦を含め3名もいて少し驚いた。( 向うも、驚いたようだ )

       山梨産地の下見【2009年6月】

      ”試し採集”では、「日本式双晶」や「松茸水晶」など、この産地の代表的な標本が
     採集可能なことを事前に確認でき、自信をもって案内できた。
      ( ただ、採れる、採れないは、「運」、「努力」などいろんなファクタがあり、採れる
       保証はできない )

      ミネラル・ウオッチング当日、ここで東京・Kさん、愛知・Sさんの奥さんが「日本式双
     晶」を採集したことは、既報の通りである。

3. 「オークション」と「玉手箱」

   今回のミネラル・ウオッチングには、東は茨城県・Tさん親子、西は兵庫県・Nさん夫妻と
  広い地域の皆さんが参加してくれた。

   ・2009年月遅れGWミネラルウオッチング
    ( Mineral Watching , Jun.2009 in Nagano and Yamanashi Pref. )

    昔、独習した中国語の『東西』には、『物(もの)』の意味がある。長安の都に東市と
   西市があったことに由来するとされているが、私は次のように推理している。

    「商い」は、「顧客満足」だ何だかんだと格好をつけているが、要は「物を高く売って
   たくさん儲けること」だろう。
    数が少ない、珍しい品物は高く売れる。東にはたくさんあって安いものが西では珍しく
   高い、となれば東で仕入れ、西に行って売るのは商人なら誰でも考え付くことだろう。
   そんなところから、「東西」が「物」を表わすようになったのだろう、と思う。

    鉱物の世界も同じで、西では”ゴロゴロ”あるものでも東では珍しいものもある。
   当然、その逆のケースもある。

    今回の「オークション」と「玉手箱」でもいくつか気に入った標本を入手できた。その内の
   いくつかは、”絶産(産地消滅)”や松原先生の型録にもない”新産”だった。

4. フォローアップ

   ミネラル・ウオッチング実施後に、産地が以前に比べ荒れていないか、ゴミなどが捨てら
  れていないか、フォローアップを実施することがある。
   6月末、甲武信鉱山が初めてという長野県・Mさんをに案内するついでに、あるポイントを
  見て回った。翌日、湯沼鉱泉社長とも訪れたが、以前に比べ荒れた様子もなく、むろん
  ゴミ1つ落ちていなかったので、安心すると同時に参加者のマナーの良さに感謝した。
   ( 逆に、「灰重石坑道には、おびただしい量のゴミが廃棄されている」、と地元の石友
     小Yさんが顔を曇らせて、何度か話してくれた。私は知らなかったが、15年ほど前の
     「灰重石」ブームの時に押しかけたマニアの置き土産らしい )

       甲武信産地のMさん【2009年6月】

   この時の詳細な様子については、いつかHPで報告するつもりだ。

5. 採集入手標本

採集・入手
タイミング
鉱物種
(英語名)
産地  写   真    説     明
下 見 日本式双晶
( Japanese Law Twin
   QUARTZ )
山梨県・産地B
      横 9mm
 この産地のものは、
軍配〜ハート型で
単独で産出することが
多いようだ。
松茸水晶
( Scepter QUARTZ )
山梨県・産地B
      横 45mm
 松茸水晶が3本群晶に
なったもので、
今どきこのような標本が
採れるとは思っていなかった。

 妻の採集品

金紅石(ルチル)
( RUTILE )
板チタン石
( BROOKITE )
山梨県・産地B
 この産地の水晶の
母岩をなすカリ長石の小さな
結晶の間に、チタン鉱物が
あるのに、2008年秋に気付いた

 ここからの、チタン鉱物の
産出報告は初めてだろう。

 今回のミネラル・ウオッチングでも
注意深く観察することを
呼びかけたところ
兵庫・Nさんの奥さんから
「ありました!!」とメールを
いただいた。

 ○○○の正解は、ルチル
でした。

日本式双晶
( Japanese Law Twin
  QUARTZ )
山梨県・産地S
      拡大


    全体【横 63mm】

 この産地のものは、
蝶型で、大きな水晶の
柱面に族生する水晶の中に
混じって産出することが
多いようだ。

 この標本は、6枚の双晶が
確認できる

オークション そろばん玉石
/石英
( Chalcedony/QUARTZ )
山形県小国小坂町
        横から


     上から【径 23mm】

 この産地は、昭和31年1月
山形県の天然記念物に
指定された

 昭和42年、羽越水害の時
産地「十四ガ森」から流出した
ものの1つ

【採集不可能品】

 茨城・Tさん出品

フランシスカン石
( FRANCISCANITE )
埼玉県小松鉱山
        拡大


     全体【縦 30mm】

 Mn2+3(V,□)[(O,OH)3|SiO4]
の組成で、バナジウムを含む
希産鉱物

 新産で、松原先生の「型録」
には記載されていない。

 東京・Tさん出品

砂金
( GOLD )
東京都あきる野市
秋川(多摩川支流)

 東京都のしかも
都心から1時間の場所でも
砂金が採れる

 これだけの量を集めるのに
何日か通い、パンニング皿を
流して紛失するなど苦労した
と聞いた

 東京・Kさん出品

メタ砒銅ウラン
( METAZEUNERITE )
岡山県三吉鉱山
        拡大


     全体【横 40mm】

 1955年に三吉鉱山で
発見された原産地標本

松原先生の「型録」には
"META"がついているが
 加藤先生の「一覧」には
"META"がついていない
(索引には付いている)

 大阪・Oさん出品

5. おわりに

 (1) ミネラル・ウオッチングでは、ほとんど採集したものはなかったが、下見、「オークション」
    と「玉手箱」そして産地のフォローアップで、お気に入りの標本をいくつか採集・入手
    できた。
     それらの中のいくつかは、”絶産(産地消滅)”や松原先生の型録にもない”新産”で
    参加者のレベルが年々向上していることをうかがわせる。

 (2) 紫・松茸水晶産地の「チタン鉱物」は、初めての産出報告だと思う。紫水晶や柘榴石など
    綺麗なものや結晶が大きくて完全なものを追い求めるのも悪くはないが、小さなものや
    他の人が見過ごしているような標本にも眼を向け、記録に残して置くのが、本当の鉱物
    愛好家なのではないだろうか。

     「実体顕微鏡」を購入した石友が、『違った鉱物の世界が見えて楽しさが倍増した』
    と話していたのが印象深い。

 (3) もともと鉱物が目的でなく、植物が好きで山に一緒に行くようになった妻にとって、ミネ
    ラル・ウオッチングは、植物観察・採集の場でもある。
    今回も、某産地で変わった蘭を採集してきた。奈良・Y能楽師(でなくて、農学士)に
    よると、「一葉蘭」で、珍しいものらしい。
     山梨県にゆかりがあり、5000円札の肖像になっている樋口一葉にちなむ名ではなく
    葉っぱが1枚しかないことからそう呼ばれているらしい。

     兵庫・Nさんの奥さんによれば、『暑さに弱く、都会での栽培は極めて難しい』、らしいが
    何とか、根付いて欲しいと願っている。

       「一葉蘭」

6. 参考文献 

 1) 松原 聰、宮脇 律郎:日本産鉱物型録,東海大学出版会,2006年
 2) 加藤 昭:日本産鉱物分類別一覧 −無名会七十五周年記念−,2008年
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