栃木県唐沢鉱山の自然蒼鉛とホセ鉱

2002年3月唐沢鉱山の自然蒼鉛とホセ鉱

1.初めに

石友のTさんから、私のHPを見て栃木県の唐沢鉱山に行ったが、「唐沢(2)」の
砂防ダムまでは行けたがその先が判らないので、場所を教えて欲しいとのメールが入った。
予算と監査の仕事も山を越え、ウズウズしていたので、MさんとYさんにも声をかけて、
採集に出かけた。
今回の採集の本命は、小来川鉱山でしたので、唐沢鉱山の採集は、1時間足らずでしたが、
皆さん、1cmを超える自然蒼鉛や肉眼サイズのホセ鉱が採集できましたので、報告します。
(2002年3月採集)

2.産地

東北道鹿沼ICでおり、小来川に向かって走ると板荷鉱山で有名な板荷の集落の次に
木戸ケ沢の集落がある。バス停「唐沢」の約100m先を右に「林道唐沢線」に入る。
約1.5km行き、沢を横切ると2又になっていて、右を進むとすぐ「唐沢(2)」の
砂防ダムがある。この先左側の山側がズリAになっている。
2又に戻って、沢の上流に向かうと約300mで、橋の手前に駐車スペースがある。
ここに車を停め、沢を上流に向かうとすぐ2又になり、右の沢の右岸の山道を約200m行くと
ズリBに到着する。
(Tさんは、左の沢を行き止まりまで行ってしまったとのこと。)
ズリの周辺には、古いがしっかりした坑道があちこちに残っています。
唐沢鉱山ズリ

3.産状と採集方法

唐沢鉱山は、花崗岩の貫入に伴った、典型的な気成鉱床で、石英脈の中に、蒼鉛
(ビスマス)、モリブデン、タングステンなどの重元素を含む鉱物が採集できる。
ここと県道を挟んで南北に相対する板荷鉱山は、アルミニューム、硼素、フッ素など
軽元素を含む紅柱石、トパーズ、蛍石などが見られるようです。
ズリの表面やズリを掘り返して、酸化鉄で黄褐色に鉱汚した石英を探し、叩き割って、
破断面を見て、金属鏡面光沢の鉱物を探す。
輝水鉛鉱は、ズリの表面を探したほうが見つかる確率が高い。
灰重石が産出するとありますが、白い石英の中から探し出せませんでした。
唐沢鉱山ズリでの採集【Y,M,Tコンビ】

4.産出鉱物

(1)自然蒼鉛【Bismuth:Bi】
自然蒼鉛は、輝蒼鉛鉱を伴って産出し、はっきりしたヘキ開と太陽に向かってルーペで
見ると表面が紅〜紫色に変わるのが特徴です。
唐沢鉱山産自然蒼鉛
(2)ホセ鉱【Joseite:Bi4TeS2】
ホセ鉱は、蒼鉛とテルルを含む硫化鉱物です。硫黄(S)がセレン(Se)に置き換わったもの
をホセ鉱Bと呼ぶ。自然蒼鉛に比べ、黒っぽい感じが特徴です。
唐沢鉱山産ホセ鉱(A)
(3)輝水鉛鉱【Molybdenite:MoS2】
石英の空隙に沈殿したような形で産出し、ペグマタイト脈の中の花びら状の結晶とは、
一寸違い、最初、鏡鉄鉱(赤鉄鉱)と見間違ったくらいです。
唐沢鉱山産輝水鉛鉱(A)
(4) 鉄マンガン重石【Wolframite;(Fe,Mn)WO4】
石英塊に、黒色で金属光沢を持ち、へき開がハッキリしている鉱物が葉片状に入っている。
ズリにあるものは、真っ黒でボロボロになっているものが多く、”抜け殻”が見られる
石英塊もある。
鉄マンガン重石
この他、硫化鉱物では、黄銅鉱、黄鉄鉱、硫砒鉄鉱などが採集できます。
灰重石は、探せませんでした。(気づかなかった?)

5.おわりに

(1)産地への途中の林道で、自転車に乗った40名近い男女中学生の一団に出会い
ました。みんな、金槌をもち、引率の先生に伺うと、露頭での採集に行く途中とのこと。
このように、フィールドで実地の理科教育を受けられる生徒は、恵まれているし、引率の先生
の熱心さには、頭が下がります。
(2)唐沢鉱山は、その後、産地が荒らされた様子もなく、関東地方では珍しい、自然蒼鉛と
ホセ鉱が、今でも、確実に採集できます。
ビスマス(蒼鉛)というと、学生のころ、金属材料の授業で、ビスマス(蒼鉛)とカドミウムの
金属状態図を例に、2元共晶合金の勉強をした、30年前が懐かしく思い出されます。
(3)私のHPには鉱物産地を数多く、しかも詳しく紹介しているので、産地荒廃の
一因だといわれることがあります。
Tさんのように、私のHPを見ただけでは、産地にたどりつけない人を何人も知っているので、
この批判は当っていない、とTさんと大笑いでした。
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